260920救急隊員日誌(259)床屋で思ったこと

救急隊員日誌
月刊消防 2026/03/01, 48(03)通巻561号 p78
チョキチョキ

今日は久しぶりに床屋に行った。

業務中は帽子やヘルメットをかぶっているとはいえ、住民の前に立つ救急隊員として、身だしなみは常に大切だと思っている。

椅子に座り、小気味よいハサミの音を聞いていると、ふと大学時代を思い出した。

あの頃、先生がよく学生の髪の長さや色を注意していた。

「救命士を目指すなら、まずは見た目から!」

当時は厳しいなと思っていたが、今ではその意味がよくわかる。

もし自分が倒れて、見上げた救急隊員の髪がボサボサで、不潔感があり、まして鼻毛が出ていたら……。

正直、自分の命を託すには少し心許ないと思う。

その視線に恥じない清潔感や誠実さを保つことは、信頼を得るための基本だ。

心理学の世界では、「人の第一印象の約8割は見た目で決まる」と言われている。

アメリカの心理学者アルバート・メラビアンの研究によると、

人が他者から受ける印象のうち、視覚情報が55%、聴覚情報が38%、言語情報はわずか7%しか影響しないという。

つまり、どんなに良い言葉をかけても、見た目の印象が悪ければ、その内容は届きにくい。

救急現場はその典型例であろう。

整った髪型や清潔な制服、落ち着いた表情――そうした“見た目”が、言葉よりも早く「安心して任せられる」という信頼を生む。

身だしなみは単なる外見ではなく、職業倫理の一部でもあると考えている。

現場では、傷病者の家族や通行人の目もある。

その一瞬の印象が「この人たちに任せて大丈夫だ」と思ってもらえるかどうかを左右する。

“清潔感”とは、単に汚れていないという意味ではなく、「丁寧に準備している人」という安心感の表れだと思っている。

髪だけでなく、爪の手入れも同じだ。

伸びた爪は患者を傷つけるだけでなく、剥がれたり、手袋を破って感染リスクを高めることもある。

爪を整えることは、相手と自分の双方を守る行動であり、“安全管理”そのものだ。

鏡に映る短く整った髪を見て、改めて気が引き締まった。

「信頼」は、髪の毛一本の乱れから崩れることもある――そんなことを思った床屋の午後だった。

見た目を整えることは、自分の心を整えること。

年齢を重ねれば、髪もいずれ薄くなるだろう。

それでも、身だしなみに気を配り、信頼される姿で任務にあたりたい。

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