近代消防 2025/10/15 (2025/11月号)p54-6
目次
1.はじめに
当消防本部で行なっているメインストレッチャーの転倒防止対策を紹介します。きっかけは2年前、メインストレッチャー転倒事故が全国的に報道されたことによるものです。
メインストレッチャーの転倒事故は総務省ヒヤリハットデータベースによると、
・傾斜を考慮せず旋回
・段差、わだち、くぼみに足をとられた
・横からの突風により振られる
などの原因により転倒または転倒しそうになったと報告されているものです。
救急隊として活動している方なら少なからず経験したことがあると思います。常に注意しているとはいえ、現在でも転倒事故による報道は後を絶たない状況です。
2.ストレッチャーの転倒開始角度
まず、どの角度でストレッチャーが転倒するのかを調査しました。当消防本部が採用しているストレッチャーに60kgのダミー人形を載せて、ストレッチャーの高さを最高位、中間位、最低位としてそれぞれの転倒開始角度を調べたものです。001に示す通り、最高位であれば地面から96㎝、中間位は75㎝、最低位は31㎝となります。
測定結果を002に示します。最高位は転倒開始角度が約14°と小さく、最低位では約37°と大きくなる結果ではありますが、どの高さであっても転倒リスクが消える結果には至りませんでした。
また、測定結果とは別に、傷病者の体位や体重の違いなどによっても測定結果は大きく変わるものとなりました。

001
ストレッチャーの高さ

002
転倒し始める角度
3.転倒防止のための隊員配置
(1)従来の配置
ストレッチャー曳行時における救急隊の配置は、傷病者の頭側、足側、ストレッチャーサイドに隊員を配置して曳行している消防本部が多いのではないでしょうか(003)。また、救急標準課程でも同様に指導している消防学校が多いかと思います。
隊員配置でのストレッチャー曳行時での転倒ケースはストレッチャーサイドの隊員の反対方向で傾斜・段差・突風などにより、004の写真の矢印方向に力が働き、ストレッチャーが傾くと、保持することが困難となり、転倒リスクにつながると考えられます。
(2)当消防本部が試験的に実施しているストレッチャーの曳行方法
足側にいた隊員をなくし、ストレッチャーサイド両側に隊員を配置するものです(005)。これにより、横方向に力が働いたとしても、保持することが可能になります。実際にこの配置で活動した結果、曳行時の支障はなく、また横からの力に対して、必ず支えになる隊員がいるため転倒リスクを解消することができました(006)。
段差等を越えるなどストレッチャーの持ち上げが必要な場合は、一次的に頭側の隊員が足側に移動してストレッチャーを持ち上げますが、ストレッチャーサイドの両側の2名は変わりません(007)。
(3)メリット
救急隊員のみの配置変更であるため資器材の追加はなく、費用は一切かかりません。またすぐにでも実施可能です。
過去には当消防本部でもストレッチャーによる転倒事故が発生した事案はありました。ですが、この曳行方法で試験的に実施してから1年未満と実施期間は短いですが、転倒事故、転倒しそうになった事案は0件となります。
さらに試行開始時、傷病者役の隊員にこの曳行方法を体験してもらった結果、ストレッチャーサイドの両側に隊員がいることで特にストレッチャー旋回時の恐怖感が減少し、安心感が増したとの意見がありました。
(4)デメリット
ストレッチャーの両側に隊員2名分の幅をとるため、細い通路では今回紹介する配置で通行できない場合もありますが、そもそも細い通路でのストレッチャーの転倒は壁が支えとなり、転倒リスクは限りなくゼロに近いものと考えております(008)。

003
一般的な隊員配置

004
予想される転倒ケース

005
足側にいた隊員をなくし、ストレッチャーサイド両側に隊員を配置する

006
横方向に力が働いたとしても、保持することが可能

007
ストレッチャーの持ち上げが必要な場合は頭側の隊員が足側に移動

008
細い通路では両脇に配置できないが転倒する可能性も少ない
4.考察
ストレッチャー曳行時の隊員の配置は、救急標準課程のときから考えが固定されていたと思います。私自身20年以上救急業務をしておりますが、現在でもストレッチャー転倒事故の報道や報告が続いており、搬送される傷病者やその家族の不安感は解消されておりません。より傷病者の安全を確保できるように、今回紹介した配置変更を参考にしていただければと思います。
また、導入が進められている電動ストレッチャーについては、当消防本部では導入していないため、今後検証が必要となります。
今後もストレッチャー転倒事故を防止するとともに、傷病者の安心・安全な搬送に努めることが重要であると思います。

プロフィール
氏名 立 花 裕 樹(たちばな ひろき)
所属 盛岡地区広域消防組合消防本部
出身地 岩手県盛岡市
消防士拝命年 平成11年4月
救命士合格年 平成27年4月


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