130408酪農事例

 
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講座・特異事例

130408 酪農事例

講師

名前  中村 将人(なかむら まさと)
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所属  稚内地区消防事務組合消防署豊富(とよとみ)支署
出身地 北海道利尻(りしり)町
消防士拝命 平成22年4月1日
趣味  野球、スポーツ観戦

はじめに

豊富(とよとみ)町について説明します。

写真1
国立公園サロベツ原野と利尻富士

写真2
放牧型酪農

豊富町は北海道最北の稚内市の約40kmの南に位置(写真1)し、酪農が基幹産業の町です。1万3千ヘクタールの牧草地を基盤とした放牧型酪農(写真2)を展開しており、乳牛頭数1万6千頭、年間出荷乳量7万2千と道内でも上位にランクされております。町内には豊富牛乳公社があり、地元で生産した牛乳を「豊富牛乳」として加工・生産し、生産工場として道内のコンビニにて販売しております。

豊富町の気候は、夏は涼しく、冬は北西の風が強く乾燥寒冷であり気温も年平均5~6度と低い地域で、人口数は4308人(6月末現在)となっております。日本最北の温泉郷豊富温泉は、大正末期に拓かれた北海道でも歴史のある名湯のひとつで、肌にやさしい泉質が人気で心と体の疲れを癒しに、道内外からたくさんの観光客が訪れております。

酪農事例とは・・・

農家で起こる事例で、多くの場合が作業中の事故です。農家はほとんどが市街地から離れたところで農業を行っているため、出動してから現場到着までに時間がかかってしまいます。豊富町の一番遠い農家では20分以上かかるところもあり、急病や一般負傷などの応急処置が遅れてしまいます。また、農業で使用される道具や機械での事故などは一般負傷や労働災害が多く、ほとんどが重症です。そのため現場や車内での処置がとても重要になります。

近隣病院では対処できないような患者もいるため、町内の病院にて検査や応急処置を行ってから他の医療機関へ転院搬送したり、さらに一刻を争う場合ではドクターヘリで搬送することもあります。

事例1

雪も少し降り積もる11月の下旬。稚内消防署から「携帯電話119番に通報が入ったが途中で電話が切れてしまったため確認してほしい」との連絡により、通報者の携帯電話へ連絡したところ、通報者本人が「頭部を挟まれ怪我をしている」との通報で出動しました。

発生場所にあっては市街地から約10kmの場所で、現場到着時、傷病者は牛舎内にて座位の状態で頭部から出血(*1)している状態でした。

傷病者観察後、応急処置・バイタル測定を実施。観察状況にあっては、右側頭部陥没・右眼窩部周辺の変形及び裂創と出血・鼻出血・右眼に痛みがあり開眼不能。また、止血処置実施中に激しい嘔吐感があるが吐物はありませんでした。バイタルは、脈拍107回/分・血圧173/79・呼吸30回/分、SpO2は 94%でしたが高エネルギー外傷(*2)を疑い、酸素を10L投与しました。

写真3
自走給餌車
自走給餌車とは、自走しながら牛に餌を与える機械。立位で乗車し、足元のペダルにより前進・後退ができ、左右に餌を与えることが可能で走行スピードは最大で人が歩くより少し速い程度。

傷病者からの聴取によると、自走給餌車(写真3)に乗車して後退していたところ牛舎の梁(H鋼)と自走給餌車の間に頭部を挟まれたとのことで、自力で安全な場所へ避難した後、自ら携帯電話にて救急要請及び家族へ助けを求めたとの事でした。

救急隊観察終了後、ドクターヘリの出動を要請(*3)し、搬送を開始しました。

写真4
豊富ヘリポート

車内収容後のバイタルは、脈拍56回/分・血圧138/81・SpO2 99%(酸素を10ℓ投与)を測定し、その後病院到着までの間バイタルを継続的に測定するも大きな変動はありませんでした。ドクターヘリ到着までの間、豊富町国保病院にて応急処置をした後、ドクターヘリが到着したとの一報を受け、ヘリポートへ搬送し、ドクターヘリにて豊富ヘリポートから旭川日赤病院へ搬送しました。(写真4)

後の医師の診断名は顔面陥没骨折、右眼球破裂でした。

事例1解説

*1 体内の血液の20%が急速に失われると出血性ショックに陥り、30%を急速に失うと生命に危険を及ぼすといわれています。

*2 高エネルギー外傷とは、受傷機転から考え生命に危険のある損傷を負っている外傷のことです。この事例では観察状況から高エネルギー外傷を疑い、オーバートリアージや状態の急変に注意しながら、観察や処置、バイタル測定などを行いました。

*3 旭川市までは約200km離れています。ドクターヘリは豊富町まで約50分で到着し、一度給油をしたのちに医療機関へ搬送を開始します。今回の事例では通報者が本人とのことで、通報の段階で重症度の判断が確認できず、現場到着後に専門医診断の重要性を判断しました。覚知の段階でドクターヘリを要請できればさらに短縮できたと感じた事例です。

事例2

「作業中、ロールベーラーに右腕を挟まれ切断してしまった」との通報により出動。発生場所にあっては市街地から約20kmのところにある兜沼(かぶとぬま)地区で、稚内市からは約30kmの場所。

写真5
圧迫止血

現場到着時、傷病者は自宅玄関におり右上肢が切断している状態で、意識は清明でしたが自力で歩行することはできないとのことでした。右肩部より約15cm遠位を切断しており、腋窩部の裂創、右前胸部打撲を確認しました。バイタルは、脈拍102回/分・血圧143/99・呼吸18回/分・SpO2 96%でした。酸素マスクにて酸素を4L投与し、切断部は三角巾・ガーゼを使い直接圧迫にて止血(写真5)。

写真6
切断した右腕をクーラーボックスに収納(人形)

切断肢はビニール袋へいれてクーラーボックスへ収納(*2)しました(写真6)。

写真7
ロールベーラー。刈った草を集めて牧草ロールを作る機械

傷病者からの聴取によると、牧草地にてロールベール成型作業中、トワイン(紐)を補充しようとしたところロールベーラー(写真7)に右腕を挟まれ切断し、その後自力で帰宅し救急要請したとの事でした。観察・処置後、傷病者を坐位にて車内収容し、市立稚内病院を選定(*3)し搬送を開始しました。

収容後のバイタルにあっては、脈拍は104回/分、血圧は150/97、SpO2 は99%で、搬送中は容態の変化に注意し、バイタルの経過観察を継続しながら搬送しました。病院到着後、医師へ引継ぎを行い帰署しました。搬送時間は収容先医療機関が稚内市ということで23分かかりました。
後の医師の診断名は右上肢切断でした。

事例2解説

*1 止血法には、直接圧迫止血法以外に関節圧迫止血法として止血帯法があります。直接圧迫止血法は止血帯法に比べて効果的かつ安全です。止血帯法は出血している患肢の中枢側を包帯などで強く縛る方法で、合併症として神経損傷の可能性もあります。

*2 切断肢に対する処置は、温めない、乾燥させない、清潔を保つことです。切断肢は滅菌ガーゼで包み、ビニール袋で密閉し、氷水で冷却します。凍結は組織障害をきたすので避けます。切断肢の断端は滅菌ガーゼを当て、圧迫包帯をします。

*3 発生場所が豊富と稚内の中間で、豊富町国保病院へ搬送した場合一時処置後に稚内へ転院搬送となるため、はじめから市立稚内病院を選定し搬送しました。

終わりに・・・

酪農事例は、機械などの作業中に起こる事故がほとんどで、重症度が高く、1人で作業することも多いので通報が遅れてしまうこともあります。紹介した2つの事例では、どちらも1人で作業を行っている時に起こった事故で、事例1では傷病者本人が携帯電話を持っていたことで、通報の遅れは少なく済みましたが、事例2では自宅に帰るまで通報することができず、処置を行うまでに時間がかかりました。機械での事故のため重症度も高く、一刻も早く医療機関へ搬送しなければなりません。近場の医療機関へ搬送するのか、ドクターヘリで他の医療機関へ搬送するのか素早く適切な判断が必要になってきます。

また、どちらも救助活動はありませんでしたが、救助活動があった場合に時間の遅れや傷病者の状態に対応するなど、救助隊と連携しての訓練も必要だと感じた事例でした。


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13.4.8/8:57 PM

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