case29:徐脈性心房細動

 
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症例

症例29

75歳男性。

主訴:意識消失

現病歴:特別養護老人ホームに入所中。寮母さんが夕食を食べさせている最中に突然意識を消失したため119番通報した。

既往歴:4年前に左脳梗塞。後遺症で右半身麻痺と運動性失語がある。

現症:通報から3分で老人ホーム到着。患者は自室のベッドで仰臥位で寝ていた。意識は意識消失前と変わらず、こちらの問いかけにうなずいて答える。口腔内に食物残渣なし。呼吸、血圧測定せず。SpO2 94%


Q1:意識消失発作の原因は
Q2:搬送中の注意点は


A1:複数の原因が考えられる。
1)誤嚥による気道閉塞:初めに考えられるのはこれである。病院としても誤嚥を考え受け入れ準備をしていた。
2)脳卒中。意識が消失するのであれば一時的に頭蓋内圧が亢進するくも膜下出血や脳出血が考えられる。
3)心停止。洞不全症候群の可能性がある。
4)低血糖発作。今回は食事中ということで可能性は低い。しかし可能性が高く初期治療を誤れば取り返しがつかないということで必ず頭に入れておきたい。

A2:意識消失の原因による。再発作を考えて、酸素投与、心電図モニター、パスルオキシメータ、吸引の準備は必須。

解説
病院への連絡では意識消失しすぐ回復したとのことで、誤嚥は除外できた。脳卒中も経過からいって可能性は低い。心臓疾患を考えて対処することとした。
患者は過去の脳梗塞のため表情に乏しく、また運動性失語のため発語ができない。しかしこちらの話していることはわかるので、どんなふうに意識がなくなったか尋ねてみた。すると「急に」「ふわっと」意識がなくなり、気がつくと同じテーブルの前にいたとのこと。寮母さんの話では意識消失は1分程度ですぐ回復したとのことであった。
心電図所見を写真1に示す。
単なる徐脈と間違えやすいが、よく見るとQRS間隔が一拍ごとに異なっているのがわかる。これは心房細動の心電図である。心房細動といえば脈が不規則で速くなるように考えやすいが、房室ブロックの傾向があるとかえって徐脈になる。今回のエピソードは高度徐脈によって脳血流が途絶したものと考えられた。
治療法としてはペースメーカーの埋め込み術が考えられるが、家族と話し合った結果、原疾患と年齢から埋め込みは見送ることにした。

写真1
患者の来院時心電図所見。基線のぶれはほとんどないが、これは心房細動である。


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