月刊消防 2025/02/01号 47(02), 通巻548号 p70-1
大規模臨床研究
目次
はじめに
心肺蘇生後の低体温療法についてはこの連載で何度も書いてきた。20年以上前には中心体温を33度にすることが良いとされていたが、2013年に33度でも36度でも結果は変わらないという論文1)が出て、それからは「体温を冷やすこと」(低体温療法)から「体温を上げないこと」(平熱療法)へ目標が変化した。
この低体温領のについて、2019年からヨーロッパを中心とした他施設研究が行われており、現在はその結果がどんどん発表されている。大規模研究になると、これだけの論文がいっぺんに出てくる。
TTM2 Trial
研究名はTargeted Hypothermia versus Targeted Normothermia after Out-of-Hospital Cardiac Arrest (TTM2) trialという2)。日本語にすると「病院外心停止後の、目的とする低体温療法 対 目的とする平熱療法」となる。筆頭はスウエーデンの大学で、デンマーク、チェコ、アメリカ、フランス、オーストラリア、ニュージーランドなど約20の機関が参加する多施設研究である。
主研究:低体温と平熱で差なし
メインの結果3)は、2013年の論文1)と同じであった。
低体温療法では中心体温を33度に、平熱療法では中心体温を37.8度未満とし、患者はランダムに振り分けられた。対象患者は1891名で、解析に進んだのは600名。低体温療法294名、平熱療法は306人である。6ヶ月後、低体温療法の生存者は207名で70.4%、平熱療法の生存者は306名で71.8%。有意差はない。神経学的に良好な患者の割合は低体温療法では67.3%、平熱療法では66.0%でありこれも有意差はない。有害事象としては低体温療法では平熱療法に比べ不整脈発生の割合が優位に増加した。
予後予測ツール(1)CT
心停止により脳は虚血になり、次に細胞壊死が起こる。そのため、損傷部位をCTやMRIで画像として捉えることができる。この試験4)では心停止48時間以降7日以内にCTを撮影し、研究内容を知らさせていない7人の評価者によって定性的・定量的に評価された。対象患者は140例。年齢の中央値は68歳。男性が76%であり、全体の75%は転帰不良であった。評価者による定性的評価と定量評価のいずれもが100%の特異度で転帰不良を予測した。それに比べると感度はかなり劣っており、標準化された定性的評価で37%、脳のCT値(コントラストを見るもの)から測定した定量評価では4つの方法で30%から41%であった。定量評価は全自動1種類と手動2種類を用いたが、全自動と手動の間で有意差はなかった。
全自動でできるということは、医師がいなくても放射線技師が評価箇所を決めれば勝手に値が出てくることになる。筆者らはCTの定性的および定量的評価は心停止後の機能的予後不良を予測する信頼性の高い方法であり、心停止を扱うすべての病院で予後予測のためにCT定量化を行うべきだとしている。
予後予測ツール(2)脳波
脳波は読者諸兄にはあまり馴染みがない検査だろう。簡単に書くと安静時のアルファ波、活動時のベータ波が基本であって、それらより周波数が高い低い、波高が高い低いで異常を感知する。筆者らは心停止発生の96時間後に患者に脳波検査を行い、脳波異常が6ヶ月後の転帰と関連してるか調べた5)。被検者は873名。このうち283名(32%)は6ヶ月後には神経学的に良好な状態であった。脳波検査では543名(62%)で高度異常の所見はなく、255名(29%)で脳波反応は維持されていた。高度異常所見の欠如は良好な予後を予測すると仮定すると、感度は56%, 特異度は83%であった。筆者らはこの結果から脳波の反応性は予後予測に関与できるとしている。
特異度は83%あってほどほど高いと言えるが、感度は56%で、高度異常脳波が見られなくても約半分は自立生活不可能となる。脳波は(私のような素人にとっては)解釈が難しいので、スクリーニングで半数でも網にかかれば上出来なのかもしれない。
現症状評価ツール(1)認知症評価テスト
現在臨床の場で使われている二つの認知症評価テストの有用性についての論文6)では、モントリオール認知評価と記号数字モダリティテストの妥当性を見ている。この二つを併用することで認知障害を検知する感度が改善するとしている。
現症状評価ツール(2)合併症
現在の活動性について、病院外心停止後に回復した939人にアンケートを取り、807人から回答を得た。身体活動レベルについて、34%は低いレベル、44%が中等度、22%が高いレベルと回答した。身体活動レベルの低さをもたらしている要因は、肥満、運動障害、認知障害が関連していた7)。
文献
1)N Engl J Med. 2013 Dec 5;369(23):2197-206.
2)Am Heart J. 2019 Nov:217:23-31
3)Crit Care. 2024 Oct 15;28(1):335.
4)Intensive Care Med. 2024 Jul;50(7):1096-1107.
5)Resuscitation. 2024 Sep:202:110319.
6)Resuscitation. 2024 Sep:202:110361.



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