131114秘密の旅行

 
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131114秘密の旅行

作)ゆうたん

 私の住む地方は観光地ということもあり、時には驚くような傷病者に接することもある。

 ある夏の日のこと。隣町で登山中に怪我をした男女がいると無線が流れていた。隣町には登山客も多い山があり、シーズン中には遭難者が発生することもある。重症者が2名であれば応援要請がくるだろうと耳をそばだてていたが、どうやらかすり傷程度のようで救急車の必要も無さそうな様子であった。しかし、警察官が臨場していたり怪我の程度の割に大事になっているような内容に怪訝な想いを抱いていた。

 数十分後、その現場への応援出動要請があった。20代男女のうち1名を搬送して欲しい、怪我の程度は軽いとの内容だ。「軽症のはずなのに、何故?」という疑問が拭えないまま現場へ向かった。

 現場へ到着すると警察車両が複数止まっていたり、やや物々しい雰囲気になっている。数十分前に先着している救急車はまだ現場に留まっており、傷病者がその中にいるとの情報を得て中へ乗り込むと、軽装の若い男女が座席に腰をかけていた。

 見たところ明らかな外傷も認められず、無線の情報通り擦過傷程度のようである。協議の上、女性の搬送先がすでに先着隊によって確保されているとのことで男性を搬送することとなったが、なんと一緒にいた女性と別の病院へ搬送して欲しいという。女性と同じ二次医療機関への搬送を考えていたので、病院選定に苦慮することとなった。

 観察をしたところ、膝に擦り傷がある他に異常は無くバイタルも安定していた。怪我の状況を聴取すると、昨日から登山しており一晩を山中で明かしたと言う。下山中に彼女が沢で転倒したそうで、「自分は大丈夫なので彼女を病院で検査して欲しい。」と訴えていたが、別々の病院へ搬送して欲しいと言うので、つい「どのようなご関係なのですか?」と尋ねてしまったが口を噤んでいた。

 事故状況が今一つはっきりせず、男女の関係も不明確で搬送先選定に苦慮していたこともあり、警察に詳しい事情を尋ねて納得した。

 二人は所謂ダブル不倫の関係にあり、当人達は軽くデート気分の登山旅行だったようだが、それを知った女性の姉が駆け落ちや山中で自損行為に及ぶことを心配し家族に相談。女性の家族が警察へ相談し、捜索一歩手前の大騒ぎになっていたようだ。女性の家族は身を案じて病院へすぐ駆けつけてくるという。その為に男性は同じ病院に搬送されることを激しく拒んでいたようであった。

 結局、休日ということもあり女性と同じ病院へ搬送することとなった。搬送中に事故状況を改めて尋ねるが口数は少なく、大事になってしまい申し訳ないと謝る。救急隊から家族に連絡することはないと言っても、電話番号の回答は携帯も含めて拒否されようやく住所のみ聞き出せるような状態であった。

 病院に到着し、私が先に降車し救急処置室の看護師へ事情を説明し、すでに女性の家族が到着しているとのことであったため、別の入口からこっそり中へ入れるよう配慮してもらった。

 非常に気疲れした活動であった。


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13.11.14/4:10 PM

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