081103血管疾患と酒・たばこ
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081103血管疾患と酒・たばこ
今は医者や学生の飲み会でたばこを吸う人はほとんどいない。大量に酒を飲む学生もほとんどいない。学生に聞くと飲み会自体があまりないらしい。片や消防職員。JPTECなどの懇親会では半分以上がたばこを吹かしている。ゴーグル・マスク・グローブを必須とするより禁煙したほうが生命予後ははるかに向上する。
この2ヶ月で脳卒中と心臓病に関する論文がいくつか出たので、今回は救急から離れてそれらを紹介したい。
酒は心臓と脳で異なる
酒についてはつい最近日本人を対象とした研究結果が発表された。8万3000人余りを14年間追跡調査した報告1)である。それによると、男性については脳卒中死亡が飲酒量と有意に相関、冠動脈疾患死亡は飲酒量に関係なく抑制される傾向だった。一方、女性の脳卒中死亡は男性と同じく飲酒量と相関、冠動脈疾患死亡は男性と異なり日本酒2合(360mL)未満で上昇傾向、2合以上でそれ未満の4.1倍と著明に上昇した。
同様の報告はアメリカからも出ている。アメリカ人11万5000人を4年間追跡調査した結果である2)。この報告では、アルコールには全く飲まない人より一日アルコールを30g未満飲む人の方がリスクは少なく、脳梗塞・脳出血合わせても30g未満で0.9倍となっている。アルコール30gは日本酒やワインだと200mL、ビールだと600mLになる。一日30gを越えるとリスクは1.2倍となる。アメリカの場合は男女は変わらない。
日本人女性でのこの高い死亡リスクについては、女性の持つ生物学的な特徴、体格が小さかったりアルコール代謝能力が低いといったこと以外に何らかの社会的因子が影響していると著者らは考えている1)。酒は百薬の長と言われているが、この報告を見る限り酒が薬になることはあまりなさそうだ。
睡眠時無呼吸と脳卒中
つぎに肥満の中でも睡眠時無呼吸症候群に焦点を当てた論文を紹介する。睡眠時無呼吸症候群とは睡眠中に呼吸が止まる症状とそれに付随する症状のあわせたものを言う。ほとんどは太りすぎによる上気道の狭窄が原因であり、高血圧や脳血流の低下、日中の眠気をもたらすものである。ほぼ全員に肥満があるので脳血管系の罹患率は高いことは容易に想像できる。論文3)では狭心症と診断された患者392人を10年間追跡して死亡率を健常者と比較した。患者のBody mass indexの平均は27。身長が155cmなら体重は65kg、身長が170cmなら78kgであり、そんなにすごい肥満ではなさそうだ。睡眠時無呼吸症候群の診断基準は睡眠時に1時間あたり5回以上、かつその時にSpO2が3%以上低下するものとした。
その結果、10年間で全体の12%、47人に脳卒中が発生した。そのうち、無呼吸症候群ではない患者では全体の5%に脳卒中が発生したのに対して、無呼吸症候群の患者では全体の18%に脳卒中が発生していた。10年間の死亡率はどちらも約20%で同じ、心筋梗塞もやはり20%で同じであった。
睡眠時無呼吸症候群は交感神経の緊張をもたらし血液を固まりやすくする。また動脈内膜の硬化を促進させる作用もある。治療により血中の炎症蛋白が低下し動脈内径が増加した報告もある。睡眠時無呼吸症候群と診断されている諸兄は治療することを考えよう。
たばこと脳卒中
たばこは男性の脳卒中に限って言えば、過去に吸っていても現在禁煙すれば非喫煙者と同じになれる。たばこには血管を細くする作用があるので脳梗塞の危険が高くなる。しかし女性は過去の喫煙歴だけで1.1倍とリスクが上がる。一日14本以下の喫煙で男性はリスクは1.3倍、15本以上で2.0倍、25本以上だと2.7倍にもなる。女性だとさらに高くなり、14本以下で1.9倍、15本以上で2.6倍、25本以上で2.4倍となる。
また過去に発表された論文をまとめた報告4)では、全脳卒中に関するリスクは非喫煙者に対して喫煙者では1.5倍。これは年齢が若くなるほど危険率は高くなり、55歳以下では2.9倍とされている。
吸わせないこと、禁煙すること
喫煙者は禁煙が余命を延ばす最大の方法であり、非喫煙者はそのまま吸わないでいるのが余命を縮めない最良の方法である。喫煙開始年齢は20歳未満が9割を占める。今吸っている大人は本人の責任としても、子供たちからタバコを遠ざけるのも大人の責任であろう。
タバコを吸うと身長は伸びなくなり、脳の働きは悪くなり、運動能力も落ち、内臓脂肪が増える。予備校生の大学合格率では喫煙者は吸わない学生や禁煙に成功した学生より10%も低い。タバコを吸うと頭がすっきりするのは単にニコチン中毒の症状である。ニコチンが切れていらいらし集中力がなくなることに加えて血中一酸化炭素濃度が高いため知的能力が低下することが合格率の低下となって表れている5)。
禁煙ですぐ思いつくのは薬物治療であるがそれだけでは効果は少なく、長期にわたってのカウンセリングや周囲の励ましがあって初めて持続的な禁煙に成功する。この4月からはニコチン受容体拮抗剤が認可された。この薬には喫煙の満足感を抑制するとともに、禁断症状やたばこへの切望感を軽減する強い味方である。自分も周りも幸せになるためにこの際禁煙を考えてみてはいかがだろうか。
文献
1)Ikehara et al. 2008 Stroke online
2)Circulation 2008;118:947-54
3)Circulation 2008;118:955-60
4)Br J Med 1989;298:789-94
5)医学のあゆみ 2008;226:498-9
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08.11.3/7:16 PM
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