手技124:Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ(第1回)トレーニングしよう

 
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基本手技

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Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ

第1回

トレーニングしよう

Lecturer Profile of This Month

田島和広(たじまかずひろ)

いちき串木野市消防本部  いちき分遣所

出身:鹿児島県いちき串木野市(旧串木野市)

消防士拝命 平成2年4月
救命士合格 平成12年4月
趣味 温泉・釣り



トレーニングしよう

~現場をマネジメントしPitfallを回避せよ~

“自分で考えて行動できているか”

現場というものは非常に難しく一律的な行動はできないものです。

一連の流れ作業でやっていては患者さんに利益はありません。

うまく活動するためにはどうすればいいのか?

それには“マネジメント能力”を高めるトレーニングをする必要があります。



はじめに
Introduction

みなさん、こんにちは。

今回から九州・沖縄企画を若輩ながら担当させていただきます、鹿児島県 いちき串木野市消防の田島和広です。九州・沖縄の救急現場から社会的問題までを“Change! Try! Avoid Pitfalls!ピット・ホールを回避せよ”と題して各担当者12名が掲載を予定していますので楽しみにしていてください。

まず、初回は私からスタートさせていただきます。


Pitfallを回避するために
To avoid pitfalls

Pitfall:
現場で起こる問題を回避したい

Solution:
現場をマネジメントせよ

☆トレーニングの目的

みなさんは、トレーニングをどのように位置づけているでしょうか?

写真1

トレーニングの最大の目的は「マネジメント」能力を養うこと

トレーニングの最大の目的は、救急活動を「マネジメント*」する能力を養うことです(写真1)。

トレーニングは個々のスキルアップ**もしくは維持のために行うと考えているかもしれませんが、実は救急活動のマネジメント能力養成の一部ということをご理解ください。

なぜなのかというと、処置ができるようになるかならないかで「マネジメント」が変わってくるからです。

*臨床能力のこと[一般的な意味合いと違います]

**物事を行うための能力を上げること



☆マネジメントの必要性

救急活動で求められるものは以下の3点があります。

  1. さまざまなシチュエーションがある=“状況評価能力”
  2. 知識・技術の裏付けが必要=“観察・処置能力”
  3. 得られた情報を分析する能力=“分析能力”

これらの能力を総動員し、コーディネーター*として現場を「マネジメント」することが、活動成功の鍵となります。

“思考・判断力”により最初の問題である「この疾患は何か」の答えを探します。そして、一つの問題が解決するごとに「ピットホールに陥らないよう、どのような対応をすべきか」と新たな問題が発生します。それを「観察・処置の連続」により次々と解決し搬送していきます。ここで情報に流されるままに対応していては傷病者のための活動はできません。自らが積極的に現場を「マネジメント」することによって傷病者の利益となる活動ができるのです。

*現場での調整役



☆トレーニングでのPitfall

現場活動はシミュレーションで訓練されます。もちろん重要で必要なことです。

写真2

学習者に「良かった」「悪かった」しか言えないのでは指導の意味がない

しかしながら、この訓練を成功させるためには、学習者にフィードバック*をかけて「なぜ、その観察・処置をしたのか」を尋ねることが必要です(写真2)。ただ単に「良かった(上手だった)。悪かった(下手だった)。」は大きな問題とはなりません。

また、シミュレーションでの問題は、「シミュレーションずれしている人」を作ることにあります。いわゆる「操法」となっていて、「とりあえず基本通りに」「これを習ったから」と形式的にやることが問題になってくるのです。

*受講者のバックグラウンドや状況に合わせ、受講者のスキルや知識を補完し、より効果的に学習してもらうこと



☆操法から考えるトレーニングへ

消防職員にとっては、良くも悪くも「操法」が基本になっており、頭で考える前に体が勝手に動くというのが少なからず身に染みついていると思います。初心者にとっては、ただ単純に「こうしなさい」的指導法は価値があります。初心者は生理学的・解剖学的根拠をもっての処置・観察は理解できないでしょう。このような方には、「操法」は非常に有効と思われます。

写真3

操法から脱却するには「考察しながら」行動することが必要

しかし、ある程度以上のスキルを持った人(救命士)にとってはあまりにもお粗末なことになってしまいますよね。考察をしながら根拠をもって処置・観察ができるというものが非常に重要になってくると思います(写真3)。これがピットホールを回避することにもつながります。

また、すべてのトレーニングにおいて指導者は、「教える」指導から学習者の学習意欲を高めるよう「学習者自身が気づく」指導へ転換することが大事です。指導者は“ファシリテーター”(Facilitator:促進する人)として“指導=指して導く”という立場で学習者に接してください。

今回は考えるトレーニングの一例として「オーラルトレーニング」を紹介します。



オーラルトレーニング
Oral training

Pitfall:
マネジメントがうまくいかない

Solution:
オーラルトレーニングで必要な情報を得る訓練をする

☆オーラルトレーニングとは

私たちは五感を通じて情報を得ています。ほとんどの情報は待っているだけで得られ、こちらから取りに行く情報は多くはありません。それでも活動できるのは無意識のうちに情報を選択・蓄積しているからです。この五感を排し、自分から取りに行った情報のみで活動を組み立てるトレーニングがこのオーラルトレーニングです。いままでは勝手に入ってきた情報は、このトレーニングでは指導者に要求することによって初めて得られます。学習者は指導者に質問することで情報を選択し、情報を蓄積し、情報に基づき判断した上で活動します。無駄な情報は時間の浪費に繋がり、情報の少なさは失敗へと繋がります。これにより、情報の選択と蓄積の重要性を理解させ、また判断の能力を養うのがこのトレーニングの目的です。

「オーラル」とは簡単にいうと、行動であらわすのではなく、「考えを言葉に出してあらわす」ということです。つまり「行動を声に出すことで、無意識を意識化する」のです。学習者が指導者に対し必要な情報を口頭質問することで頭の中に救急現場をイメージし、救急隊が現場でどのように傷病者の状況、状態を把握していくかを学習者自身が確認していく、会話形式で行うトレーニングです。

オーラルトレーニングは、マネジメントトレーニングとして行いますので、トレーニングであってテストや評価ではありません。新しい知識、技術を指導するのではなく、知識の確認と判断力を求める継続教育と捉えてもらえば気軽になるでしょう。



☆指導者の注意点

最も重要なことはビジョン*を示すことです。救急活動であれば

  1. 何の情報を得るのか?
  2. 情報をどう評価するのか?
  3. 評価結果から何をするか?

を理解させ口で表現させることがビジョンとなります。

指導者が提示する事例での状況をイメージすることも必要になりますので、トレーニングを始める前に頭の中をしっかりと整理しましょう。

指導者と学習者が、伝言ゲームにならないようにしないといけません。

 こここがしっかりとできなければ、到達度が難しくなり、学習者は何をしていいのかわからなくなります。これはどのトレーニングでも同じことです。

*ビジョン:必要な情報を集積し、総合的に思考・判断する能力を身につけること



☆学習者の心構え

臆病にならないことです。自分の行動(質問事項や観察・処置)を言葉にだすということは難しいことです。何気ない仕草でも文字または言葉にして表わすとなると考え込むことがあったり、一呼吸おいてしまいますよね。なかなかスムーズにいかないものです。ですから間違ったり、答えられないことがあったとしても不安にならずに、逆に気づくことにより救急現場に自信を持って臨むことが可能であることを認識として行えばよいのです。救急現場では失敗したりしたら大変ですが、トレーニングですので気軽にやっていきましょう。



☆トレーニング準備用品

(1) 準備資機材(写真4)

写真4

オーラルトレーニングで用いるもの

ア 椅子×2、机×2(または長机x1で指導者の手元が見えないように衝立をする)

イ トレーングシート(シナリオ)

ウ レポート用紙(普段使用しているプレホスピタルレコードでもよい:学習者用)

写真5

帰署途中で行うオーラルトレーニング。搬送した事例は良いシナリオになる


形式的に資機材としてあげてありますが、このトレーニングは、どこでもできるものです。例えば、病院引上げの帰署途中に現場のフィードバックとして救急車内でもトレーニングを行うことができます。これはタイムリーでよいシナリオになります。気象条件や入電時の患者情報、どの時点で何を疑って、どのような観察・処置をしたのか鮮明に覚えているからシナリオとしてよいものになるのです(写真5)。


シナリオを作成しなくてはいけません。
シナリオは気温・天候、湿度や患者の体位なども想定します。
なぜかというと、例えば意識消失があった場合、痙攣発作なのか熱中症なのか、一過性脳虚血発作なのか、症候性てんかんか低血糖なのか、色々なことが考えることができるはずです。学習者に明確な判断を可能にさせるため、すべてのものを設定していかなくてはなりません。ある意味ここでは、指導者の能力が問われるところです。シナリオを作ることにより、指導者自身もフィードバックできますので、ブラッシュアップとしてチャレンジしてみてください。


プレホスピタルレコードを使用しましょう。使い慣れているので傷病者情報を記載しやすく、現場での雰囲気をイメージしやすくなります。

(2) “演技をすることはない”

シミュレーションのように指導者が“患者を演じてくれる”と学習者が勘違いしやすいところです。指導者は第3者的に口頭で淡々と述べていってください。このトレーニングでは情報は学習者が指導者に要求するものです。指導者が患者を演じるとその様子から学習者に多くの情報を与えてしまいます。

(良い例)
指導者「これからオーラルトレーニングを実施します。私は傷病者、関係者、隊員、医師すべての役を行います。あなたからの質問のみ答えていきます。“演じる”ことはありません。」
「バットで殴られたような痛みと言っています。」

(悪い例)
「痛い。痛い。頭が割れるように痛い。助けて。」

シミュレーションのように演技したり感情を表現しません。

また、指導者自身がしっかりとシナリオをイメージしていないとトレーニングは台無しになってしまいます。

ここでは普段の救急活動の中で、見たり、聴いたりして得ている“情報”や、その情報から考察して、判断している“行動”を学習者が言葉で表現できることが重要になります。



☆トレーニング開始

さあ、いよいよトレーニング開始です。色々とウンチクが多かったと思いますが、トレーニングを成功させるためには必要なことです。今一度、指導者になる方は思い返してみてください。

(1)トレーニング法

写真6

1対1で向かい合い会話形式でトレーニングする

ア 指導者と学習者が1対1で向かい合い、会話形式で実施します(写真6)。

イ 内容は出動指令から搬送先医師への報告まで
1状況評価 2初期評価 3全身観察 4車内活動 5院内報告

ウ 制限時間は、10分-15分で行います。

エ 説明する(オリエンテーション)
学習者に次の説明をしてください。

  • あなた(学習者)はリーダー役(隊長)です。必要な情報はすべて言葉で聞いてください。必要な観察や処置、その結果から判断・行動した内容をすべて言葉に表してください。
  • 私(指導者)はすべてにおいて、あなた(学習者)の質問に答えます。情報として必要なものは質問してください。
  • あなた(学習者)は必要ならメモを取り、最後にレポートを書いて医師に報告し引き継ぎをしてください。

オ 状況設定カードを学習者に渡し、状況設定を読み終わったらトレーニングを開始します。

(2)学習者がうまくできるポイント

初めての時には指導者が学習者に伝えても良いでしょう

  • 状況・傷病者の状態をイメージする
  • 効果的な質問をする
  • 回答を注意深く聞く
  • 必要な情報はメモをとる
  • 1つ1つ疑問をクリアーにしていく
  • 傷病者の変化に注意する
  • 系統だったレポートを実施する

(3)指導者の注意事項

ア 最初に学習の目的(ビジョン)をしっかり提示します。【必要な情報を集積し、総合的に思考・判断する能力を身につける】ことを学習者に伝えます。

イ 学習者からの質問があったことだけを答えてください。また、質問に対し手元のシナリオを読みながらでもよいですが、的確に「間」を空けずに答えなくてはいけません。シナリオのポイントを押さえるか、何がどこに書いてあるかを確実に把握している必要があります。

ウ 基本的に学習者にはフォーローをしません。しかし、何を質問していいか戸惑っている場合は、ヒントを与え(質問事項を教えるのではありません)、学習者を導いていってください。



☆トレーニングのフィードバック

トレーニングが終了したらいくつか質問をしてみましょう。

  • 現場の印象はどうでしたか
  • どの時点で疾患を判断しましたか(キーワードは?)
  • 他に疑った疾患はなかったですか。疑ったのであれば、なぜそれが否定できたのですか
  • 行った処置に対して、タイミングはそこでよかったですか。もっと早くする必要性はなかったですか
  • 観察・処置で他にしていたほうがよかったものはありませんか

オーラルトレーニングは、必要な情報を集積し、思考能力を高め、さまざまな環境で対応能力を養うことを目標としているので、何の情報が不足していたのかを学習者が気付いてもらうようにフィードバックをしていかなくてはならないのです。また、学習者がなかなかうまくいかなかった場合は、シナリオを一緒に見ながら、必要だった情報や判断をフィードバックする方法もあります。その後、再度オーラルトレーニングを実施すれば、“コツ”をつかむことができるのはいうまでもないと思います。



☆まとめ

オーラルトレーニングでは、救急活動(マネジメント)で行ういろいろな行動(観察し情報を得て、評価し行動を起こす)をすべて口頭で表します。

頭でイメージしていることを口頭で表現することができるか?

実は、これが、オーラルトレーニングの根本的な目的になります。頭でイメージできていないことを実際に活動(行動)できるわけがありません。

オーラルトレーニングの最大の利点は、行動を起こした理由、すなわち、「思考のプロセス(過程)を知ることができる」という点にあります。

写真7

何を考え、何を予測し、だから行動を起こした…「思考のブロセス」を知ることはピットフォール回避へつながる

何を考え、何を予測し、だから行動を起こした・・・(写真7)。

行動を起こすまでの「思考のプロセス」を知ることで、根本的な不理解がどこで生まれているかということを知ることができます。なぜ、ピットホールに陥るのかといえば、思考のプロセスで何か間違いがあるから思い込むわけですよね?学習者にとっては、行動するまでのその思考の過程を理解できているか、思考の過程に根本的に間違いがあれば、何を学ぶべきかを知ることができ、指導者にとっては学習者を客観的に評価し正しく指示するための訓練として、オーラルトレーニングは非常に有効な手段です。

ぜひ実施してみてください。



ECG(心電図)解読トレーニング
Oral training for reading electrocardiogram

Pitfall:
心電図が読めない

Solution:
オーラルトレーニングを用いて相手に伝える努力をする

今度はオーラルでECG解読トレーニングをやってみましょう。

ECG解読は、みなさんも苦手ではないでしょうか?かくいう私もその一人です。

では好きになるというより楽しく学べるトレーニングを学習者同士でオーラルをやってみましょう。ここでのビジョンは「ECGの何を見るのか、何に気づかなければならないのか」という点です。



☆ECG解読ポイント

  • スピード(1分間に何回くらいか)
  • リズム(QRSがあるかないか)
  • P波有無
  • R-R間隔
  • QRS(広い/狭い)

以上5つを判断することです。実際は正常波形にみえても心拍数チェックをしなくてはならないのは、みなさんご存じのとおりです。

このトレーニングは、学習者がECG波形の特徴をつかみ、他の学習者が同じイメージを描き何の波形なのか伝えるオーラルになります。

同じイメージを描くことで得られるものは

  1. コミュニケーション能力(うまく伝わるか)
  2. ECG波形の解読ポイント能力

うまく伝わらない、相手が理解していない場合には“なぜ”なのか。”何を伝えればよいのか”をお互いに理解することができます。また、ECG波形のリズム名やリスクを答えてもらうことも重要になります。そうすることで、ECG波形の理解度が深まってきます。



☆準備資機材

  1. 椅子(人数分)
  2. 各種ECG波形
  3. 白紙


☆トレーニング法

  • 代表学習者一人とその他の受講生が相対します。
  • 指導者が代表学習者にECG波形を5秒?10秒程度(うまくいかなかった場合30秒程度)見て特徴をつかんでもらいます。
  • 説明する(オリエンテーション)
    ・学習者一人がECG波形のリズム名をいうのではなく、特徴となるものを伝えてもらいます。
    ・他の学習者は、何のECG波形なのかイメージして白紙にリズム名を記載します。
    (例)同調律波形の場合
    ・「速さは60回/分です。QRSは正常な形をしていて、リズムは一定です。P波はあり、P-R間隔は一定です。STは正常で範囲です(基線があり、基線より上にあります)」とリズムよく言っていってください。これでうまく伝わらないようでしたら、ポイントの整理をし、再度ECG波形を見てもらって実施してください。
    ・リズム名の答え合わせをします。正解の場合は、学習者(出題者)がECG波形のリスクを言って知識を確認する。


☆トレーニングのフィードバック

トレーニング終了したらいくつか質問してみましょう。

  • 波形スピードは、どのようにして判断しましたか
  • ECG波形を見た瞬間、特徴的なものは何でしたか
  • 12誘導にした場合、モニターをつける位置と色を言ってください
  • 詳しくみるためにどのようなモニターの位置づけがありますか
  • 観察・処置としては何がありますか(体位や酸素、処置に必要な資機材は)

このようなことをフィードバックに組み込むことにより、本来の緊急度を判断し、行うべき処置を口述できる能力、つまり緊急時における対応能力(マネジメント)の向上を目指します。



最後に
Writer’s comment

マネジメントとは、目の前にある多様な問題の中で、問題の本質を見つける作業でもあります。従ってマネジメントトレーニングは、救急活動のみならず、一人ひとりの問題解決能力をも高めることにつながります。楽しんでチャレンジしてみてください。

この原稿のためにご協力してくださったみなさんに感謝を申し上げ、

読者のみなさんに楽しんでいただけるよう企画・構成してまいります。



引用文献
救急活動マネジメント実践トレーニング 編著EMT研究会

協力
ジャパン・メディカル・レスポンス社長 渡部 須美子氏



シリーズ構成:田島和広 いちき串木野市消防本部いちき分遣所


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09.8.1/11:47 AM

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