190623救急隊員日誌(180)定時で帰ろう

 
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救急隊員日誌
ペンネーム 月に行きたい
月刊消防2019/6/1号 p71
定時で帰ろう
原題:「佐々木常夫さん曰く、労働に対する基準の欠如を感ずる」

 読者の皆さんに聞きたい。ここ10年で仕事量は増えただろうか減っただろうか。

救急業務の高度化も相まって、報告書に記載する項目は過去と比べ物にならない。裁判所に提出した時に問題にならないようにと、活動概要の文字数は常に1000文字を超える。救急業務だけではない。予防業務、消防業務もまた同様に、仕事量は格段に増えている。勤務明けにも関わらず、昼まで残業するのは当たり前。中には週休まで仕事に出てきて報告書を作成している職員までいる職場もあると聞いている。

業務改善コンサルタントでも雇えばまた違うのだが、そこはあくまで素人の私たち。増えすぎた業務はなかなか減らすことができない。「この仕事、意味ある?」と誰かが言い出しても、主任、係長と話し相手が変わるにつれて、「まあ、そんない多い量じゃないし、もう少し続けない?」とあしらわれてしまう。この10年の変化で一番感じることは、訓練時間が減ったことだ。訓練をマネジメントする能力の低下という要因もあるかもしれないが、やはり業務量の増加が根幹にある気がしてならない。これはとても大きな問題である。

佐々木常夫さんは、自閉症の長男を含む3人の子供と、肝臓病とうつ病に罹り40回以上の入院を繰り返す妻の世話に忙殺される状況の中でも、仕事への情熱を捨てずに業務改革に全力で取り組んだ方だ。著書の中でも、「家庭の環境から残業なんかとてもできない状況であり、無駄な会議を一つでも減らしたかった」とその理由を述べている。第3代東レ社長をも務めた経験から、独自の経営観から様々な本を出版している。今回は著書「部下を定時に返す仕事術」の中から、著者が部下に発信したというメールを一部改変して紹介したい。

件名:残業、休日出勤について

本文:弊社の一部の職員は、週40~70時間の時間外労働を数える。残業の効用は十分認めるにしても、以下を読んで仕事に対するスタンスを改めて欲しい。
1 再建会社でもない当社に、それほどの長時間労働をしなくてはならない事情はない。労働に対する基準の欠如を感ずる。
–そもそも。消防は利益を追求する企業ではない。担当係員は複数いるわけで、長時間労働は組織のマネージメント不足といえるのではないか。

2 仕事は、コストと成果のバランスが常に求められる。生ずる成果に比べて多くのコストを投入する採算意識、バランス感覚の欠如を感ずる。

–これも耳が痛い。私の職場では成果が曖昧な業務が多く、相当のコストロスがありそうだ。

3 会社は、プロの社員を求めている。ただ闇雲に時間をかけるのはプロがやることではない。

4 多くの残業を続ける結果、健康を損ねたり、大切な家族とのコミュニケーション不足というマイナスが生じるリスクを考えないことに、想像力の欠如を感ずる。

–土日も勤務する消防士は家族とのつながりが薄くなりやすい。定時に仕事を仕上げて家に帰ろう。家族の笑顔が浮かんでくるはずだ。

5 仕事以外の活動が、人格形成に役に立ち、幅広い仕事につながるはずなのに、そのことに目を向けない向上心の欠落もみられる。

–これは私自身JPTECなどこれまで多くの活動を仕事外でやってきたから断言できる。しかし仕事外で活動するにはパワーが必要だ。そのパワーを残すためにも業務改善はなくてはならいだろうう。

6 自分で残業の申告を上司にすることは、自分は仕事ができないことを表明していることであり、そこに羞恥心の欠如をみる。

7 そのような部下を目にしながら、注意もせず、相談に乗らない管理職に責任意識の希薄さを感ずる。

 

私はこれを見て佐々木さんに叱られたような衝撃を受けた。私もなんとなく、だらだらと無駄に時間を浪費し、残業してしまうことがある。後輩はそれを見て「先輩が帰らないと帰りにくいな…」と思っていたことだろう。

 

消防はプロ集団のはずである。時間内に業務を終えるからこそプロと言えるだろう。業務に追われながら疲弊しているようでは災害に対応できるはずもない。

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