100810蘇生小物の評価
100810蘇生小物の評価
今回はCPRの時に使われる資器材についてのG2010での評価をお伝えする。
サンパーとオートパルス
蘇生でもっとも体力を使う胸骨圧迫。機械がやってくれればその分のエネルギーと注意力を他に使うことができる。代表的なものはピストンが直接胸を押すサンパーと、バンドが胸を締めるオートパスルである。
サンパーに関しては、30年前に登場している割には文献が少ない。動物実験では用手圧迫より脳灌流圧を上げ自己心拍再開率を向上させる(2006)。人においても用手圧迫より平均動脈圧を上昇させ終末呼気炭酸ガス濃度も上昇させる。しかし現場での心拍再開率・短期と長期の生存率を上昇させるには至らない。これらの論文の欠点は症例数が少ないこと、器材が古いこと、蘇生法が古いことある。現在市場に出回っているものは小型化・省力化され、患者に装着するための時間も短縮されている。しかし改良型サンパーをもってしても装着時に一定の時間がかかり胸骨圧迫を中断せざるを得ない欠点は変わらない。
オートパルスは6年前に登場したもので、当初は心拍再開率を向上させるというのが売りであった。2004年に発表された論文ではオートパルスは用手圧迫に比べて大動脈収縮期血圧、右心房圧、脳灌流圧を上昇させるとしている。2005年にはコントロールを含む162名のCPA患者で比較対象研究を行い、オートパルスの方が12ヶ月後の生存率が有意に高かったとしている。病院前の検討でも心拍再開率、生存入院率、生存退院率ともオートパルスの方が用手圧迫より有意に高かった。これらに対して、多施設大規模検討では有意差はないものの用手圧迫よりオートパルスで生存退院率が低下し(p=0.06)ており、神経学的に正常の患者に限ればオートパルスを装着したことによってその割合は低下した(p=0.006)という論文が出ている。またガイドライン2005で蘇生を行った場合には、オートパルスでは自己心拍再開率は上昇するものの、30日後の生存率は変化なかったと報告されている。
これらの結果からは、サンパーを使ってもオートパルスを使っても、用手圧迫に比べて蘇生率や生存退院率が上昇するとはいえなさそうだ。しかし器材を使ったからと言って蘇生率を低下させるという明解な論文も存在しない。懸念されるのは器材の装着で胸骨圧迫が中断されることであって、装着法に習熟することが最も大切なことだろう。
挿管確認器材
食道挿管を感知するものとして、二酸化炭素検出装置と食道挿管検出装置がある。二酸化炭素検出装置は気管にちゃんと管が入っていれば色が変わったり波が出てくるもので、食道挿管検出装置は食道挿管されていれば注射器で空気が引けなかったりバルーンが膨らまないというものである。
バルーン型の食道挿管検出装置の欠点は、気管に管が入っているのに膨らんでこなかったり、食道に入っていてもバルーンが膨らんでくる患者がいることである。今まで発表された8つの論文を見ると、感度(管が気管に入っていたときに膨らんでくること)は最高100%最低71%であり、特異性(膨らんでくる時は必ず気管に入っている)は最高100%最低89%である。最低値71%だけ見れば、4人に1人はバルーンを当てにできないことになる。注射器タイプでは感度は100%から73%、特異性は100%から50%となっている。こちらの方が値が悪いのは、注射器のシリンジの引き方で引けないものも引けるようになるからだろう。
二酸化炭素検出装置のほうは成績がいい。呼気炭酸ガスを波で表すタイプのカプノグラフィーは10の報告のうち7の報告が感度100%となっている。特異性についてはすべての報告で100%である。この10の研究のうち、二酸化炭素分圧が低下する心肺停止患者を対象とした3つを見てみると、感度は65%から100%、特異性はすべて100%である。二酸化炭素さえ検出できれば気管内に入っているのが証明できている。二酸化炭素によって色の変わるタイプは感度が69%から100%、特異性は86%から100%であり、カプノグラフィーよりは成績が落ちる。
現在のバルーンと色の変わるタイプを併用する方法で食道挿管はほぼ確実に検出できるだろう。
ラリンゲアルチューブなど
食道閉鎖式エアウエイはすでに製造中止となっており、現在の気道確保器具の主流はラリンゲアルチューブである。また新製品としてラリンゲアルマスクに似ているが空気を入れなくてもいいi-gelも日本で発売となった。
気管挿管に対する気道確保器具の病院前使用での優位性はG2010になっても変わらない。気道確保器具は気管挿管に比べ速く確実に挿入を完了することができ、合併症も少ない。また頸椎カラーや化学薬品防御服を着用していても迅速に挿入を完了できる。ワークシートにはこれらの優位性について異議を唱える論文も3つ掲載されてはいるが、論文の質としては高いものではなく、気道確保器具の優位性を脅かすものにはなっていない。
ではどの器具が最も優れているか。これについてははっきり書いた論文はまだない。今メーカーが力を入れているのは胃の除圧をして嘔吐の危険を防ぐタイプの器材なのだが、これを用いても胃内圧は変化がなかったという論文が2001年に出ている。
輪状軟骨圧迫
資器材ではないのだが人工呼吸で行われる手技についても触れておきたい。
輪状軟骨圧迫が人工呼吸時の胃への送気を抑えることは明らかであり、その効果は圧迫圧に比例する。強く押せば押すほど空気は胃に入りにくくなる。しかしこれらは麻酔下の検討であり、CPA患者での検討ではない。
圧迫で嘔吐は防げるか。屍体を用いた検討では胃からの逆流を防ぐとしている。しかし麻酔下の検討でははっきり防ぐとは言い切れず、すべての症例報告は輪状軟骨圧迫をしていたにもかかわらず嘔吐したものである。輪状軟骨圧迫はラリンゲアルチューブや気管挿管を難しくし、完了までの時間を延ばす。
効果が否定されたわけではないのでこれからも輪状軟骨圧迫は残るだろうが、やったからといっても嘔吐がすべて防げることはない。限界はしっかり覚えておこう。
参考文献
ガイドライン2010ワークシート
http://www.americanheart.org/presenter.jhtml?identifier=3060062
10.8.10/9:13 PM
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