140615 アナフィラキシーショック

 
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症例

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事例解説
アナフィラキシーショック

講師
高平 将臣(たかひらまさおみ)

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所属:釧路北部消防事務組合 鶴居消防署
出身:標茶町
消防士拝命:平成11年
救急救命士合格年:平成24年
趣味:スポーツ、映画鑑賞

はじめに

鶴居村は北海道東部に位置し、釧路管内のほぼ中央に位置しております。鶴が居る村と書いて鶴居村といいますが、文字のごとく特別天然記念物でありますタンチョウの生息・繁殖地として知られています。一時は生息数が数十羽と絶滅も危惧されたタンチョウですが、地域住民や自治体、民間団体などの保護活動や繁殖活動の努力が実り、現在では1000羽を越える生息数が確認され、雪の時期には多くのタンチョウを見る事が出来ます(写真1)。

 鶴居村は酪農業が盛んで北海道でも有数の酪農郷であり、良質な牛乳が生産されています。近年は、チーズ製造にも取り組み、オールジャパンナチュラルチーズコンテストでも最高賞を受賞するなど、「鶴居村」というブランドとしても知名度を上げております(写真2)。

今回はこの鶴居村で経験したアナフィラキシー事例を紹介したいと思います。

アナフィラキシーショックとは

アナフィラキシーとはアレルギー反応の一種であり、アレルギー原因物質が体内に入った直後から数時間以内という短い時間で症状が出現する「即時型」タイプのアレルギーです。蕁麻疹などの皮膚の痒みや紅潮から始まり、重症になれば血圧の低下や意識障害を引き起こします。またアナフィラキシーで最も重要なのは、喉頭浮腫や気管支攣縮など気道が狭窄・閉塞して呼吸器系の障害が発症し呼吸不全や窒息の原因にもなり得る事です。(表1)

 アナフィラキシーを引き起こす原因物質としては、乳製品や蕎麦・ピーナッツなどといった食物、蜂毒といった動物毒、ラテックスなどのゴム類、医薬品など多種多様な物質が起因します(写真3)。

そこで今回はいろいろな原因で引き起こしたアナフィラキシー事例をいくつか紹介したいと思います。

事例1 食物

「12歳の女の子がショック状態なので救急車で病院まで搬送してほしい」と消防に駆け込みで来たもの。

傷病者は意識清明であるも息苦しさを訴えている状態で、SpO2が91%であったため、中濃度酸素マスクで3L/分の酸素投与を行いました。酸素投与後SpO2が100%まで改善したものの、息苦しさと喉及び口腔内の違和感は搬送中も継続しており、口腔内に浮腫を確認しました。

現病歴にフルーツアレルギーがあり、当日朝、アメリカンチェリーを食べたところ、数分後に耳の痒みを訴え卒倒、数秒間意識が消失し意識回復後に呼吸苦と口腔内の違和感が出現したものでした。

事例2 医薬品

診療所より「外来患者がアナフィラキシーショック状態なので二次医療機関へ転院搬送してほしい」との通報でした。

傷病者は診療所診察室のベッド上で仰臥位の状態、診療所医師により酸素3L/分が投与されていました。意識レベルはJCS10、顔面は蒼白でしたが、呼吸状態は正常で脈拍も橈骨で充実していました。

搬送途上も意識レベルはJCS10で変化はありませんでしたが、SpO2も酸素3L/分投与下で100%、呼吸状態も正常で血圧も正常値で安定していました。

喉の痛みにより診療所を受診し投薬を受け、帰宅後に薬を処方した際に呼吸困難と喉の痒みを感じたため再度診療所へ受診したところ、診察室にて意識を消失したものでした。

事例 3 蜂毒

ゴルフ場従業員より「ゴルフプレー中の客が蜂に刺され意識がない状態なので救急車で搬送してほしい」との通報でした。通報の段階で緊急度が高いと判断し通信員よりドクターヘリを要請しました。

傷病者接触時、意識レベルはJCS300、呼吸浅く速くいびき様、総頸動脈で触知可能、体全体に紅潮及び発汗が認められました。高濃度マスクにて酸素10L/分投与し車内収容後に呼吸状態が悪化、気道確保しないと呼吸が出来ない状態となったためBVMによる補助換気を実施しました。

その後ドクターヘリと合流し、救急車内にてドクターによる静脈路確保、アドレナリン及び鎮静薬投与、気管挿管が実施されました。数分後に意識レベルはJCS1まで改善し呼吸状態も改善しました。

アナフィラキシーによる救急隊の対応

 先述のようにアナフィラキシーショックで最も危険なのは気道閉塞による呼吸不全です。SpO2値に関係なく酸素投与は必須で、呼吸状態によっては用手的気道確保も重要になってきます(写真4)。しかし、気道の浮腫や攣縮により気道確保しBVMでの換気も困難な事があります。一刻も早く治療可能な病院へ搬送する事が優先されます。

アナフィラキシーに対する治療薬にアドレナリンがあります。しかし救急救命士によるアドレナリン投与は心肺機能停止状態の傷病者にしか適応がありません。救急隊は心肺機能停止になる前に病院への搬送が重要になってきます。事例3では早期のドクターによる静脈路確保、アドレナリン投与が功を奏し、症状が劇的に改善し大事には至りませんでした。アナフィラキシーショックのような一刻を争う現場では、救急隊と医療機関との迅速な連携が極めて重要である事を痛感いたしました。

アナフィラキシーは予防できる

学校給食などで誤って原因物質を摂取しアナフィラキシーショックに至り子供が死亡するケースや、屋外で蜂毒などの動物毒によりアナフィラキシーショックを起こし死亡するケースなど、発症直前まで普通に生活していた人が命を落とす痛ましい事故が後を絶ちません。

アナフィラキシーを引き起こす原因物質は多種多様であり、いかなる場面でも原因物質が体内に入る危険性があります。しかし、その原因物質があらかじめわかっていればその物質を避けることによりアナフィラキシーを防ぐ事ができます。また近年ではアナフィラキシーの治療薬であるアドレナリンの自己注射製剤「エピペン」が普及してきています(写真5)。病院へ受診するまで時間を要する場合やアナフィラキシーを発症する危険性が高い場合など、この「エピペン」を使用する事により一時的にアナフィラキシーショックの軽快させることが可能となります。しかしエピペンを使用して症状が治まったとしてもエピペンの効果が切れれば症状は再発するので、救急隊として迅速な処置や搬送を心がけなければなりません。

 より多くの方にアナフィラキシーに関する知識、応急処置などの対応を救急講習などで広めて行くことも私たち消防職員、救急隊員の重要な任務となります(写真6)。最近ではアナフィラキシーに関するガイドラインもまとめられていますので、一次医療機関しかない地域医療では特に地元医療機関と協力体制を整えられる協議も必要になってくると思います。

痛ましい死を少しでも防ぎ得るよう、関係者、医療機関、そして消防が一丸となって活動していけるよう努力していきたいと思います。


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14.6.15/3:11 PM]]>

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