症例44:初めてのPEA(pulseless electrical activity、無脈性電気活動)
菊地英雄
留萌(るもい)消防組合消防署小平(おびら)支署
救急救命士
「初めてのPEA患者」
留萌消防組合消防署小平(おびら)支署は年間救急出動150~160件、そのうちCPA症例6、7件です。先日初めてのPEA(pulseless electrical activity、無脈性電気活動)患者を経験しました。
症例
ある日の正午過ぎ、119番通報でした。
「86歳の女性が心肺停止状態なので救急車お願いします。」
高規格救急車に4名乗車し出動しました。
覚知から4分後現場到着。患者の側には関係者2名がおり、ベット上で心臓マッサージが行われていました。
関係者から「少し前に車椅子に移動し、その後、昼食を持って来たら意識がなかった。」と発症状況を聴取しながらベットから患者を下ろして観察。呼吸なし、総頸動脈触知不能、瞳孔散大対光なし。CPRを開始。それと同時に隊員にAED(半自動式除細動器)を装着させました。
CPRを中断させ、ここは、ICLSの基本通りに「総頸動脈触知よし、脈拍なし、モニターQRS波形、パッド、リード線・・・・QRS波形????」一瞬頭が真っ白になり掛けました。自分では心室細動か心静止の波形しかイメージがなかったので非常に焦りました。2度3度とパッドとリード線を確認、脈拍も慎重に触知を繰り返しましたが、間違いありませんでした。「PEA患者だ!」(下記心電図)
CPRを再開させ、プロトコールに従い電話にて医師にラリンゲアルチューブ3号による気道確保及び静脈路確保の指示要請と病院到着まで約30分を伝えました。
チューブを挿入し、換気の確認です。心窩部・・・聞こえないOK、胸部挙上もOK、左胸部OK、右胸部OK?「だけど左より弱いな?多分パッドの影響かな?」この患者は体がすごく細くて小さな方で、パッドを装着したら右胸が殆ど隠れるほどでした。
自分勝手に両側換気良好を判断して、救急車内へ収容後循環サインを確認しました。「息・咳・動き・脈・・・・!?」なんと、脈拍が触れるではありませんか。「よかった。よかった。」呼吸なし、痛み刺激なし、人工呼吸を継続して搬送を開始、肘静脈路を20Gで確保。呼吸、意識の回復なく2次病院へ収容しました。
翌日、CPRを実施していた関係者に現場の状況を再度聴取してみると、どうやら患者は嘔吐をして倒れており、口から嘔吐物を掻き出し、処理をしてから心肺蘇生を開始したらしいのです。
「えっ、何?」自分の耳を疑うとともに現場活動を思い出していました。現場で関係者2名から状況を聞いた時には「嘔吐」という言葉は一言も出ておらず、周囲にも嘔吐物を処理した形跡もなく綺麗な状況でした。ラリンゲアルチューブを挿入する前に喉頭鏡で口腔内を確認した時にも唾液などの分泌液を吸引しましたが食物残渣はなかったのです。嘔吐に関しては他の隊員も「寝耳に水」でした。
さらに、収容先病院医師へ患者の予後経過を聴取したところ、「現在は自発呼吸がありますが意識は戻りません。呼吸が回復した時に食物残渣が出てきて吸引が大変でした。嘔吐の情報はありませんでしたから」と回答がありました。
原因は窒息でした。
さて、もうお気づきだと思いますが、ラリンゲアルチューブ挿入時の換気確認で右側が減弱していたのは食物が右気管支に詰まっていたと思われます。
解剖学的にも右気管支の方が詰まりやすいし、また、自発呼吸の再開とともに詰まっていたものが出てきたのではないでしょうか?
この症例は反省点も多くありましたが大変勉強になりました。
- CPA患者の発症状況を聴取する時は「嘔吐」についてしっかり聞くこと。 特に高齢者は「嘔吐」が誤嚥性肺炎を併発し予後不良になることがある。
- 観察した結果を解剖学的イメージにすること。自分の都合のいいように判断してはいけない。
- 蘇生の可能性は常にあること。
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