手技125: 泣こよっか、ひっ跳べ(第3回)バイタルサイン測定

 
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泣こよっか、ひっ跳べ

救急の基礎を紐解く!? 初心者でもわかる救急のポイント

第3回

バイタルサイン測定

Lecturer Profile

徳永和彦
(とくながかずひこ)

所属:南薩地区消防組合大笠分遣所

年齢:47歳

出身地:鹿児島県南さつま市加世田

消防士拝命::昭和55年

救急救命士資格取得:平成11年

趣味:疲労止め(だれやめ=晩酌のこと)家庭菜園、木工と山菜採り


はじめに

第2回では、救急現場や傷病者からの視覚情報についてのポイントを紹介しました。今回は、私が救急現場活動の中で特に重要視している傷病者へのファーストコンタクトからのバイタルサインの測定ついて触れてみます。

救急活動のファーストコンタクト

shashin1ファーストコンタクト.JPG

救急現場から医療機関到着まで間、救急隊員は傷病者のさまざまな病態を適切に観察・判断し、適切な応急処置を行いながら、適切な医療機関を選定し、安全に搬送することが、重要な責務となります。救急活動の中でも、傷病者へのファーストコンタクト(写真1)から始まるバイタルサインの測定は、

shashin2病院収容まで継続観察する.JPG

医療機関に収容するまで継続して行われ(写真2)、活動方針や観察の絞り込み、応急処置や病院選定に大きく影響していきます。バイタルサインはそれぞれを数値で表すことで障害の評価をしています。バイタルサインが異常であるかどうかを正確に認識するためには、その前段階として、正常な状態を認識したうえで、観察することが求められます。

救急活動の中で気付いたこと

病院前の救急活動は、悲惨な事故現場や、悪天候の中や、照明のない夜間など、特殊な環境下に置かれて活動することも少なくありません。その活動中に行うバイタルサインの測定は、限られた時間の中で意識・気道・呼吸・循環・体温の観察・測定する必要があります。

ファーストコンタクト時には、生理学的所見を大まかに測定して、緊急度を推測し、簡易全身観察では重症度を考慮します。搬送中は継続的な観察と、病態に応じた詳細な観察によりバイタルサインの測定を行っていきます。

すなわち、バイタルサインの測定は、傷病者への接触から収容先へ搬送するまでの間、刻々と変化する状況に応じて、測定時間や内容を病態に応じた対応が必要とされます。

自ら乗用車を運転し消防署に来られた胸部痛を訴える傷病者を、掛り付けの病院まで搬送した経験があります。搬送開始時は胸部痛も和らぎ、バイタルサインも異常な数値は見られず、一過性の心筋虚血症状と推測していたところ、次第に胸部の違和感と呼吸苦を訴え、搬送先の病院へ到着する前には、突然の嘔吐から意識消失、CPA状態となりました。掛り付け医師の救命処置後に2次病院へ転送しましたが帰らぬ人となってしまいました。短い時間での症状の変化に観察もままならず、処置が追い付かない状態でした。

また、重症頭部外傷 の傷病者を1時間近くかかる3次医療機関への転院搬送に出場した私は、受講していた外傷アドバンスコースでの知識が役立ち、医師の指示を受け同乗した看護師に協力することができました。2次的脳損傷を考慮しての継続したバイタルサイン測定と観察により病態を把握し、目標の血圧等を設定、輸液管理により脳循環の確保と低酸素状態の改善に努めました。搬送途中での収容先医療機関へ詳細な病態の報告を行い、受入れをスムーズに運ぶ事ができました。この傷病者は、数ヶ月後に元気に社会復帰されたそうです。

呼吸・脈拍の観察・測定ポイント

1 呼吸観察

呼吸の観察には、呼吸の有無と性状、呼吸数、胸郭運動の形および左右差、呼吸様式、努力呼吸などが含まれます。

shashin3呼吸観察.JPG

呼吸が浅い、または呼吸がない可能性がある場合は、自分の頬部を傷病者の鼻や口に近づけ、胸郭の動きを目で見ながら、呼吸音を耳で聴き、呼気を頬で感じてしっかりと呼吸の有無を・回数・そして呼吸に異常があるかどうかを感じ、必要があれば胸郭に手を置きながら観察を行います(写真3)。

正常な呼吸、または深い呼吸をしている場合は、呼吸数の測定を傷病者に意識させないように、脈を観察するふりをして呼吸を観察すると、自然な呼吸数、呼吸様式が観察しやすくなります。

観察時間は、10~15秒で迅速に測定します。

2呼吸観察のポイント

1)正常な呼吸回数(/分)

成人12~20回(5秒~3秒に1回)
学童20回(3秒に1回)
乳児25~30回(約2.5秒~2秒に1回)
新生児40~60回(約1.5秒~1秒に1回)

2)代表的な異常呼吸

(1)下顎呼吸
心停止直後など下顎をわずかに動かしている呼吸様式で、横隔膜や肋間筋の運動は見られません。

(2)あえぎ呼吸
下顎呼吸と同じく心停止直後などに、あえぐように深い呼吸がみられます。

(3)起坐呼吸
呼吸困難の傷病者に多くみられる体位での呼吸様式です。仰臥位では呼吸困難がさらに悪化し、座位、半座位になると軽減するため、救急搬送時は配慮が必要です。

(4)腹式呼吸
下部頸髄損傷では、肋間神経が麻痺することにより胸郭が全く動かず、横隔膜による呼吸運動となり、外見上、腹部のみが上下する呼吸様式です。

(5)シーソー呼吸
上気道閉塞・狭窄の際の、呼気時に胸郭が上がって腹部が下がり、吸気時には胸郭が下がる呼吸様式です。

(6)奇異呼吸
外傷によりフレイルチェストとなった胸郭の一部が吸気時に陥没し、呼気時に突出するようになる呼吸様式です。

(7)クスマウル呼吸
糖尿病などによる代謝性ケトアシドーシスによる異常呼吸で、一般的に大きく深い呼吸が規則正しく続く呼吸様式です。

(8)チェーン・ストークス呼吸
浅い呼吸から次第に深い呼吸になり、再び浅くなって15~40秒間の無呼吸期に移行する周期を繰り返す呼吸様式です。

3脈拍観察・測定ポイント

shashin4測定部位の観察.JPG

1)脈拍の観察前に、透析患者のシャント側の肢や、外傷傷病者の損傷部位の上から測定しないようにするため、測定部位の観察をします(写真4)。

shashin5橈骨動脈の脈拍測定.JPG

橈骨動脈に2指(示指・中指)または(示指・中指・環指)の指腹を当て(写真5)、回数、だけでなく、不整脈の有無、緊張度、左右差などを観察します。脈拍数は、10秒法で迅速に測定します。

ショック状態など、橈骨動脈が触れない場合、直ちに総頸動脈もしくは大腿動脈で観察することが必要となります。

shashin6上腕動脈の脈拍測定.JPG

小児、乳児の場合は、上腕動脈(写真6)か
shashin7大腿動脈の脈拍測定.JPG

大腿動脈(写真7)で観察・測定します。

上下肢の骨折時などは、骨折部位より遠位の膝骨下動脈、足背動脈で循環の有無を観察します。

橈骨動脈で触れる(血圧80mmHg以上あり)
大腿動脈で触れる(血圧70mmHg以上あり)
総頸動脈で触れる(血圧60mmHg以上あり)

※ 初期観察での緊急度を評価するときに役に立ちます。

2)血圧測定のポイント

傷病者に血圧を測定する旨を説明し、了承を得るとともに、測定時に腕が締まることも説明します。

傷病者の普段の血圧を聴取し、血圧値の以上の有無を把握します。

血圧の正常値は収縮期血圧100~130mmHg、拡張期血圧50~80mmHgです。

透析患者のシャント側の肢や、外傷傷病者の損傷部位の上から測定しないようにするため、測定部位の観察をします。

マンシェットのサイズは傷病者の腕周りに合ったサイズを選びます。太過ぎるサイズの場合は測定値が低く、また、細いサイズの場合は高くなります。

マンシェットの中にあるゴム嚢の中央が上腕動脈のうえになるように巻きます。

マンシェットを巻くときは、肘窩から2㎝の間隔が空くようにします。

マンシェットを巻く強さは指2本ぐらい入る強さで巻きます。巻き方が弱いと測定値が高く、強いと低くなります。

shashin8触診法での血圧測定.JPG

触診法では(写真8)、橈骨動脈が触れなくなるまでカフ圧を上げ、その後ゆっくりとカフ圧を下げていき、脈を触れるようになったときが収縮期血圧です。
shashin9聴診法での血圧測定.JPG

聴診法では(写真9)、触診法での収縮期血圧の20~30mmHgほど上回るところまで上げ、その後ゆっくりと下げ、コロトコフ音が聞こえ始めたところ(第1点)が収縮期血圧です。引き続き下げていき、音が聞こえなくなったところ(第5点)が拡張期血圧です。

救急現場での測定は、10mmHg単位で測定すれば十分なので、正確さよりも迅速に測定することを心掛けます。

まとめ

救急現場では、適切な時間に適切な処置を施し、適切な場所(医療機関)へ安全に搬送することが重要です。傷病者はもとより、家族・関係者は一刻も早く医師の治療を望んでいます。限られた活動時間の中で、観察、バイタルサインの測定は最重要事項と言っても過言ではありません。

私は、ファーストコンタクトの時、意識・呼吸・循環の確認は自ら行い、呼吸音、心音を聴診器で聴診して、現状を確認するように心掛けています。傷病者の病態を大まかに把握しベースラインとして、活動方針を決めて、さらなる観察・処置につなげています。

バイタルサイン測定を手掛かりとして観察を進めて、生命を脅かす状態であるかどうか見極めることとが大切です。また、刻々と変化する病態から見えないところの緊急度、重症度のある症状を探り当てるため、迅速・的確なバイタルサイン測定が行えるように、日頃からの訓練が大切です。


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