180402物々交換

 
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救急隊員日誌

物々交換

2018年4月2日月曜日

「欲しいものはお金を払って手に入れる」私はホワイトボードにこう書いた。

椅子に座った若い消防士たち。賛成!と手を挙げるものもいれば、うーん・・。と考えている者もいる。私は少し考える時間を与えることにした。

 1月になって私の消防署にも新人が入ってきた。今回の配属目的は実地研修だ。この1ヶ月でいろんな消防署、出張所を順番に回ることになる。消防学校を卒業した20歳にも満たない彼らには一体どんな消防人生が待っているのだろう。研修が1時間ほど余ったので雑談をして時間を潰そうかと思い、皆を会議室に招き入れた。「初任給何に使った?」確かこんな話から始まったように思う。雑談のテーマは「お金」になった。給料をもらうようになって間もない彼らは、どのようにお金を使ったら良いかまだわからないらしい。

 『欲しいものはお金を払って手に入れる』多くの人が持っているこの考え方は、私の考えている欲しいものを手に入れる方法とはちょっとずれている。「欲しいものを手に入れる方法の基本は、物々交換じゃないかな・・。」今どき物々交換と言われてもピンとこないだろうか。詳しく説明すると『相手の持っているものの中で自分が欲しいものと、自分が持っているものの中で相手が欲しがるものを、お互いがちょうどいいと思う量で交換している』ということである。

 確かにお金を払えば欲しいものの多くは手に入る。ただ、私のこの解釈を理解すれば、それは単なる一つの方法に過ぎないと言うことがわかってもらえるんじゃないかと思う。私の説明に合わせて考えてみると、『欲しいものをお金で手に入れる』という行為は、こんな風に表現できる。『相手の持っているものの中で自分が欲しいものと、自分が持っているものの中で相手が欲しがる“お金”とを、お互いがちょうどいいと思う量で交換している』

 「もし君たちが、欲しいものを手に入れる方法として“買う”以外思いつかないなら、君たちが持っているものの中で相手が欲しがるものが“お金”だけであるということを無意識のうちに認める生き方をしているということになる」。だが私は「そうは思わない」と話し、「君たちにはお金だけでなく、もっと素晴らしいものが、相手がどうしても欲しいというものがたくさんあるはずだ。消防で働くということは、『消防が持っているものの中で自分が欲しい“お金”や“安定”、“かっこよさ”と、自分が持っているものの中で消防が欲しがる“労働力”や“時間”を、お互いがちょうどいいと思う量で交換している』ということになるだろう。しかしもっと深く考えてみると、消防が持っているものはお金や安定、かっこよさ以外にもたくさんあるはずだし、同様にみんなが持っているものの中で消防が欲しがるものは、時間と労働力以外にもたくさんある。私は先輩として、“みんなが持っている素晴らしいもの”“他の人が交換したがるもの”にたくさん気づいてもらえるようにこれから頑張りたい」と伝えた。「もしそれができれば、みんなは消防人生において欲しいものをどんどん手に入れることができるようになるはずだ」とも。

 「昨日さ、会議室で何話してたの?」勤務明け、屋上でタバコを美味しそうに吸う上司と話をしていると、一生懸命ホースを持って走っている新人消防士の姿が見えた。彼らの持っている“素晴らしいもの”は何なのか。私は、時間をかけてしっかりみていきたいと思った。

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