11102CPRファーストは無効

 
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CPRファーストは無効

 ガイドライン(G)2000では除細動は準備ができ次第放電していた。次のG2005では現着が5分を超えた場合にはCPRを2分間もしくは5クールを行った後に除細動を行うとなった。ところがG2010になって2分・5クールという表現が消え、「準備でき次第すぐに」放電することになった。これは放電の時期だけ見ればG2000に戻ったことになる。果たしてどちらが正しいのか。

 今回はAEDファースト,・CPRファーストの概念を消滅させる論文を紹介する。

何分でも同じ

 臨床系医学雑誌の最高峰であるNew England Journal of Medicineに2011年9月に掲載された論文1)を紹介する。カナダとアメリカにある10カ所の救命センターを無作為に2つに分けた前向きの研究である。対象患者は18歳以上で外傷性以外の心停止患者である。筆者らは患者取り付きから心電図解析開始までの時間を30秒から60秒で行う前期群と3分後に解析を開始する後期群に分けた。どちらの群も心電図開始の前にはG2005に則った心肺蘇生を行った。第1の評価点は身体機能が正常かほぼ正常の状態で退院することである。

 結果として、心肺停止で除細動を受けたのが9933名、このうち前期群は5290名、後期群は4643名であった。第1の評価点、つまり身体機能が正常かほぼ正常で生存退院した人数は前期群で310名(5.9%)、後期群で273名(5.9%)であり割合は全く同じであった。

どこをとっても差はない

 では詳細に見てみよう。前提条件については、年齢、性別、バイスタンダーCPRの率、現着時間などの基本的な項目に差はない。気管挿管や点滴などの二次救命処置は97%の患者が受けている。心電図解析時の波形も両群で差はなくて、心室細動もしくは心室頻拍が1/4、心静止が約半数であった。そのため除細動の放電を行えたのは両群とも40%に過ぎなかった。生存入院後の治療は低体温療法が45%、冠状動脈カテーテル治療が30%でこれも差はなかった。

 結果について、病院へ収容されたのは両群とも53%、その時点で自脈が回復したのは26%、心臓が止まらずに入院できたのが24%、生存退院が8%、と恐ろしいほど割合は一致する。さらにこの論文では身体機能を0(正常)から6(死亡)までの7段階に評価しているが、おのおのの段階に入る生存患者の割合まで一致している。

 患者をサブグループに分類し検討したものでは、無脈性電器活動(PEA; pulseless electrical activity)で前期群(2.4%)より後期群(3.9%)が1.5倍の身体機能良好率を示しているのが最高であって、心室細動でも心静止でも両群で差はなかった。ただPEAは症例数が少ないので全体の結果には影響していない。

放電は早いほどいい

 この論文では心室細動もしくは心室頻拍だった患者で、取り付きから心電図解析までの時間と身体機能正常回復率の関係をグラフとして表している。これによるとバイスタンダーCPRが行われた場合、取り付き直後に除細動を行えば25%の回復率が見込める。この割合は時間とともに下がっていき、3分では20%、4分では18%、5分では10%となる。バイスタンダーCPRが行われない場合にはすぐ除細動が行われた場合には15%、4分後も15%であり、6分後には12%へと低下する。心室細動でも心室頻拍でもない患者の場合はいつ除細動を行おうともバイスタンダーCPRの有無にかかわらず1%程度しか回復が期待できない。つまり心電図解析と放電はどんな患者であっても早いほど回復が見込めるのである。

G2010は「準備でき次第」

 G2005でCPRファーストの概念が導入されたのは2003年にJAMA(アメリカ医学雑誌)に発表された論文の影響が大きい。この論文では通報から現着5分を境として、5分未満なら今で言うAEDファーストを、5分以降ならCPRファーストを選択すれば蘇生率が向上するという結論であり、この結果がG2005に全面的に採用されて現在運用が行われている。しかし、G2005以降でこのCPRファーストが有効であったという論文は1編しか出ておらず、逆にCPRファーストが無効であるという論文はこの論文を含めると3編出ている。今日紹介した論文の筆者らは「短時間のCPRと早期の除細動が患者を救う」としている。

 G2005ではかっちりと決まっていたCPRファースト・2分間・5サイクルという記述はG2010では消滅している。この原稿が月刊消防に出る頃にもまだ救急隊員向けの蘇生指針は出ていないだろうが、いったいどういう表現になるのかとても楽しみである。何事も操法で考える救急隊員にとってはCPRファーストは考えずに済むとてもいい方法であったし、この5年間で身につけた操法を変更するのは大変だと思うが、頑張って変化を吸収して欲しい。

真理はどこにあるのか

 それにしても、現場での処置(現場ACLS)にしてもCPRファーストにしても、結局はG2000以前の形に戻っているのは、それだけ臨床研究が難しいということなのだろう。救急高度化と持ち上げられたアドレナリンも挿管もその効果は否定されている。ラリンゲアルチューブにも患者を救う力はない。除細動は誰でもできる。そうすると救命士なんか要らないし、単なる「運び屋」が最も患者を助けることになる。真理はいったいどこにあるのだろう。

文献
1)New Eng J Med 2011;365:787-97


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12.2.17/10:25 PM

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