120304 「救急隊員の救急蘇生」報告書から
OPSホーム>最新救急事情目次>120304 「救急隊員の救急蘇生」報告書から
120304「救急隊員の救急蘇生」報告書から
2012年3月2日に「救急隊員の救急蘇生ワーキンググループ」報告書が出た。今まであやふやだった点が解決されているかと思えば、現場に投げた事項ばかり目についてしまう。今回は最も旬なこの報告書を取り上げる
目次
ショックファースト・CPRファースト
私が最も注目していたのは、左記の二つの概念がなくなるかどうかであった。ところが結論は地域MCに丸投げであった。
ガイドライン2005では発症からCPR開始まで4-5分では早く除細動したほうが予後か良いのでショックファースト、5分以降はCPRを先に行ったほうが予後が良いのでCPRファーストとしていた。CPRファーストでは2分間のCPRを行った後に除細動をする。ところがこの区分に意味がないことが次第に明らかになってきて、日本版ガイドラインははっきりとしたこと、例えばショックファーストとCPRファーストの境い目は卒倒何分からかとか、この区分がなくなってCPRファーストだけになるにしても除細動まで30秒なり1分なりのCPRを全例にした方がいいのか、などが全く抜け落ちている。これでは消防さんは困るだろう。
その困惑に答えるべく報告書では杓子定規に線を引いて欲しかった。報告書では「ガイドライン2010では…ショックの前に90秒から3分間のCPRを行うことを指示あるいは否定するエビデンスが十分ではないと記載されている」とこの連載でも取り上げた項目を述べたうえで「ただしこれは(中略、つまりCPRファーストのこと)を否定するものではないが、いずれにせよ電気ショック(解析)までの間、良質なCPRを継続することが重要である」と、CPRファーストの立場を否定も肯定もせず、「電気ショックとCPRの優先順位の判断(shock-firstかCPR-firstか)は、地域MCの裁量に委ねるべきである」と結ばれている。
地域MCで決めろと言っても隣接地域と蘇生方針が異なって蘇生率に差が出てしまっては大変なので、結局は東京消防庁か、北海道なら札幌消防局の決めた方針と同じになるんだろう。
胸骨圧迫交代はやっぱり2分
ガイドライン2010では「救助者が複数いる場合には1-2分ごとを目安に胸骨圧迫の役割を交代する」としている。これに対して救急隊員の場合は「十分な体力を有する救急隊員においては、従来どおり、約2分間おきに交代することが望ましい」とされた。いつも胸骨圧迫を行っている救急隊員なら2分間は大丈夫だと私も思う。交代に要する時間については最小限で最大5秒。これは以前と変わらない。
人工呼吸はいつすればいい
これもあいまいな表現がされている。ガイドライン2010では「胸骨圧迫から開始する」「熟練した救助者がBVMなどの人工呼吸用デバイスを最初から準備し、かつ小児の傷病者、呼吸原性の心停止、溺水、気道閉塞などに対して心肺蘇生を開始する場合は気道確保と人工呼吸から開始することが望ましい」とされている。では普通の心原性卒倒なら胸骨圧迫30回をやってから人工呼吸2回なんだろうと思うとそれが違うらしい。報告書では「救急隊が心肺停止傷病者と接触する場合は…CPRは原則、胸骨圧迫から開始するが、人工呼吸の準備が整い次第、人工呼吸2回を行うこととする」としている。言葉は違うが内容は小児の蘇生と同じである。
この表現ならば最初からバックバルブマスクを左手に持って入場すれば最初に2回人工呼吸するのが正解のようだ。まあそれは極端にしても、できるだけ早く人工呼吸をさせたいのだろう。胸骨圧迫が先か、人工呼吸が先かの議論はどちらが優れているか分かっていないのだから、ガイドライン2005の時のように、先は必ず胸骨圧迫30回、次に人工呼吸2回と決めても良かったのではないか。
2010移行は速やかに
「…地域MC等の関係機関と十分に連携を図りつつ…救急隊員および消防職員に対する教育等を行った上で、救急現場等で不都合が生じることがないよう準備が整い次第、速やかに移行すべきである」といってもこの文言ではまだしばらくかかりそうだ。さらに続く文章では、この報告と通知→プロトコル作製→事後検証会開催→周知という段階を踏むように求めている。さらに各消防署において医師か救命士を講師にして消防職員に教育するとしている。
きっと大きなところではもうプロトコルは作成していて、それが地方に流れてくるのだろう。大都市ほど早くガイドライン2010に移行し、地方の消防が最後になるのはいつも変わらない。
蘇生率は変わらない
ガイドライン2010で見かけ上最も大きな変更はABCがCABになったことだが、これは全く根拠のない変更であることはこの連載で何回も述べている。根拠のある変更で最も大きいのが胸骨圧迫の深さと回数が増えたことで、これは救急隊員にとっては蘇生率や生存退院率の向上につながる可能性があるが、一般市民にとってはたとえ1分間であっても5cm以上押し続けることはまず不可能だろう。大改革だったガイドライン2005で目立った向上が感じられない以上(論文でいくつか高評価のものがあるとしても)ガイドライン2010を現場に導入したからと言ってそれがすぐ救命率や生存退院率に結びつくとはとうてい思えない。
OPSホーム>最新救急事情目次>120304 「救急隊員の救急蘇生」報告書から
12.4.14/7:55 AM
]]>
コメント