近代消防 2026/01/15 (2026/02月号) p45-9
生コンクリートに埋まった事例
森元貴大
大曲仙北広域市町村圏組合消防本部
大曲消防署東分署
1.大曲仙北広域市町村圏組合消防本部の紹介
当消防本部は秋田県内陸南部の大仙市、仙北市、美郷町で構成されている(001)。管轄面積は2,128.67㎢で秋田県全体の18.29%を占め、秋田県で一番管轄面積が広い消防本部である。2署、8分署に救急車11台で運用している。管轄人口は114,078人、2024年の救急件数は6,425件であった。
管内に3次医療機関はなく、2次医療機関は3つあるものの、脳疾患、心疾患、重症外傷対応可能な病院は大仙市に1つあるだけである。そのためドクターヘリとの連携が欠かせない地域である。

001
大曲仙北広域市町村圏組合消防本部
2.はじめに
今回、労働災害によって救出まで長時間を要した事例を経験した。他職種連携と医師早期介入の重要性を再確認したので報告する。
3.事故概要
60歳代男性。
令和x年10月某日13時39分覚知。通報内容は「鉄塔基礎工事中、男性作業員が何かに挟まり脱出できない。叫び声が聞こえるので意識はある」という内容であった。通報者は事故現場から通報を受け事務所から連絡していたため、詳細な発生状況や体のどこが何に挟まっているのか把握していなかった。
直近分署の救急隊とポンプ隊、本署から救助隊が出動。第2報により概要を把握、「生コンを型枠に注入中に型枠が破裂、掘削部分と型枠に挟まり脱出できない」。このため現場到着前にドクターヘリ及び増隊を要請した。
事故現場全体の状況を002に示す。円柱の型枠に生コンを流し入れている際、型枠が破裂し、掘削部分(003)で排水作業をしていた60歳代の男性が漏れ出した生コンで胸あたりまで埋まった(004)ものである。
傷病者の位置を005に示す。傷病者は屈んだ姿勢でおり、土留めで囲われている部分と破裂し変形した型枠で下半身が挟まっていた。外部からは傷病者の手首あたりまでしか届かず、手を引いて救出を試みるも不可能だった。
接触時のバイタルサイン006に示す。主訴は息苦しさ、腰部の痛み、下肢の知覚鈍麻。脱出できないという恐怖や焦りも相まって傷病者はかなりの興奮状態であった。長時間の救出活動が予想されたため、呼吸抑制による増悪を考慮し酸素投与を開始した。
活動前半の時間経過を007に示す。生コンを吸い取るために工事施工業者が事故発生後すぐにバキューム車を手配していた。しかし傷病者周囲の生コンを吸い取っても円柱の型枠に溜まっている大量の生コンが土留め内にあふれ出てくるうえに、活動スペースがとても狭いため、救出活動は長時間化することが予想された。消防力のみでの救出は困難であると判断し、現場指揮本部に消防機関の他、現場臨場医師、工事施工業者が集まり協議をし、活動方針を決定した(008)。出動隊と活動人員の内訳を009に、活動後半の時間経過を010に示す。覚知から救出完了まで約5時間を要した。

002
事故現場

003
円柱の型枠に生コンを流し入れている際、型枠が破裂し、溢れ出た生コンに埋まったもの

004
顔が見える

005
傷病者の位置

006
接触時のバイタルサイン

007
活動前半の時間経過

008
活動方針

009
出動隊と活動人員の内訳

010
活動後半の時間経過
4.現場活動
生コンが固まるのを防ぐため、ポンプ隊で放水、撹拌を実施し、バキューム車2台で吸い取りを実施した(011)。また、型枠の破裂拡大により傷病者がさらに圧迫されないように、型枠をバックホーと角材で押し込み変形防止、安定化を実施した(012)。
看護師は013のような窮屈な姿勢で静脈確保を実施し、クラッシュ症候群疑いに対する大量輸液、鎮痛剤の投与などを行った。
生コンの吸い取りと平行して、救助隊はスプレッター等を使用して傷病者まわりの拡張(014)と、工事現場の足場を使って支点を設定しつり上げ救助(015)の準備をした。生コンがほぼ吸い取られた時点で救助隊員1名が土留め内に頭から侵入(016)し傷病者の両足を抜き出した(017)。傷病者は体動で激痛があるため、救出前に鎮静剤を投与されている。
日没後の現場の様子を018に、傷病者が挟まっていた箇所を019に示す。
気温変化と体温変化を020に示す。発生当初は約17℃と暖かい気温であったが、日暮れとともに一気に冷え込み、さらに傷病者は放水により全身濡れていたため、低体温症が懸念された。そこで秋田赤十字病院から陸路で輸液加温装置を取り寄せ、現場で輸液を加温し投与した。補液は救出までに1000ml+7%炭酸水素ナトリウム溶液150ml、救出から病着まで補液1000ml+7%炭酸水素ナトリウム150mlであった。輸液加温装置が届いてからは45℃に温めた生理食塩水を投与したが、室外では10分程度で15℃程度まで低下した。搬送中は45℃に温めた生食を適宜投与した。
生コンによる化学熱傷の恐れもあったため、当初は救出後、放水による水的除染を実施する予定だったが、低体温症状が出ていること、鎮静剤の投与により意識レベルが低下していることから、医師と協議し拭き取りによる乾的除染に変更した。その後救急シート、電気毛布、さらに毛布で覆い加温を実施しています。
車内収容時のバイタサインを021に、心電図を022に示す。陸路で秋田赤十字病院に搬送した。確定傷病名はクラッシュ症候群・骨盤骨折・多発肋骨骨折・低体温症で重症であった。

011
バキューム車2台による生コンの吸い取り

012
型枠をバックホーと角材で押し込み変形防止、安定化を実施

013
看護師による静脈確保

014
救助隊がスプレッターを用いて傷病者まわりを拡張した

015
つり上げ救助の設定

016
救助隊員1名が土留め内に頭から侵入

017
傷病者の両足を抜き出した

018
日没後の現場の様子。白いガウンが医師

019
傷病者が挟まっていた箇所

020
気温変化と体温変化

021
車内収容時のバイタサイン・車内収容時の心電図。洞性頻脈
5.考察
結果的に5時間という長時間の活動になってしまったものの、連携活動により傷病者を安全に救出することができた。生コンが活動障害となり消防力だけでは対応困難な事案であったが、バキューム車が早い段階で到着したこと、医師早期介入できたことで、それぞれの強みを生かせたのがその要因と考えられた。
日頃からドクターヘリ要請が多いため、顔の見える関係を構築していった結果、本事案でも円滑に活動できた。医師の早期介入により、クラッシュ症候群、低体温症、化学熱傷など起こり得る容態変化への対応が可能となった。
今回はたまたま業者間のやりとりでバキューム車が手配できたのは幸運であった。当消防本部ではコンクリートミキサー車事業所と「災害時における消防用水の確保に関する協定」を結んでいるが、建設業協会等との間でも「災害時における重機等による支援に関する協定」を検討する必要があると感じた。
今まで聞いたことがない発生機序での脱出困難事案を経験し、専門用語やその複雑さからどう表現したら良いのかわからず、後着隊へ無線で情報伝達するのが困難であった。現場画像は特定の指令課職員に私用携帯電話を通じて送っていたが、この方法ではそれ以外の隊員は見られない。この事例以降、ラインワークスを導入し情報伝達の改善に努めている。
6.ポイントはここ
医学的問題点は、筆者が挙げている通りの3点である。
1)クラッシュ症候群1)
この症例では輸液と炭酸水素ナトリウムが投与されている。現場輸液については尿量を確保するために必須でありカリウムを含まない生理食塩水が使われる。炭酸水素ナトリウムについては全身のアシドーシスが明らかな場合のみに投与されるべきであって、本症例では現場で投与する必要はなかった。
四肢の横紋筋が挫滅することによって起きる症状である。
2)低体温症
吊り上げ時の写真を見ると患者は埋まったままの服装とおもわれる。作業中は電気毛布などで保温したほうがよかった。
3)化学熱傷2)
セメントは強アルカリ剤である。セメントによる化学熱唱の特徴はゆっくりかつ無痛の皮膚壊死であり、症状は患部の発赤と熱感である。対処はまずブラシでセメントを払い落とし(セメントがが固まる時に熱を発生するため)次に大量の水で洗い流す。
文献
1)J Transl Med 2023 Aug 31:21(1):584
2)Cureus 2024 Feb 5:16(2):e53636

名前:森元貴大(もりもとたかひろ)
所属:大曲仙北広域市町村圏組合消防本部
大曲消防署東分署
出身地:秋田県美郷町
消防士拝命:平成23年
救命士合格年:平成31年
趣味:ランニング、サウナ


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