症例17 壊死性筋膜炎

 
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症例17

65歳男性。
7月中旬、発熱と食欲低下あり。そのまま自宅で様子を見ていたが、1週間後には脱力を自覚したため近医受診。筋逸脱酵素であるCKが1100と高値のため入院した。翌朝血圧低下と意識レベルの低下を認めたため転院搬送を依頼された。
観察結果
意識レベルJSC100。皮膚は全体に発赤している。体温38.5度、血圧80/40mmHg, 心拍数100/分(昇圧剤使用中)。SpO2 96%(O2マスク5L/分投与)。
経過
医師と看護婦が同乗の上40分先の総合病院へ搬送。患者は多臓器不全を併発し6時間後に死亡した。3日後病院から横紋筋融解症との連絡を受けた。

Q1
壊死性筋膜炎とは何か
Q2
救急隊員の感染防御はどうするべきか

A1
壊死性筋膜炎とは「劇症型溶血性連鎖球菌感染症(通称人食いバクテリア)」の症状につけられた病名である。主に足の筋肉が急激に腫れ、横紋筋の融解が進むと急激に多臓器不全を起こして死亡する。死亡率は30%で、妊婦と高齢者では死亡率が高くなる。常在菌の連鎖球菌がなぜ劇症化するかは分かっていない。また感染経路の明らかな症例も少ないとされる。
劇症型溶血性連鎖球菌感染症の厚生省研究班診断基準案として、A群連鎖球菌の分離検出、血圧低下、腎障害(クレアチニン2mg/dl以上)、凝固障害(血小板10万以下など)、肝障害(GOT、GPT、ビリルビン等の上昇)、成人型呼吸窮迫症候群(=ARDS)、落屑を伴う全身性の紅斑様皮膚発赤疹、軟部組織壊死(壊死性筋膜炎・筋炎)などがあげられており、本症例では連鎖球菌の検出を含めて確定診断されている。

A2
溶血性連鎖球菌はどこにでもいる細菌である。通常の溶血性連鎖球菌感染症(猩紅熱など)は患者の鼻や咽頭から出て来る菌が周囲の人の鼻や咽頭などの粘膜に付くことによってこる。このためマスクが感染防御の有効な手段となる。しかし劇症形の場合、年間3人が入院した名古屋大病院でも患者間に接触はなく、細菌がうつったとしても発症するかどうかはわかっていない。
これらのことを考えると、感染防御については通常通りで問題がないと思われる。すなわち手袋の着用やゴーグル・マスクの着用である。搬送後の車内の消毒は帰署直後に念入りに行うべきであろう。なお、感染症のためその後2週間程度は体調チェックをおこない、異常がある場合にはすぐ病院を受診すべきである。

解説
本症例は脱力感の自覚から24時間以内に死亡した典型的な壊死性筋膜炎である。死後筋肉から溶血性連鎖球菌も分離されている。
写真は粘膜下出血を起こした胃。物差しの直上の暗い部分が出血部位である。


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