100516ガイドライン2010(5)やはり薬剤救命士はいらない

 
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100516ガイドライン2010:やはり薬剤救命士はいらない

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ご意見いただきました(2010/6/20)

月刊消防に毎号掲載されている最新救急事情は、目からうろこの内容で、自分自身の活動を見直したり、日々勉強!!といういい刺激になっています。

「薬剤救命士はいらない」の記事を読みました。数多くの文献になぞられて説明されており、こういった結果が出ているんだなと知ることができましたが、はたして本当に薬剤救命士は必要ないのでしょうか?

確かに心拍再開率には効果があるものの、生存退院や神経学的評価には優位さはない。だから、薬剤は必要ない、この考えは安易ではないでしょうか。

退院率も神経うんぬんも、まずは生きてこそ。

心拍再開率上昇、素晴らしいことだと思います。傷病者やその家族に生きる希望を与えられているのだと、私は感じます。

完全な社会復帰でなければ、救命とは言えないのでしょうか?

あなた自身も書いているように、結局は患者自身の助かりたいという気持ちが重要です。

その気持ちと同じくらい、私たち救急隊員も「助けたい」という強い思いを胸に、日々業務に励んでいます。

自惚れている救命士なんて、全国にはいるのかもしれませんが少なくとも私の周りにはそんな先輩は1人もいません。

最近の若い消防士にも、救急の道を志す隊員はとても増えてきています。
その若い人たちがこの記事を読んだら、どんな気持ちになると思いますか?
少なくとも、救命士を志す気持ちにポジティブには働かないと思います。
実際、私自身バカにされているようにも感じました。

毎号の記事はものすごく勉強になり、日々進歩しなくてはならないんだなという危機感を持つことができる、とても素晴らしいものです。

だからこそ、こういった救命士や救急隊員に対しての否定的な表現は、あまりいい気持にはなりません。

生意気な物言い、大変失礼いたしました。また、読みづらい文章で誠に申し訳ありません。

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正々堂々と名前・所属・メールアドレスを書いてきて下さいましたので返事を差し上げました(2010-6-21)

「現場の方々の献身的な努力にはいつも頭が下がります。今回の記事もそれを否定する意図はありません。言いたかったのは、
(1)メールにもありましたように、自惚れているごく一部の人たち(あなたの周りにはいないとのことですが、全国にはごく少数ながら存在は確認されています)に自惚れを捨てること、
(2)本当に必要なのは特権的な手技(挿管と薬剤)ではなく心マであることを認識してもらうことです。
さらにいえば、
(3)世界的な流れを知って欲しいこと
です。

私の書くものは否定的な文章が多く、批判を受けることもたびたびあります。私の原稿の中でもし使える知識があれば使って下さればありがたいです。」


 先月に引き続きCPA患者への薬剤投与についてお送りする。先月の論文ではアドレナリン投与は病院前の心拍再開率は上げるものの生存退院率は差がないというものであった。しかしCPA患者に投与されるのはアドレナリンだけではない。今月はガイドライン2010のワークシートを元に、心肺停止患者に対する薬剤投与について考察する。

アドレナリンもバソプレッシンも

 CPR患者の蘇生に使われる強心剤としてはアドレナリンとバソプレッシンが使われる。結論としては、これら二つの薬剤とも、投与しても生存退院率を向上させないし、二剤を一緒に投与しても向上させない。

 アドレナリンについて。最も信頼の置ける論文は先月号で紹介したもの(2009)であり、アドレナリンの投与の有無では生存退院率は変化がないというのが結論であった。次に、CPA患者に対して現行のアドレナリン1mgではなく最初の投与だけ10mgにした研究(1995)も行われていて、これでも入院率・生存退院率ともに有意差は見られなかった。救命士が心室細動患者に対してアドレナリンを投与した結果(1995)では、3回の除細動でも持続する心室細動に対してはアドレナリンを投与したほうが自脈の再開率は高かったが生存退院率には差がなかった。唯一アドレナリン投与で生存退院率が向上したとするのは台湾からの論文(2007)のみであり、ここでは救命士がアドレナリン投与制度の前後で比較したところアドレナリンを投与するようになってから生存率が向上したとしている。ただワークシート作成者は台湾の論文は群分けやコントロールに不備があって信用はおけないとコメントしている。

 バソプレッシンについて。バソプレッシンはCPR患者に対してアドレナリンより血圧上昇効果が強く、呼気中二酸化炭素濃度の上昇程度も高いとされ、一時期はアドレナリンにかわる有力な蘇生薬として注目されていた。しかし臨床結果ではアドレナリンと比較して心拍再開率も24時間生存率も生存退院率も有意差は見られなかった(2009)。同様の結果は複数の論文を横断的に解析した研究でも証明されている(2005)。バソプレッシンとアドレナリンを組み合わせてもアドレナリン単独とかわらない成績しか得られていない(2008)。唯一、バソプレッシン+アドレナリン+ステロイドの3剤併用投与ではアドレナリン単独に比べて心拍再開率と生存退院率が有意に高かった(2009)が、症例数が100例であり、これからの症例追加によってはどのようになるか分からない結果でしかない。

アトロピンも無効

 救命士の薬剤投与業務拡大でアドレナリンの次に待っているのはアトロピンかリドカインと言われていた。しかしアトロピンも生存退院率には無効だし、それよりしっかりしたデータが存在しない。アトロピンを投与された41例と投与されなかった129例を比較すると投与された群で自脈再開率が高かったという報告(1984)があるだけであり、それとて両群で生存退院したのは一例もなかった。アトロピンとアドレナリンを静脈投与するか気管内投与するか比較した論文(2000)があり、ここでは気管内投与より静脈投与のほうが生存退院率が良かったとしているが、なぜ良かったのかははっきりとは分からない。ほかの論文は症例数が少なかったり後ろ向きの研究であったり症例が偏っていたりと、研究の質がまず問題となり、なおかつアトロピンが心拍再開率や生存退院率に有効だったという報告はない。

不整脈薬も無効

 蘇生時に不整脈薬を一緒に投与することがある。これにより心室の異常放電を抑えて自脈に戻しやすくする。以前はリドカインが主に用いられていたが、現在はアミオダロンが主流になっている。これら不整脈薬についても検討されている。

 アミオダロンはCPA患者の心拍再開率を向上させ生存入院率を向上させる。しかし生存退院率は好転させない(2002)。これは1999年に発表された論文にも同様のことが書かれている。リドカインについてはアドレナリンと組み合わせることによって心室細動患者の生存退院率を上昇させるという報告(2005)が1編あるが、無作為割り付けではなく信頼性に欠ける。後ろ向きの研究(1997)でも生存退院率を上昇させるという報告がある。しかし、2006年に出た報告では逆にリドカインが生存入院率を低下させるという報告がなされている。リドカインとアミオダロンとの比較ではアミオダロンのほうが生存入院率と1時間後生存率においてリドカインより優れていた。

その他の薬も

 ワークシートでは蘇生時に使われる他の薬剤の検討も行っている。マグネシウムは心臓の収縮力を上げるとされるが、現場では自脈再開率に変化をもたらさなかった(2001)。ブレチリウムは1980年代に注目された薬剤であるがこれも生存率に影響を及ぼさない。古典的な抗不整脈薬であるプロカインアミドは評価が分かれているようだが、安全域の狭い抗不整脈薬であり、現在では現場でぽんぽんと使われる薬ではなくなっている。

薬剤はアドレナリンで打ち止めか

 救命士の業務拡大に関する会議が2009年3月から始まり、、「心停止前の点滴開始」「重症喘息時の気管支拡張薬の吸入」「血糖値測定とブドウ糖投与」が行為として追加される可能性があるという。アドレナリン投与制度が始まる前には「アドレナリンの次はアトロピン」と言われてきたのだが、もう薬剤についても期待はしぼんでしまったようである。

 アドレナリンを投与すれば心拍の再開率は高まるし、心静止やPEAならその率は劇的に向上する。しかし病院に着いたあとで心臓が止まり、結局はアドレナリンを使わない人と同じ率まで生存退院率は低下してしまう。これはアトロピンでもアミオダロンでも同じである。結局のところ助かる患者は患者自身が自らを助けるのであって、薬剤救命士も挿管救命士も不要なのである。

文献

American Heart Association | To be a relentless force for a world of longer, healthier lives
Learn more about the American Heart Association's efforts to reduce death caused by heart disease and stroke. Also learn...

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https://ops.tama.blue/

10.8.10/9:26 PM

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