260123最新救急事情(264)クーリング:どこをどう冷やすか

最新救急事情

月刊消防 2025/05/01号 47(05), 通巻551号 p70-1

クーリング:どこをどう冷やすか

目次

はじめに

また夏が来る。今回は、患者を運ぶ立場ではなく、肉体労働者としてクーリングをどう行いどれくらいの効果があるかという話である。よくできた総説1)を見つけたのでそこから抜粋してお伝えする。

高温環境がなぜ悪いのか

高温環境下で長時間運動すると、心血管系の緊張が亢進し、グリコーゲンが枯渇する。これは疲労感となって自覚される。加えて知覚低下、中枢神経の機能低下をもたらす。暑いとボーっとするのである。

中心体温(心臓や脳の体温のこと)のわずかの上昇は認知機能を向上させる。これは脳血流の増加の結果と考えられている。しかし中心体温が37.8度に達すると認知能力の向上効果は消失し、これ以上の中心温度では逆に認知能力は低下する。過度の高体温によって脳血流は減少し始めること、神経伝達に障害をきたすことが可能性と考えられている。

外部冷却により、認知機能を正常に近づけることができる。冷やすところは頭だと思われるが、頭を冷やすことで認知機能の低下を防いだという報告と、頭や首を冷やしても認知機能に改善はなく高温環境全体を改善しなければならないという報告が存在しており、よくわかっていない。

短時間の運動なら高温環境は有利

有酸素運動と無酸素運動という言葉は聞いたことがあるだろう。この文献では76秒未満の運動は無酸素運動、76秒以上の運動は有酸素運動としている。高温環境に強い影響を受けるのは有酸素運動であり、無酸素運動は影響を受けないか逆に有利に働く。

短距離などの短時間かつ強い運動では、筋肉が温まるとパフォーマンスが向上する。自転車運動では、44度のお湯で足を温めると通常安静時と比較してピーク時の出力が11%増加したのに対し、18度と12度の水で冷却した場合はそれぞれ-12%、-21%出力が減少した。短距離走では暑い環境では涼しい環境に比べて100mおよび200mの時間が2%向上するとしている。この原因として代謝の賦活化に加え、筋線維の伝導速度が上昇することが考えられている。さらに、短距離走などの短時間高負荷の運動は、アスリートが適切に水分補給し、ウオームアップも適切に行える場合には高温や多湿の影響は受けない可能性が高い。しかし、運動が繰り返される場合はパフォーマンスは低下する可能性がある

運動中の冷却方法

高温環境が有利なのは76秒未満の短時間運動であって、普通の運動や労働では高温環境はパフォーマンスを低下させる。そのためたくさんの冷却方法が報告されてきた。

運動の真っ最中に冷却をしてその効果が認められているのは、以下の方法である。

・顔に風を送る

・摂取。冷たい液体もしくは氷水を飲む。メンソール入りとメンソールなしの両方の報告がある

・首と顔の冷却。冷却カラー、氷バック、水吹きかけの報告あり

・体幹の冷却。冷却ベスト、換気ベスト、氷ベスト

・手の冷却。冷却衣類や冷却装置を使う。

冷やす面積=冷える温度

冷やす範囲が広ければ広いほどパフォーマンスが向上する。冷却により発汗が有意に減少し、体温の上昇が最小限に抑えられる。研究では体表面積の15%を冷やすことで熱負荷が完全に解消されることがわかっている。熱傷の9の法則で考えると、胴体前側で18%、背中全部で18%、片足で18%、左右の腕合わせて18%である。

冷やす場所

胴体冷却については、冷却ベストを用い、体表面積の3.3%を冷却するだけで効果があるという報告がある。首を冷やすことについては、胴体を冷やすのと同じ効果という報告と、胴体全部を冷やしたほうがいいという報告があって定まっていない胴体全部よりも胸と腕の両方を冷やしたほうがいいという報告もある。

頭と首の冷却については、運動パフォーマンスの改善を見た場合、強力な効果が期待できる。手の冷却と比べた場合、生理学的もしくは心理学的な改善は同等であったものの、運動パフォーマンスでは有意な改善を見ている。頭と首を冷やすことは、それ以外の体表面(研究では体表面積の60%)を冷やしたのと同じだけのパフォーマンス改善を示した。これは頭と首には霊感に関する熱受容体が他の部分より高いこと、首の場合は大血管に近い部分を冷やすことがその要因として考えられている。

上肢や下肢を冷やすことも有効である。ただし、これらの部位は顔面や胴体よりも熱には鈍感なため、腕は冷えて気持ちいいが体の不快感は変わらないという報告もあるが、服を脱がずバケツに手足を突っ込む簡便さは他にはない利点だろう

まとめると、運動中に効率よく熱を下げるには頭と首が最も優れており、次に胴体、最後に手足となる。

顔に風を当てるだけでも良い

十分な効果が期待できる。顔を冷却すると、他の体表の同等の面積を冷却した場合の2-5倍の発汗抑制および熱的不快感の軽減がもたらされる。

サイクリングの実験では、顔に継続的に風を送るだけで疲労による運動終了までの時間が1.5倍となった。このサイクリングの実験では、冷たい液体の摂取、冷却衣類の着用、首の冷却カラー使用により運動パフォーマンスが9-18%向上したとも報告されている。

メンソールで口をすすいだり顔に塗ったりするだけでパフォーマンスは9%上昇するという報告もある。

運動前冷却

どうせ体温が上がるのだからあらかじめ冷やしておこうという研究もある。文献を読むと、最初から氷水に浸けたりしてギンギンに筋肉を冷やすのではなく、冷却ベストなどを装着して体温を上げないようにする試みのようだ。事前冷却により中心体温の上昇を抑え、運動パフォーマンスの低下を防ぐ。しかし前述したように体温が少し上がった方がパフォーマンスが上がること、強い冷却によって筋力の低下と神経伝導速度の低下をもたらす可能性があるので、まだ研究途上のテーマのようだ。

文献

1)Int J Environ Res Public Health. 2020 Feb 6;17(3):1031.

 
 

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