060903小学1年生からの救命講習

 
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060903小学1年生からの救命講習

 日本では運転免許の取得時には心肺蘇生法の講習はなされるが、それ以外は決められた講習枠はとられていない。今回は世界中でのいろいろな取り組みを紹介したい。

小学生に教える1)

 小学生に対する救命講習の報告の文献はごく少ない。紹介するのはオーストリアの文献で、筆者らは小学校1年生と2年生を対象にして1週間AEDを中心に蘇生法の紹介と実技を行った。習得の評価はは質問票による検討、講習前後で撮ったビデオによる行動比較、親に対して電話した聞き取り調査によった。その結果、講習前では患者の発見から蘇生までの順番を正しく述べられた子供は17%しかいなかったのに対して、講習後は51%の子供が正しく順番を示すことができた。親に対する聞き取り調査では82%の親が自分の子供は危機的な状況に対して正しい行動をとれるようになったと感じていた。

 この結果だけを見ると小学生にも教えられるように感じるのだが、講義内容をみると逆に小学生に教えることの難しさが際立ってくる。筆者らは児童たちに興味を持ってもらうべく肺に見立てた風船や血液に見立てたラズベリージュースなどを用意しゲームのように気道確保・呼吸・循環の大切さを理解できるようにした。また聴診器やパルスオキシメーター、心臓エコーなども見せて興味を持ってもらうようにしている。119番通報については患者の名前や居場所など通報に欠かせない情報を伝えるように練習しているし、CPRはその子供が理解できるまで行うなど、非常にきめ細かい対応がなされている。また講習のうちの1日をD-dayと称して、学校に100台のマネキンを持ってきて皆で父母と一緒にCPRの訓練をしたり、ドクターヘリを学校のバスケットボールコートに着陸させてみせたりという熱の入れようである。筆者らがこの論文で提案するのは「今日の児童、明日のバイスタンダー」である。

中学生に教える2)

 日本では中学2年の保健体育で蘇生法の紹介がある。しかし実際にどのように教えるかは学校の判断に任されているので、全く習わないで終わることもある。

 スペイン・バルセロナ市の中学校で蘇生法はカリキュラムに取り入れられていて、理論半分実技半分ということは決まっているが、何年生に何時間教えるか決まっていない。それでそれぞれの学校の教頭たちにどんな授業方法がいいかアンケートをとったものである。227中学校に送付し100校から回答があった。心肺蘇生法の授業が中学生に有用だと考えている教頭は82%であり、有用ではないと思っている教頭も18%いた。授業の内容については、理論は学校で行うとしても手技は病院で行ったほうがいいと考える教頭が1/4いた。教える学年は中学校3年生か4年生(スペインは4年生まである)と答えたのがほぼ同数で4割以上であり、1年生か2年生と答えた教頭は5%に満たなかった。講義時間は3-4時間が半数、これを1週間以内で行う。教えるのは理論は学校の先生でもいいが、実技は消防や病院の専門の人が望ましいとしている。

 この授業の最大の問題がその費用だと考える教頭は55%であり、実際に一人当たり700円から1400円かかる。そのほかの問題点としては他の授業項目を圧迫すること、学校の教員自身がl講習を受ける費用などが挙げられている。

医学部学生に教える3)

 実際に心肺停止から復帰した患者を交えて訓練を行った報告である。筆者らは学生が患者に教えるということによって「教えることは学ぶこと」を期待してカリキュラムを組んだ。学生は既にCPRや蘇生法、除細動について訓練を受けている。講義の最初に質問票によってその患者にふさわしい講習内容を探り、それに沿って学生が患者の指導を行った。この講義方法は学生にも患者にも好評で、患者としては自分自身のために技術を身につけると述べたのは86%であり、96%は家族や知り合いのためにその方法を使いたいと述べた。また学生としてもただ教わるだけの講義より蘇生法やAEDに関する理解が深まったと筆者らは結論付けている。

病院全体に教える4) ←フランス語です。単語拾いました。間違っていたら勘弁ね

 病院のスタッフ全員に蘇生術を教えるコースを開催しているフランスの病院からの報告が出ている。この1200床の大病院では医療職に関わる全員に基礎心肺蘇生法を教えることを目標に45分間のコースを開催している。内容はABCに加えバックマスクとAEDを含んでおり現場に即したものとなっている。1年間で約半数の医療職員が受講し終わり、質問票による理解度は1年前に比べて有意に高くなった。またコース開設前後での蘇生症例をみると、バックマスクや心マッサージ、薬剤投与の施行頻度がコース開設前に比べて有意に上昇した。しかしながら、コース開設以降の蘇生率をみると改善は見られなかった。
 病院全体で蘇生コースに取り組んでいる姿勢は素晴らしい。蘇生率が上がらないことについていは、もともと病院内での心停止患者は持病があり蘇生が難しいこと、この病院での蘇生対象症例が年間20例程度しかないことから、これからも統計学的に有意差は出ないと思われる。

同じお金を使うなら

 これらの論文を読んで感じるのは、受講する対象に合わせて講習内容を工夫していること、また興味を持たせるためにはお金がかかるということである。小学校の例ではヘリまで飛ばしているし、病院全体に教えるのだって莫大な人件費がかかるだろう。逆に、同じお金をかけるのならこれだけ練ったことをやらないと興味を持ってもらえないとも言える。普通救命講習4時間、昨日と今日と受講者は違うのに全く同じ講習をしていては受講者は増えないだろう。

引用文献
1)Resuscitation 2003;59:211-20
2)Resuscitation 2006;70:107-16
3)BMC Medical Education 2006;6:27
4)Ann Fr Anesth Reanim 2006;25:135-43

協力:炭谷貴博(中頓別消防)


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06.9.3/11:13 AM

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