060604心マのみCPR再考
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心肺蘇生に換気は必要ないという意見をこの連載で初めて取り上げたのは1999年5月である。その後換気回数はガイドライン2000以前の5:1からガイドライン2000では15:2、さらにガイドライン2005では30:2となりどんどん減ってきている。この流れを受けて私は2005年9月号に「将来的には30:2よりもっと呼吸回数が減って心マ回数が増えるだろう」と記した。
アメリカには人工呼吸せずに蘇生を行っているグループがあり、この4月に良好な蘇生率を示した。今回はこのグループの仕事を紹介する。
人工呼吸しない「心脳蘇生」
このグループが「心脳蘇生」と名付けるこの方法は、2003年にアリゾナ大学とツクソン消防署が考案したもので、2004年に改訂が加えられている。蘇生方法は簡単で、心肺停止していそうな患者を見つけたらすぐ200回の心臓マッサージをする。その後心電図解析、ショックできる波形なら1回だけ放電、脈の確認をせずに放電直後からまた心マをするというもの。心マの回数は1分間に100回でメトロノームを動かしながら行う。もし蘇生者が一人なら患者発見後にまず除細動用の電極を付けてから200回の心マに移る。電極を最初につけるのは、途中で電極を付けるために心マを中断することを嫌うためである。脈拍のチェックは除細動器が心電図をチェックしている時に総頚動脈に手を降れて行う。人工呼吸については、救助者が一人の時には何もしない。救助者が二人になった時点でラリンゲアルマスクを患者に入れて非再呼吸酸素マスクをラリンゲアルマスクに取り付ける。もし目撃のある意識消失で倒れてから12分以内なら自脈が戻るか心マ200回を3クール終わるまで陽圧換気は行わない。
心マだけのほうが助かる
グループでは2001年から2003年までの通常のCPR結果を対照群とし、2003年以降導入した心脳蘇生の結果と比較した。対象患者は直接見るか音を聞いたかの「目撃のある」卒倒患者で、かつ除細動適応患者である。除細動器をつけた時の心波形は問題としなかった。call to shock時間として覚知から最初の除細動放電までの時間を測定した。
対照群として92例、心脳蘇生群として33例を検討対象とした。対照群92例中生存が18例(20%)であり、神経学的に問題のなかった症例が14例(15%)であった。心脳蘇生群では33例中生存が19例(57%)であり、神経学的に問題のなかった症例が16例(48%)であった。生存率、神経学的後遺症のない患者比率とも心脳蘇生群で有意に高かった(p<0.001)。call to shock時間を比べると、対照群では7分以内に87%が、10分以内に全例が入っているのに対し、心脳蘇生群では7分以内に47%、10分以内に84%しか入っておらず、心脳蘇生群では倒れてから長時間経っていても蘇生できる可能性が示された。
心室細動には三つの相がある
この方法、特にAEDで放電前に心マをする理由は次のように説明されている。G2000以降、心室細動には三相あることが提唱されてきた。初めの4分程度は「電気相」と呼ばれ、この時期では真っ先に「電気を流し」除細動することによって患者を救うことができるし、飛行場やカジノで除細動が優秀な蘇生率を上げているのはこの相に当たるからである。卒倒から4分以降15分程度までは「血行動態相」と呼ばれ、この時期には心マを行い脳の「血行動態を改善」しなければ蘇生できたとしても神経学的な後遺症が残る。卒倒から15分以降は「異化相」と言われており、ここで救命するためには低体温療法など革新的な治療を行わないと不可能である。救急隊が実際に対応して蘇生できる可能性があるのは覚知から現着まで4分から15分の「血行動態相」である。ならば放電の前に心マを行い血行動態を改善するべきであろう。
「息をさせると目を閉じる」
この、一般的な蘇生方法から見ると異端とも思える方法の開発は、1993年、著者の一人が実際に119番通報を聞いた時が発端だった。妻が夫を必死に助けている時の電話の内容である。「胸を押すとお父さんは目を開けるのに、息をさせるとどうして目を閉じるの」。年代は下り、グループは盛んに動物実験を行うようになる。その結果、心室細動発生直後から10分後までは人工呼吸があってもなくても蘇生率は変わらないことが示された。さらに救命講習受講者に15:2の蘇生を行わせると、人工呼吸に平均16秒を費やしてしまい心マは1分当たり39回しか行えないことが分かった。また他のグループからも人工呼吸しなくても蘇生率には差がないという論文も発表された。
さらに、このグループを「人工呼吸なし・心マのみ」に駆り立てたのは、どこの施設でもぶつかる悩みだった。第一にバイスタンダーCPRが少ない。2003年当時、目撃のある卒倒であってもバイスタンダーCPRを受けているのはわずか19%、多くは電話をしただけで救急車が来るまで横に立っているだけであった。第二にマウスツーマウスは嫌だ。見ず知らずの人に対してマウスツーマウスを行うことができると答えたのは救命講習受講者の15%しかいなかった。第三に、AEDが鳴り物入りで配属されたのに蘇生率は一向に良くならない。これはAEDの使い方、特に心マしない時間が長いことに問題があると考えたのである。
G2005と通じる思想
このグループが2003年以降に発表した一連の論文はG2005に大きく影響を与えた。ガイドライン2005では心マの中断を最小限にすることを提唱しており、除細動でも放電時以外は心マを続けることを求めている。心脳蘇生で陽圧換気を行わないのも、陽圧換気が胸腔内圧を上昇させ脳血流と冠状動脈血流を低下させることを防ぐためであり、これはG2005で過換気を強く戒めているのと共通である。
この方法の最大の利点は簡単なことだ。心臓マッサージはG2005で押す場所も簡単に定められるようになり、また患者へ施行するのに心理的な抵抗は少ない。しかし人工呼吸は習うのに難しく、見知らぬ患者に実施することは現実には不可能だろう。誰もがフェイスシールド(これとて感染防止能力は怪しい)やポケットマスクを持っているはずもない。心マだけで習うのが簡単になれば救命講習の時間も短縮でき、多くの人が抵抗なく受講できるようになるだろう。G2005は普遍の方法ではないし、G2005から外れても結果として人が助かればいいはずだ。救命講習担当者や通信員の方にはこのことを心の片隅に置いて欲しいと思う。
参考文献
Am J Med 2006;119:335-40(蘇生率)
Circulation 2005;111:2134-42
Resuscitation 2005;64:261-8
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08.4.27/2:09 PM
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