事後事例検証会:心筋梗塞患者の病院選定

 
  • 245読まれた回数:
症例

 

事後事例検証会:心筋梗塞患者の病院選定

OPSホーム>投稿・報告一覧>事後事例検証会:心筋梗塞患者の病院選定

事後事例検証会:心筋梗塞患者の病院選定 プレホスピタルケア 2003;16-6(58);64-68


事後事例検証

本日の議題「心筋梗塞患者での病院選定」

傷病者の概要

67歳男性。
発生場所:一般住宅
覚知時間: 20:22
通報内容:妻からの通報。夫が胸を痛がっているとのこと。また狭心症の既往症があるとのこと。
現着時のバイタル:意識清明。呼吸正常。脈拍50回/分整。血圧147/77mmHg。Spo2 98%。
現場で取った情報:妻からの情報では、胸痛は通報の1時間30分前よりあったとのこと
既往症:狭心症。

質疑応答
病院選定について考えてみましょう。

座長:今回の事例は心筋梗塞の患者です。理想は Coronary care unit (CCU)のある病院に迅速に搬送すべきですが、そういった恵まれた救急隊は多くはないと思います。まず症例の検討をし、そのあとに病院選定も議論します。まず症例についてですが、フロアから質問はありませんか。

A:かなりあっさりした症例提示ですね。搬送の様子など詳しく話してください。

救急:傷病者は平成8年に狭心症で初めて救急搬送されている方で、小さい町なので記憶がありました。通報内容から心筋梗塞が予測できたので、傷病者宅には隊長バック・酸素を携行しました。現着時、傷病者は自宅居間のソファーに胸を押さえた状態で座っていました。苦悶様顔貌で痛みのためか会話をすることはできませんでしたが、質問には頭を振るなどして答えていました。すぐにバイタルチェックを行い血圧の低下や脈の不整がないことを確認して車内収容しました。車内で心電図モニターを装着したところSTの上昇が見られたので、心筋梗塞と判断しました。

B:除細動器は用意しなかったのですか。

救急:救急車には積んであるのですが、私のところではまだ医師の指示体制ができておらず除細動器は使えないため携帯しませんでした。

C:狭心症はコントロールされていたのですか。

救急:そのコントロールの状態は聞いてはいませんが、普通に生活していたと聞きました。

D:通報の段階で心筋梗塞とわかりますね。救急さんのところではこの場合どのような対応をしていますか。病院選定や器材の用意等です。

救急:病院選定なのですが町には病院が一箇所しかありませんが、私たちが他の町の病院、ここでは CCUのある市立病院への搬送が妥当だと考えれば家族に説明してそちらに搬送します。隊長が傷病者の状況を家族に説明し市立病院循環器CCUを勧めたのですが、この傷病者も平成8年の入院以降はずっとこの病院で診てもらっていましたため家族はそこへの搬送を希望したようです。

E:医師の指示体制は致し方のないところなのでしょうね。

救急:器材は心電図モニターと酸素を携行しました。除細動は医師の指示体制が整っていないため携行しませんでした。

F:バイタルを見る限り家では心原性ショックにはなっていないようですね。その後の様子を教えてください。

救急:起座位のまま搬送していました。患者はずっと苦しそうで、妻に「死ぬかもしれない」といっていました。心電図モニターを注意深く観察しながら搬送していたのですが、突然心室性期外収縮が多発し、患者はショック状態になりました。しかし、先ほど申し上げた通り指示体制が整っていないのと病院到着直前だったのことからそのまま病院搬入となりました。

G:心電図変化はいかがでしたか。病院からどの部位の梗塞かは聞いていますか。

救急:心電図は、搬送途中までは整脈で 近似II誘導で STの上昇が観察されました。病院到着直前には 心室性期外収縮、多分 R on Tから心室(VF)になったと思います。初めからバッグマスクで酸素を投与していたので、患者にすぐ人工呼吸を施行することができました。人工呼吸を始めてから 30秒もしないうちに病院へ到着しました。

H: VFになった時点で CCUへ行き先を変更することは考えなかったのですか。

救急: CCUのある病院は VFになった時点から10以上かかります。除細動もできない状態ではまず直近の病院に運んで除細動をしてもらうのが一番と考えました。

I:かかりつけの病院での処置はどうでしたか

救急: CPRは救急隊が継続して、先生はまず除細動を行いました。一回目の除細動で心拍が戻ったので CPRを中止し、心電図記録、酸素投与、静脈確保、リドカイン点滴を開始して先生が同乗して CCUのある市立病院へ転院搬送となりました。

座長:市立病院から心電図(図)を拝借してありますので見てください。発症6時間後のものだそうです。所見はいかがでしょうか。

 

拡大

J:STの上昇とその形態、それと異常Qが III, aVFくらいしにか出現していないことから、心筋梗塞のごく早期のものです。

座長:梗塞部位は分かりますか。

医師A:STの上昇が II, III, aVF, V1からV5までみられています。また aVLではSTの低下がみられています。STの上昇から考えると前壁から側壁にかかる梗塞も考えられます。左冠状動脈前下行枝領域の広範な梗塞です。

K:よく助かりましたね。

医師B:この心電図のときにはたまたま整脈だっただけで、その前後も不整脈が頻発しまして、非常に危険な状態が続いたようです。 VTや short runも頻回でした。

座長:CCUでの経過はいかがでしたか。

医師C:病院到着時にはバイタルは安定していたのでダイレクト PTCA(冠動脈形成術 )を行いました。これは冠動脈に直接カテーテルをいれ、風船を膨らませることによって狭窄・閉塞した部分を解除する方法です。解除は成功し、再閉塞防止のためステントを留置して終了しました。

座長:救急隊員の方のためにもう少し詳しく説明してくれますか。

医師D: 急性心筋梗塞症に対し最も重要な治療は、閉塞した冠動脈を再び開通させる「再灌流療法」です。血管が詰まっていていも虫の息ながらまだ生きている心筋は多いので、この方法で心筋に血流を再開させて心筋梗塞の大きさを早く縮小させるわけです。当然のことながら一刻も早く行えばそれだけ予後はよくなります。一般的には発症後6時間までに行えば、梗塞範囲が小さくなることが確かめられています。
再還流療法には薬で血栓を溶かす「血栓溶解療法」か、カテーテルの先に風船がついていて冠動脈を直接押し広げる冠動脈形成術(PTCA)の2種類があります。また血栓溶解療法にもカテーテルで冠動脈のみを狙う局所方法と、溶解剤を静脈注射して全身に行き渡らせる全身療法があります。全身療法については特殊な施設がなくてもすばやく行え、血流再開までの時間を短縮することができる利点がありますが、再還流成功率が50%と低く治療後も虚血再発率が高いこと、それに脳出血の既往のある患者では使えないなどの禁忌も多く存在するため、広大な土地を持つアメリカなどではかなり普及してきていますが日本ではまだといったところです。ダイレクト PTCAは日本では可能な施設が1000施設以上あり、また成功率が90%以上で緊急再還流療法の主流となっています。再狭窄率は40%とたかいのですが、ステント留置により再発率が20〜30%に改善されることが分かっています。

座長:ありがとうございました。それではフロアからの質問はありませんか。

島救急:私は島で働いている救急救命士です。この都会では病院選択の余地がありますが、私のところではそうもいきません。それで、こちらに搬送する判断基準を教えていただきたいのですが。

座長:搬送するというのは、救急隊の方で直接船やヘリで運ぶということですか。

島救急:そうです。島の医療体制は国保病院が1つ、診療所が2つあって、ほとんどの事例が搬送される国保病院は内科、外科、小児科、産婦人科、整形外科となっています。 CCUはありませんし、内科の先生たちの専門は消化器だそうです。

L:搬送する手段は何があるのですか。

拡大

島救急:本土に搬送する場合には搬送手段が3つありまして、フェリー・ヘリコプター・双発機となっています(表)。第一優先はヘリです。悪天候でヘリが飛べないときに双発機が飛んできます。

M:ヘリも双発機も一度乗ってしまえば速いのでしょうが、それまでの準備がかかりますよね。

島救急:そうです。ヘリの場合には消防が要請して傷病者を乗せ病院に着くまで2時間程度かかります。ヘリは本土からやってくるためそれくらいかかるのです。また双発機の場合にも本土の空港から離陸するため、要請から病院着までヘリと同じくらい時間がかかります

N:重症患者の病院転送の場合には、医者や看護婦さんは同乗してくれるのですか。

島救急:ほとんどの場合、医師1名が同乗していきます。患者さんの状態によっては2名同乗する場合もあります。
医師 E:結局はそこのドクターの判断になるのでしょうが、不整脈が多発している、重篤感がある、バイタルサインが安定しない、などは一刻も早く市立病院に送った方がいいと思いますが、問題は2時間という時間です。状態によっては搬送に耐えられない場合もあると思います。搬送に耐えられる心筋梗塞患者ならば発生時点で待機してもらうのがいいのではと思います。

O:全国的に展開しつつあるドクターヘリはいかがでしょう。

島救急:医師の処置を受けながら短時間で高度医療機関に搬送できるドクターヘリは、離島にとって非常に有効だと思います。しかし時間的には問題があって、現在ドクターヘリは隣県の県庁所在地にしかないため、要請から出動までは早くてもその後のフライトの時間がかかってしまいます。私たちの島の場合には飛行時間が1時間半くらいかかるため、出動を要請してから島で傷病者を乗せ本土のこの病院に着くまで3時間はかかってしまいます。県庁所在地の大学病院に運ぶことを考えるとさらに時間が必要となります。

医師:この時間を考えると救急さんの島ではあまりドクターヘリは現実的ではないかもしれません。それより全身再還流療法の適応がある患者では積極的に施行してもいいかと思います。

座長:ありがとうございました。今回は心筋梗塞の処置治療と病院選定の話となりました。病院選定では家族の説得も必要であること、また先を見越した搬送経路設定も必要かと思います。ではほかに質問がなければこれで終わります。


OPSホーム>投稿・報告 一覧>事後事例検証会:心筋梗塞患者の病院選定


https://ops.tama.blue/

06.10.9/4:27 PM





症例
スポンサーリンク
opsをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました