170820花のほほえみ、根の祈り

 
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170820花のほほえみ、根の祈り

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170820花のほほえみ、根の祈り

作)ウルトラマン

 平成28年4月16日未明。聞き慣れない大音量のアラームで飛び起きた。携帯電話の緊急地震速報である。同じく飛び起きる妻。私と妻の間ですやすや寝ている子供たち。とっさに何ができるか考えたが、私にはディスプレイを見つめることしか出来なかった。

 テレビで熊本の震災の様子を見ていると、私にも緊急援助隊の派遣指令が来た。倉庫から大きな鞄を取り出し、3日分の着替え、薬、石けんなど、深夜に慌ただしく準備する。妻はどこかに連絡を取っていた。私が熊本に派遣されることを、どうやら親族に知らせたようある。私の携帯にはたくさんのメールが届いた。「気を付けてね」「無事に帰ってきください」と。

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 中国・湖南省の山岳地帯を舞台にした「山の郵便配達」という映画を思い出した。険しい山道を3日かけて120キロの道を行く。その途中にある村々に立寄り、郵便物を配達する父子の物語である。

 交通手段がほとんどない山村に、長年郵便配達の仕事をしてきた初老の男性がついに力の限界を感じる。そして息子が父の仕事を引き継ぐ日がやってきた。映画は、父にとっての最後の仕事、息子にとって最初の仕事となる2泊3日の旅を追いかける。

 息子は、郵便物がきっちり入った重いリュックを背負う。その後を無言でついていく父。長い間、父は仕事のために家にいなかった。家族の絆は極めて薄い。だから、ただ黙々と歩く。

 ある村に着いた。全盲の老婆に軍隊に行った孫からの手紙を渡す。老婆は一度手紙を受け取った後、「手紙を読んでくれ」と父に頼む。父は読み上げる。「おばあさん、目はどうですか?腰の具合はどうですか?こちらは順調です。なかなか帰れないので困ったことがあったら郵便配達の人に頼んで下さい・・」老婆は言う。「いつも同じだな」

 父は息子に手紙を渡して「続きはお前が読め」と言う。息子が手紙を見る。白紙だった。息子は戸惑いながらも何も書かれていない紙を見て、「一人暮らしは大変だね。よければ一緒に住みましょう」と続けた。老婆と分かれた後、息子は「ああやって何年も父はあの老婆に白紙の手紙を読んであげてきたんだ。そしてこれからは俺が読んであげなきゃいけないんだ」と考える。

 そしてまた思う。「外に出た者は家を思う余裕はないが、家にいる者は外の家族を思うんだ」と。

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 結局私が派遣されることはなかったが、災害現場で活動する皆様も、地元で任務を遂行する皆様も、どうか無事に帰ってきて欲しい。家族はみなそれを望んでいる。「花のほほえみ、根の祈り」生き生きとした美しい花びらを支えるのは、目には見えない地深く支える根っこである。


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17.8.20/4:55 PM

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