子供は死んではいけない

 
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子供は死んではいけない

HTMLに纏めて下さいました粥川正彦氏(滝川消防)に感謝いたします


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最新救急事情2000/04月号

子供は死んではいけない

 何回遭遇しても嫌なのが子供の死である。家族の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。子供は未来であり希望である。死ぬ順序を間違えてはいけない。事例:北海道小樽市 「四歳女児の呼吸がない」との通報で出動した。通報時、指令員はCPA状態と判断しCPRの口頭指導を行った。出動後、幼児の救命処置可能な直近病院の選定を指令係に指示した。

 現場到着時、女児にはソファーの上で母親によりCPRが行われていた。JCS300、呼吸感じず総頚動脈触れずCPA状態で、瞳孔散大対光反応なし。前頚部に細い索状痕を認めたが、気管変形はなくバッグマスク換気も良好であった。母親によると「ベッドの上で飛び跳ね遊んでいるのは分かっていたが、別室で30分ほど家事を行い寝室に行くとベッド横窓のロールアップカーテンの紐で首を吊っている状態を発見した。すぐさま降ろし119番通報、CPRを指導されたので無我夢中で行った」と聴取した。

 同じ年頃の子供を持つ私もその親の気持ちが痛いほど分かり、必死の思いでCPRを行った。直近病院が収容可能と無線があり、迷わず女児を抱え車内搬入をした。バッグマスクに酸素接続しCPRを継続、心電図測定を行ったが心静止であった。女児の足にすがり泣き叫ぶ親は回復することだけを願っていたに違いない。我々にできる処置を必死で行う気持ちを伝えるのが精一杯であった。

 病院到着時、呼吸脈拍は回復せず搬入となった。院内処置中心拍が再開したが、10病日後蘇生後脳症にて死亡退院となつた。

 やるせない気持ちをぶつけるところはない。必死の思いでCPRを行ったのに。スクープアンドランで直近病院に収容したが、本当によかったのだろうか。チェーン・オプ・サバイバルもうまくいった。しかし、発見までの最長30分という時間は本当に惜しい気がする。

 子供の事故というのは思わぬところで起きてしまう。しかし、事が起きてしまったときに通報はされるもののCPRが行われていることは少ない。呆然と立ち尽くしているか、子供にすがり名前を叫んでいることが多いのではないか。

 通報時のCPR口頭指導は実施率を高めるのに有効である。我々救急隊はそのCPRを引き継ぎ、最大限の努力をする。そして処置拡大が叫ばれる中、我々救急隊員が短時間で容易に行える手技で、かつ継続性のある処置の拡大を望むものである。

小児CPAの現状1995年、カナダのトロントでCPAで発見された平均2歳の101人を追跡した研究によれば、64人に心拍が得られた。しかし、生存退院は15人(15%)であった。そのうち神経学的後遺症が残らなかったのはわずかに5人(5%)で、5人全員発見時に心拍が残存していた。残り10人中、2例は1年以内に死亡し、2例は全くの植物状態、その他6例も軽微から重篤な後遺症を残している。

 99年、17歳以下300CPAを対象とした研究では、60%以上で心肺停止時に家族が近くにいたにもかかわらず、CPRを行ったのはわずか17%であった。

 83年に同様の研究が報告されて以来、生存退院率は2−21%の間にとどまっている。小児病院外心停止の治療に進歩はないのである。

どんなCPA患児が助かるか 助かる最も大きな要因としては、病院到着前に蘇生に成功することで、次いで心肺停止から病院到着までの時間が短いこと、到着時脈拍が残っていること、救急室で短時間に蘇生すること、蘇生時にエピネフリンの使用量が少ないこと、気管内挿管を行ったこと、等が挙げられる。蘇生に20分以上を要した症例では生存退院した患児はいなかった。我々の行うべきこと 第一にうつ伏せ寝追放キャンペーンなどの啓発活動。

 第二にCPRの普及。子豚を窒息させCPRを行ったところ、24時間後の生存率は人工呼吸と心臓マッサージ(心マ)を行った群が80%(後遺症なし70%)、心マのみが21%(同7%)、人工呼吸のみが14%(同14%)、何もしないと25% (同0%)であった。この結果からはABC揃ったCPRが必要であるといえる。 第3に救急隊員の手技の向上。成人のCPA症例に比べ、気管内挿管や血管確保の率は小児CPA症例で明らかに少ない。脛骨骨髄輸液を積極的に行っているところもあり、そこでは85%の小児で血管確保に成功している。これは「弁慶の泣き所」に針をねじ込む方法で、慣れれば数秒で成功する。

結 論
(1) 小児病院外CPAの状況は一七年前から進歩せず悲惨なままである。
(2) 心拍があれば蘇生の可能性はある。
(3) 骨髄輸液は検討すべき手技である。

 本稿執筆に当たっては、北海道小樽市消防本部・川崎信夫救急救命士の協力を得た。

〈引用文献)
 1)N Eng J Med 1996;335(20):1473−9
 2)Ann Emerg Med 1999;33(2):174−84
 3)Ann Emerg Med 1995;25(4):495−501
 4)Crit Care Med 1999;27(9):1893−9
 5)Ann Emerg Med 1997;29(6):743−7
 6)Pediatrics 1995;95(6):901−13

     文−玉川 進 旭川厚生病院麻酔科



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