120527アドレナリン使用は死亡率を上昇させる

 
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120527アドレナリン使用は死亡率を上昇させる

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 アドレナリン使用についてはこの連載では過去に「現場での心拍再開率を上昇させる」「生存退院率は変わらない」と報告してきた。今回九州大学からアドレナリンはヒトを死亡させるというショッキングな論文が出たので報告する。

心拍再開するも死亡率上昇

 九州大学公衆衛生学教室と九州大学病院ICUからの報告で、アメリカ医学会雑誌(JAMA)に3月21日付で掲載されている。

 2005年から2008年までの病院外心停止患者41万7188名を対象とした前向き非無作為試験である。年齢は18歳以上とした。検討項目は病院到着前の心拍再開率、1ヶ月後の生存率、脳機能が優もしくは良(cerebral perfomance category {CPC}1もしくは2)、神経学的に機能良好(overall perfomance category[OPS}1もしくは2)である。

 対象患者はアドレナリン投与群1万5030名、アドレナリン非投与群40万2158名である。病院到着前に心拍が再開したのはアドレナリン投与群で18.5%、アドレナリン非投与群で5.7%であった。これはアドレナリン投与群が有意に高かった。1ヶ月後の生存率はアドレナリン投与群が5.4%に対して非投与群は4.7%、脳機能が良好だった率はアドレナリン投与群が1.4%非投与群2.2%、神経学的機能良好がアドレナリン投与群が1.4%非投与群が2.2%であり、これらは全て危険率0.1%未満で有意差を認めた。

 何だやっぱりアドレナリンを使った方が1ヶ月後の生存率がいいじゃないかと思うのだが、問題はこれから。患者数が異なり、また発生年によって処置の方法も異なるので、両群の患者特性を合致・補正した。その結果対象患者数はアドレナリン投与群、非投与群とも13401名になった。特に考慮したのは発生年別の症例数である。これは発生年で蘇生法が異なる(2005年なら蘇生方法が胸骨圧迫15人工呼吸2だし、2008年なら30:2)ため、片方が2005年ばかり、もう片方が2008年ばかりでは厳密な比較ができないためである。これにより、補正前では2005年のアドレナリン投与群190例非投与例10万514例であったものが、補正後には投与群183例非投与群174例と、ほぼ同じ数になっている。

 この補正した群で比較したのがこの論文の主張である。心拍再開率はアドレナリン投与群で18.3%、非投与群で10.5%であった。補正前は18.5%と5.7%だったからアドレナリンによる心拍再開は思ったより少ないようだ。1ヶ月後の生存率はアドレナリン投与群で5.1%、非投与群で7.0%。ここでアドレナリン投与群が不利というデータが出てくる。脳機能の良好な割合はアドレナリン投与群で1.3%、非投与群で3.1%。神経学的機能良好がアドレナリン投与群で1.3%、非投与群で3.1%であった。これらはすべて危険率0.01%未満で有意であった。結論はアドレナリン投与は心拍を再開させるがその後の死亡率も上昇させる、ということである。

アドレナリンは心筋障害あり

 アドレナリンは心肺蘇生に有利な薬剤とされてきた。アドレナリンにはα作用とβ作用があり、α作用によって全身の血管を収縮させて心臓への血液の戻りを増やし、心拍が再開した後にはβ作用が心筋の収縮力を強めて体に血液を回すと同時に気管支を拡張させて呼吸を楽にし肺からの酸素取り込みを促す。これらの作用が相まって救急現場での心拍再開率が向上する。今回のデータを見ても、補正後のデータではアドレナリンを使うと2倍、補正前のデータでは実に4倍の心拍再開率を得ている。ではなぜそのまま心臓は動いていてくれないのか。アドレナリンには酸素要求量を増大させる。これは心臓や肺の動きが不安定な時期では組織の酸素欠乏につながる。また心筋機能を障害する作用があり、さらに蘇生後の微小脳血流の撹乱作用、蘇生後の心室性不整脈誘発作用が報告されている。

いままでも報告あり

長期予後についてアドレナリン投与が不利に働くことは過去にも報告がある。2002年にスウェーデンから出た報告2)では、アドレナリンを投与されると1ヶ月後の生存の確率が半分になった。2004年にカナダから出た報告3)でも同じく自脈再開率は向上したが生存退院率は変化なかった。2007年にシンガポールから出た報告4)では、自脈再開率、生存病院到着率、1ヶ月後の生存率ともアドレナリンを投与しても投与しなくても全く変化はなかった。

 今回の報告の特徴は、アドレナリン投与群と非投与群の患者背景を一致させ、比較に耐えられる群を作った上でアドレナリンの欠点を抽出したことにある。逆にこの論文で最大の欠点は、補正群を作るときに人為的な作業を加えていることだ。データは元データが最も信頼できるもので、それに手を加えるたびに信頼性は低下していく。いくら統計学的に優れている処理であっても元データが最も多くの情報を有するのは変わらない。

アドレナリンはオロナミンCか覚醒剤か

 アドレナリンを使っても結局は心臓は止まることは臨床上納得できることである。ただ、だからといってアドレナリンがなくなることはないだろう。補正後のデータで2倍、補正前のデータで実に4倍も心臓が動くとしたら、やはり現場の人間は使ってしまう。現場で心臓が動いてくれるのならアドレナリンはオロナミンCに例えることができるが、それで長期生存が妨げられるとしたら覚醒剤に例えることもできそうだ。

 蘇生の第一選択のアドレナリン。ただのオロナミンCなのか、それとも覚醒剤と同じ類いなのか、なる検討が待たれる。

文献

1)JAMA 2012;307:1161-8
2)Resuscitation. 2002 Jul;54(1):37-45.
3)N Engl J Med. 2004;351:647-56.
4)Ann Emerg Med 2007;50:635-42


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12.5.27/9:27 AM

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