021008全ては標準化へ

 
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021008全ては標準化へ

最新救急事情

全ては標準化へ

プレホスピタル・ケア領域で現在最も注目を集めているのが病院前外傷処置の教育プログラムであろう。私の住む北海道では当初の物珍しさはすでになく、都市・地方に関係なく着実に浸透してきている印象がある。これら教育プログラムは最重要の項目を短時間で見落としなく修得できることに利点がある。しかしその導入には「裁量が狭められる」「画一化されたマニュアルは多様な事例にはなじまない」という意見が必ず出されるのも事実である。
標準化には右に挙げた教育プログラムのほかにガイドラインやプロトコールといった文書が用いられる。今回はプレホスピタル・ケア領域にも溢れている標準化の動きを考える。

BTLSとPTCJ

世界的に認知されている病院前外傷治療プログラムであるBTLS (Basic Trauma Life Support)は1982年に開始され、1985年には初の世界大会を開催するほどの広がりを見せていた1)。日本では宇治徳州会病院の末吉敦医師の努力によって徐々に広がっていった。しかし日本でこのプログラムが注目されたのはPTCJ(Prehospital Trauma Care Japan)2)の出現によるところが大きい。中国地方の医師・救急隊員が中心となってBTLSを日本用にアレンジし作られたプログラムがPTCJであり、現在は各地で講習会を開催し普及に努めている。さらに、これら2つのプログラムを統合し日本における標準的なプログラムPTEC(PrehospitalTrauma Evaluation and Care)を確立しようという動き3)もある。これら教育プログラムはその内容とともにしばらくは目が離せない状態である。
私自身はこれら教育プログラムを受講しておらずPTCJのデモンストレーションを見ただけだが、迅速で無駄のない動きには感銘を受けた。一日も早く全国展開が終了するよう願っている。

救急領域での標準化

文献をあさっていると、何にでもガイドラインが設けられ、マニュアルとプロトコールが付いているという気になる4)。ガイドラインは指針という意味合いであり、マニュアルとプロトコールは手順であるが、いずれにせよ患者への対処を規定するものには変わりない。今年になって発表されたものでも、蘇生中止のガイドライン、重症脳外傷蘇生のガイドライン、胸痛患者のトリアージ方法など、ありとあらゆる手技・器材に標準化手順が提案されている。私たちが困るのは標準と名の付くものがいくつもあることである。
一つの対象には一つの標準プログラムで対処できれば言うことないのだが、なかなかそうはいかない。プログラム制作者の意図によって内容は異なってくるためである。心肺蘇生法の基本法とも言えるガイドライン2000でさえ、アメリカとヨーロッパで見解の相違が見られたことが明記されており、ガイドラインは全てにおいて強制力を持つものではないとしている。

標準化の難しさ

他の国で作られたガイドラインをそのまま自国に持ち込むことは通常できない。プレホスピタル・ケア領域では救急隊員の施行可能な手技が国によって大きく異なることが主な理由であるが、ガイドラインの背景となる歴史や文化が国によって異なるためである。
ヨーロッパ各国の専門家が集まって救急隊員の医療行為について検討しようという会議がオランダで開かれた。リストの中から選ばれた7人の専門家が高度救急体制(ヘリコプター使用可)/基本救急体制、海洋救急体制の有無に分かれて患者評価・病院搬送・三次救急病院選定について話しあった。その後23の「最悪」な症例についても検討を加えた。著者はこれら検討カテゴリーで専門家達がどれほど意見の一致を見るか観察した。会議前には専門家間で意見の一致を見たのは最高であったカテゴリーで45%,最低で8%であった。グループディスカッションの後には最高のカテゴリーで62%まで一致項目は上昇したが、最低では16%に留まった。ディスカッションによって内科的な救急症例では意見の一致する割合が上昇したが、外傷例ではディスカッションの効果はなかった5)。
この論文ではベルギーを中心とした狭い地域の専門家が集まったようである。それでもこれだけ意見が異なる。ましてや日本にアメリカ・ヨーロッパのプログラムを移植しようとするのは多大な苦労を強いられるのは当たり前かも知れない。また逆に、外傷治療でBTLSが広く受け入れられたのはそれだけ内容が充実していたからであろう。

標準化のあとには

標準化プログラムが成功するかは個人個人がどれだけそれを身につけられるかにかかっている。あるの病院では医療スタッフが全員2年間続けてAdvancedcardiac life support (ACLS:心蘇生の上級手技)を受講している。そこで一年間の蘇生記録を調べ、ACLSのプロトコールに従って処置を行ったかどうか確認した。記録では心停止患者は207人、そのうち78人が蘇生した。ACLSの規定に反した薬剤(炭酸水素ナトリウムと塩化カルシウム)を用いていた症例が35%あり、またプロトコールに忠実であっても逸脱していても心拍再開と生存退院の割合は変わらなかった6)。
この論文からは2つの問題点が明らかとなった。第一に使わなくなった薬をまだ使っていることから、一度身に付いた習慣(今回は使用薬剤)はなかなか変えられないこと。第二に蘇生率が変わらなかったことから、厳格にプロトコールを規定することに意味があるかどうかという疑問である。この第二の問題については、対象症例を万単位まで上げる大規模スタディか厳密な前向き研究が必要となり、膨大な費用と労力を要する。
それでも標準化プログラム(プロトコール)がEvidenceに基づいているのであれば、患者の救命率を向上させ私たちの労力を軽減させることが期待できる。各方面からより多くのプロトコールが提案され評価と淘汰を受けることが救急業務の改善に必要であろう。今後も標準化の努力は続く。

引用文献

1)http://www.btls.org/
2)http://fish.miracle.ne.jp/hidaka/
3)http://www.elsta-tokyo15thpcnt.com/PTEC/Shoukaibun.htm
4)http://www.guideline.gov/index.asp
5)Eur J Emerg Med 1998;5(3):329-34.
6)Ann Emerg Med 1995;25(1):52-7


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