通信指令員の口頭指導の効果

 
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ガイドライン2015では通信指令員の教育、特に口頭指導が強調されており、消防庁でも通信指令員の教育に熱心に取り組んでいる。この背景として、心肺蘇生法もAEDなどの資機材も薬剤もこれから大きな進歩は望めず、口頭指導くらいしか蘇生率の上昇に繋がる手段がないからだろう。旬な話題ではないが、口頭指導による心肺蘇生の効果に付いて論文を読んでみた。

今回紹介する論文では口頭指導群と自発CPR群で大きな差は付いていない。つまり、口頭指導さえすれば初めからバイスタンダーCPRを受けていた症例に追いつくことができる可能性がある、ということだ。

なお、群分けの名称が長くなるので、バイスタンダーCPRがない群を「放置群」、口頭指導のもとでバイスタンダーCPRを行った群を「口頭指導群」、口頭指導の前からバイスタンダーCPRを行っていたものを「自発CPR群」とする。

目次

比較対象が間違っている報告

今回口頭指導を題材にしたのは、九州大学のからの報告1)を目にしたからである。筆者らは通信指令員の口頭指導についての有効性は明らかでないとし、口頭指導群と自発CPR群の比較を行った。対象は2005年から2014年までの18歳以上の病院外心停止患者約118万人。バイスタンダーによる人工呼吸、心拍再開率、生存率を評価した。その結果、心拍再開率、1ヶ月後の生存率、神経学的な後遺症の少ない率の3項目で口頭指導群が自発群より有意に劣っていた。また119番通報までの時間が短いほど口頭指導による生存率が高くなった。

この論文は原因と結果が逆だ。口頭指導したから生存率が低くなったのではなくて、何もやってなかったから口頭指導したのだ。論文なら、CPRされず放置されていた患者と口頭指導でCPRを受けた患者を比べるべきだろう。他の論文は全て放置患者と口頭指導患者で比較している。

自発CPR群=口頭指導群の論文

九州大学と期間は短いものの同じデータを使った報告が国士舘大学から出ている2)。データは2008年から2012年の5年間、1万5000人を対象としたもので、AEDをつけたときに放電できる心電図波形となっているかどうかを検討している。口頭指導群でも自発CPR群でも放置群に比較して放電できる心電図波形を記録する割合は1.7倍になっていた。自脈再開は1.4倍、1ヶ月後に神経学的後遺症が軽微な割合も1.7倍であった。

自発CPR群>口頭指導群の論文

同様の報告が韓国から出ている3)。2012年から2014年までの韓国国内で起こった病院外心停止患者を3群に分けた。対象患者は1529名。33%が口頭指導群、17%が自発CPR群、残りがj放置群である。生存退院率は放置群を1とすると口頭指導群1.77, 自発CPR群2.86であった。この論文でも、口頭指導を受ける症例は生存率が低くなっていた。

自発CPR群<口頭指導群の論文

小児を対象にした研究でも口頭指導によってバイスタンダーCPRの率が高くなったと報告されている4)。対象は2008年から2010年までの18歳未満の小児5009名である。放置群と比較し口頭指導群が1.81、自発CPR群1.68でわずかではあるが口頭指導ありの方が1ヶ月後の生存率は良くなっている。

一般人は口頭指導がないとCPRはできない

人工呼吸は難しいので、口頭指導で大きな妨げとなる。人工呼吸ありとなしとでCPRの室がどれだけ異なるか検討した報告がある5)。18歳から65歳までの一般人60名を施術者として、マネキン相手にCPRを行った。60名を3群に分けた。そのままCPRさせるグループ、電話で口頭指導を受けて胸骨圧迫のみのCPRをするグループ、口頭指導を受けて人工呼吸と胸骨圧迫をするグループである。胸骨圧迫をしてない時間を計測するとともに、胸骨圧迫と人工呼吸の質を解析した。胸骨圧迫をしていない時間が最も短かったのが口頭指導胸骨圧迫群で胸骨圧迫をしていない時間の割合は21%、次に人工呼吸もする口頭指導群が49%、そのままCPR群が55%であった。胸骨圧迫の深さは3群ともほぼ同じで40mm, 1分間あたりの平均の胸骨圧迫回数が最も多いのが口頭指導胸骨圧迫群で65回、人工呼吸もする口頭指導群が44回、そのままCPR群が36回であった。

この論文からは、一般人は口頭指導がなければまともな心肺蘇生はできなことがわかる。それだけ口頭指導は重要なのだ。

文献

1)Hagihara A:Int J Cardiol 2018 Epub

2)Am J Emerg Med 2016;36:384-91

3)Resuscitation 2016;108:20-6

4)J Am Heart Assoc 2014;30:e000499

5)Eur J Anaesthesiol 2016;33:575-80

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