080704自宅AEDの相談を受けたら

 
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080704自宅AEDの相談を受けたら

 公衆AEDの設置は自治体を中心に広く進められている。また一般家庭への配置についてもいくつものレンタル会社がしのぎを削っている状況である。救命講習の場で受講者から「自宅に置いた方がいいのでしょうか」という質問を受けた読者諸兄も多いことだろう。

 では実際に家庭にAEDを設置したとして死亡率は減少するのだろうか。答えとなる論文1)が出たので紹介したい。

心筋梗塞の既往患者にAED

 この論文はアメリカ、イギリス、ニュージーランド、オーストラリアなど7カ国が参加した「大規模無作為割り当て前向き研究」である。対象は過去に心臓前壁の心筋梗塞の既往があり、しかも除細動器埋め込みの適応がなかった人たちで、これらを二群に分けた。CPR群は119番通報を初めにしてから通常のCPRを行い、救急隊が到着後にAEDを使用するもの。AED群は最初にAEDを行いその後に119番通報、さらにCPRを行うものである。AED群にはフィリップ社のAEDを与え自宅に備えさせた。AED群でもし卒倒時に複数のバイスタンダーが居合わせた場合には119番通報とAEDを手分けして行うことにした。事前訓練としてCPR群はCPRの、AED群はCPRとAEDの訓練を家族ともども受講し、さらに3ヶ月後には再受講させて手技を確認している。加えて研究期間中には研究者が本人と家族に対して年に1回CPRやAEDの訓練を施しており、また電話で患者の容態の把握も試みていた。

 検討項目は観察期間中の死亡数である。死亡原因は問わない。また心原生の死亡については目撃者の有無やAEDの使用なども検討項目に入れた。

AEDでは死亡率は低下しない

 今回の対象となった患者数は7001名であった。患者の平均年齢は62歳で男性が83%、心筋梗塞発症からの時間は1年以上経っている患者がCPR群・AED群とも60%、平均期間は1.7年であった。これに対してCPRやAEDを使って患者を助ける側は平均58歳と患者より若く、83%は患者の家族であった。

 結果として、観察期間中に450名の患者が死亡した。その割合はCRP群とAED群でほぼ同数であった。また経時的に死亡数を積み上げていく死亡曲線でもCPR群とAED群は全く同じ曲線を描いており、この死亡曲線はアメリカ全体の死亡曲線と差はなかった。年間の死亡率はともに2%であった。随伴疾患は糖尿病がAEDに反応しやすかった以外は有意差は見られなかった。この観察期間中に心停止から蘇生に成功した患者数はAED群で19人いて、自宅で8人、病院や老人施設で9人が助かっている。しかし全体の死亡率には有意な低下はもたらしていない。

全員が不整脈で死ぬのではない

 なぜ二つの群で差が出なかったのか。

 第一の理由、患者はAEDの使えない病気で死亡する。

 心筋梗塞の既往・CPR訓練、AED設置となればその患者は心臓、それも不整脈が原因で死亡すると考えがちだが、今回の結果では心室細動や心室頻拍が原因となって死亡した患者は全体の死亡患者の38%に過ぎない。AEDの適応とならない突然の心静止や心不全で亡くなる患者が21%おり、心臓以外の原因で亡くなる患者が38%いた。AEDが使えない症例が6割を占めるのである。

 これはAED群においても同じである。AED群の死亡数は222人でAED群全体の6%。このうち自宅で死亡したのが222人中91人で死亡全体の41%である。卒倒を目撃された患者は54人(24%)であり、卒倒時にAEDの適応があったのは29人(13 %)にまで低下する。

 まとめると、最初からAEDの適応のない死亡が6割であり、AEDをつけると助かるかも知れない症例は死亡数の1割しかないことになる。

AEDをつけても助からない

 第二の理由。AEDを付けても助からない。

 患者が卒倒した時にAEDを装着したのは32症例であり、29名は家族や同居人がAEDを装着している。このうちAEDのデータが残っているのが22症例ある。それを見ると、1例がパッドをつけたがその時点で意識が回復したもの、21例が意識なしで心電図解析に入っている。このうち13例が心室細動で12例が放電に至ったが長期生存を得たのは4例だけであった。5例は心静止、1例は完全房室ブロック、1例は洞性頻脈、1例は洞性徐脈であった。

 つまり、運良くAED装着にたどり着いても患者はなかなか助からないのである。

過去の報告では

 過去の文献を見ると自宅AEDはもう少し生存率を上げそうなのに今回は全く役に立たなかった。過去に示されたデータは主に病院に入院中の患者のもので突然心停止も多いし、周りに人がいることからAEDを使う機会も多くなる。

 またAEDがあっても使われないことも明らかとなった。これは患者が一人の時に卒倒することもあるし、また周りに誰かいたとしてもあわてふためいてAEDに考えが及ばないことも含まれる。後者の場合、AEDに対する強力な意識付けが必要となるだろうと筆者らは述べている。

「自宅にAEDを」と相談されたら

 では、救命講習受講者に「自宅にAEDを置きたい」と相談されたときにはどう答えればいいか。この論文を読んで読者諸兄それぞれが考えていただきたい。この論文から言えることは以下の3項目である。

(1)心臓が悪くてもAEDが使える状況で亡くなるのは1割に過ぎず、9 割はAEDが使えず死亡する
(2)AEDを付けても放電できるのは4割未満である
(3)放電できれば3割は助かる

文献
1)N Engl J Med 2008;358:1793-804


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08.7.4/9:20 PM

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