救急隊員のための基礎講座 12(最終回)2000/3月号 整形外科・耳鼻科・眼科

 
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AEMLデータページから引っ越してきました

HTMLにまとめて下さいました粥川正彦氏に感謝いたします


救急隊員のための基礎講座 12(最終回)   2000/3月号

整形外科・耳鼻科・眼科

今回で基礎講座も最終回。今まで残してきた項目を取り上げる。 四肢の外傷 四肢の外傷だけで死亡することはあまりない。四肢が切断されても通常は止血は容易だからである。だから、バイタルサインを確認して簡単な止血をした後、他の部位の致死的外傷の処置を優先する(コラム1)。現場に必要な器材を持ち込んで迅速に処置できるよう訓練しておくこと(コラム2)。

出血はよほどの大血管でなければ放っておいても止まる。動脈からの出血でも動脈が収縮することによって止血される。救急隊としては直接圧迫で止血を試み、それでダメな場合には断端を縛ることを考える。

四肢の切断でも挫滅でも、副木固定安静, 冷却, 圧迫, 患肢挙上を行う。創部が泥などで汚染されている場合には生理食塩水(なければ乳酸リンゲル液)をかけてきれいにしてからガーゼやタオルで圧迫する。


切断された四肢はどんなに小さく挫滅していても病院に持っていく。切断肢はいくら汚れていても洗ってはいけない。そのままガーゼかタオルに包み穴の開いていないビニール袋にいれてしっかり口を塞ぎ、それを氷水の入った袋に浮かべる。氷水は氷が直接切断肢に触れない程度にする(図2)。病院まで遠いからといって氷の割合を増やすと切断肢が凍ってしまう恐れがある。搬送に時間がかかるようなら途中で氷を足す。皮一枚で繋がっている切断肢は、繋がったまま病院に急ぐ。皮一枚でも血液を運ぶ橋となりうるし、残った皮で傷を塞ぐこともできるので、皮を粗末にしてはいけない。

ぐにゃっと折れ曲がった四肢は整復した後に副木固定して搬送する。皮一枚だけでつながっている場合にも、あきらめずに整復して搬送する。整復は四肢末端をつかんで引っ張りながら元に戻す。整復することによって神経や血管がまっすぐになり、また折れた骨で傷つくことも少なくなる。患者は整復時には心配するほどは痛がらない。これは、折れ曲がったところで神経が麻痺するためらしい。整復すれば傷の安定性が増すので痛みは減少する。こつは、思い切って一気に引っ張りあげること。一瞬で終わるようにすると患者も耐えられる。といっても救急隊員がレントゲン写真も見ずに整復しても限度があるので、「なるべく真っ直ぐに」「固定しやすいように」整復する。

副木は骨折部の上下の関節を含める。下腿が骨折していれば膝関節上・大腿骨から足関節下・土踏まずまで固定する。大腿骨骨折ならば膝下・下腿から股関節上・骨盤までの固定が必要である。

顔面外傷おびただしい血が流れるため見た目に悲惨でも、実際は大したことがないことが多い。バイタルサインに続いて眼を見る。鼻も口も耳もあとでどうにかなるが、眼だけは一刻を争う。

眼を確認したあとは口腔内を確認する。多量の出血がある場合には血塊で窒息する場合があるので、患者の頭部をなるべく高位にし、血を吐き出させる。意識障害がある場合には、口腔内の血液や折れた歯などを掻き出すとともに、口腔内を吸引する。呼吸状態が悪いときには気道確保を第一に行う。

眼外傷白目と黒目があるか観察する。眼球打撲により内出血(前房出血)すれば真っ赤になる。この場合には網膜剥離が起こっている可能性がある。眼球破裂していれば瞳孔は変形し、内容物(黒い脈絡膜か茶色い虹彩)の脱出が見られる。その場合には、患側に視力が残っているか確認しておく。指を出して本数を数えさせる。分からないようなら手の動きが分かるか、それも見えないのなら光は分かるか尋ねる。病院では必ず視力観察の結果を報告する。治療決定や詐病の診断にこの結果が反映させる。

眼外傷が疑われる場合には患側の眼を圧迫してはいけない。保護眼帯、なければ湯飲みや皿で患者の目を覆う。患者には咳やいきみをさせない。患者の不用意な寝返りや手の動作に気を付け、眼に枕や手が当たらないようにしながら眼科のある総合病院に搬送する。

鼻出血単なる鼻血と思わずに、まずはバイタルサインをチェックする。大量になると、両方の鼻から血が出てくるようになるが、出血源は必ず初発側である。患者は自分で塵紙などを鼻孔に入れている。1L以上の出血ではショック状態となることもある。

出血源の80%は鼻孔から指の届く範囲にある。患者を座らせ、バケツや膿盆を抱えさせる。綿球やちり紙で鼻孔を塞ぎ、鼻を強くつまむ。さらに氷で鼻を冷やすとよい。喉に落ち込んだ血液はバケツに吐き出させる。血液を飲むと嘔吐するためである。交通事故や転んで頭をぶつけたあとでさらさらとした薄目の出血があるのなら髄液漏が疑われる。鼻腔にタンポンせず出血を拭き取るだけにする。

凍死寒冷に放置されることにより生じる低体温により死亡することを凍死という。正常な意識の人が凍死することはない。凍死するためには、気温や風速などの周りの環境に加え、意識障害を来す何らかの原因がある(事例1)。だから、夏に凍死することもあり得る。原因としては酩酊と疲労が多く、独居老人が暖房のない部屋に放置された事例も多い。

バイタルサインのチェックをする。体温を正確に計る必要がある。腋窩体温計では35℃以下が測定不能なので、鼓膜温が望ましい。体温が低いことを確かめたら、CPRしながら適切な加温操作を開始する。救急車の暖房を入れ、周りを暖かくする。患者の衣服が濡れていたら脱がすか切断したうえ、乾いた暖かい毛布でくるむ。意識があり体温が30-32℃以上なら温度調節機能がまだ残っているため、毛布でくるむだけで体温は上がってくる。30℃付近では温度調節機能は低下し、25℃では消失する。そのため、電気毛布や風呂に漬けるなどの積極的な加温が必要である。

33℃付近で不整脈が出現しやすい。どんな些細な操作でも心室細動の危険はある。心電図をモニターしつつ、心室細動に備えて除細動の用意をする。低体温では除細動に反応しにくい。1回の除細動でだめなら、体温が少し上がったところで再チャレンジする。

静脈確保をしたら、できるだけ温かい輸液(できれば40℃)を急速投与する。長時間心肺停止をしていたと思われる症例でも復温により回復する可能性はあるので、CPRはあきらめずに行う。

図1上肢切断の男児。断端からは上腕骨頚部が露出している。出血は少ない。この患児は緊張性気胸が致命傷となった。

図2切断肢の取り扱い


事例1:低体温

65歳、女性。12月、雪の上にうずくまっているところを発見された。発見時、JCS200、呼吸・血圧正常、体温は鼓膜体温計でも測れず。救急外来に搬送された。

来院時にもバイタルサインは変化なし。腋窩・鼓膜体温計でも全く測れないため、集中治療室に搬入の上食道内体温計を挿入し、28℃の表示を得た。持ち物からは睡眠薬のハルシオンが大量に発見された。それと、医学部に献体する証明書。睡眠薬を飲んで凍死を図ったものと考え、積極的に加温するとともに、体温が32℃になった段階で睡眠薬の拮抗剤アネキセートを投与し意識回復を図った。この処置により搬入後2時間で意識レベルは2桁に、4時間後には1桁になった。体温が33℃を超えるあたりから心室性期外収縮が頻発しだしたため、キシロカインを持続静注した。

翌日、意識は清明となった。患者に尋ねたところ、「夫は40歳で死別し、子供はなく、さらに2年前から仕事もなくなった。生まれた家庭環境は複雑で話したくない。もう生きていても意味がないと思う。家の中を片づけ、前日には久しぶりに酒を飲み、当日は高台までタクシーで行って、そこでハルシオンを飲んだ。近くの森の中で死んで、亡骸は献体して医学に役立てようと思った。」精神科のカウンセリングを拒否し、2日後に兄の家に身を寄せると行って退院した。

あの雪の中でよく助かったものだと思う。運が良かったのか。また別の方法で自殺を企てるかも知れないとは思ったが、それを止める術は私たちにはない。

鼓膜体温計は肝心なところでは全く役に立たなかった。購入前には規格書をよく読み、たとえ高価であっても低体温に対応できる鼓膜体温計を購入すべきである。

コラム1:言葉の壁

外国人の救急要請が入ると身構えてしまう。外国語が苦手だからである。留萌市では、1年間で約500艘もの外国船が入出港を繰り返しており、ロシア船がその大半を占めている。外国人対象に年間10数件程度の救急出動があり、急病、一般負傷、水難、加害、労働災害など、種別はバラエティーに富んでいる。また、通常では1件平均20〜30分で終了するが、外国人がらみの救急出動では、2倍近くも時間を費やしてしまう。その中で、印象に残っている救急症例を紹介する。

1)33歳、ロシア人男性(労働災害)
アンカー作業中ロープに指が挟まれたとの通報により出動。怪我は第2指の挫創で軽症であったが、通報から業務終了までの延べ時間が86分もかかった。覚知時間から病院収容までは約20分で、それから業務終了まで1時間かかっている。その原因というのは、通訳が来るまでに時間がかかっているためであり、通訳が来て初めて会話が成り立ち、受傷転帰等を把握でき、医師、看護婦が処置を始めると言った具合である。

2)38歳、ロシア人男性(急病)
ロシア船員が腹痛で苦しがっているとの通報により出動、患者の意識レベルは清明、しかし、右側腹部に痛みを訴えているみたいだが、痛みの種類、いつ、何をしているとき、吐き気はあるか、食事は何を食べたか等の問診も通じず、ジェスチャーをしてもなかなか理解をしてもらえなく、悔しいというか、歯がゆいというか、そういった事例もある。これも、通訳が来てやっと知りたい情報が判り、病院に到着して医師に説明できるようになるのである。

去年の4月頃までは、通訳が到着するまで時間を費やす救急出動が多かったが、その後では、消防サイドと通訳サイド(船舶代理店)で協議した結果、外国船火災及び外国船船員一般負傷、急病時の対応フローチャートも出来上がり、日中、夜間問わず119番通報と同時に通訳が現場に駆けつけるようになり、現在では時間を費やすことは解消されている。

また、救急隊としても独学なり、外国語(特にロシア語)講座を受講するなどして最低限度でも会話できるようになり、救急業務をスムーズに遂行したいと思うところである。

最後に、外国船が入出港している他の都市では、外国人に関わる救急出動に対しては、どのように遂行しているのか、どのような対策をしているのか、情報、資料提供してもらえれば幸いです。

北海道 留萌消防組合消防本部 救急救命士 森山靖生 コラム2:モチベーションを保つために

 札幌から北へ約100キロ、人口3,700の農村地帯、田舎の救急隊員にとって何が一番つらいかと言うと「現場経験が少ない」の一語に尽きる。いつも頭の中でシミュレーションしているつもりでも、気持ちを保ち続けることが最も難しいことと感じ続けてきた。現場経験が少ない分、自分なりにインターネットで情報収集したり、メールで全国の仲間と交流させていただいたり、刺激を受けつづけるように自分を仕向けている。自分は、刺激を受け続けないと何かを続けられない性格である。こうして原稿依頼が舞い込み、面倒と思う反面、これもまた自分を奮い立たせる刺激の一つであると思うようにしている。

個人的にモチベーションを保つために

  • (1)名刺の裏にABC
    •  裏面にパソコンで編集した心配蘇生のABCを印刷している。
  • (2)地図帳にCPR手順
    •  町内約1千軒足らずの住居数。パソコンで地図電話帳を作成し、職場で利用していたところ、便利さを認めて商工会でこれを全戸配布することとなりデータ提供するとともに、そのうちの2ページを成人・小児・幼児の心肺蘇生方法の掲載に充ててもらっている。
  • (3)他所属の研究会へ参加
    •  札幌では救急事例研究会を平均月1回開催しており、非番週休の日に当たれば極力参加している。
  • (4)フェースシールドの紹介
    •  愛媛大学医学部 越智元郎助教授の指導のもと、心肺蘇生時に感染防止対策として国内販売されているフェースシールドを、各社のご協力を得てサンプル提供していただき、インターネット上で公開している(計7社10種類)。
       http://apollo.m.ehime-u.ac.jp/GHDNet/98/i428kayu.html
  • (5)救急関連ジャーナルWEB化推進委員会
    •  同じく同氏の指導のもと、救急隊員有志が救急医ジャーナル及びプレホスピタルケアの過去の有用な記事をインターネット上でデータベースとして蓄積し、検索閲覧が容易にできるように取り組んでいる。
       http://apollo.m.ehime-u.ac.jp/jems/www/

所属で行なわれている工夫の一端としては

  • (1)救急車にも最低限の救助器具として弁慶・ロープ・カラビナ・滑車等を積載済み。ルーフには360度リモコン回転可能なサーチライトを搭載し、夜間の交通事故等には威力を発揮している。
  • (2)救急車積載電話〜セレクフォン〜一つの電話番号でNTTドコモの自動車電話とドコモ携帯電話の相互間で切り替え可能なもの。現場から状況連絡するときには携帯電話、電波状況に不安があるときにはアンテナを上に掲げる車載電話と使い分ける。ワンタッチ発信ボタンとハンズフリー通話装置のおかげで、CPRしながらでも病院と交信ができる。
  • (3)救急かばん〜救急隊専用のかばんはいろいろ市販されているが、なかなか好みに合うものはない。しかも高価である。ゆえに市販の大型ショルダーバッグにポケットを増設し、携帯に便利に改造して使用している。救急車に搬入せずとも、一通りの観察・処置はできるよう、かばんを整備している。
  • (4)消毒体制〜耐性菌を作らないことを念頭に、4種類の薬品を使いまわし、係を中心に救急車の消毒が毎日行なわれている。床と資機材の清拭に使用するバケツもセーム皮も分離されている。
  • (5)救急訓練〜月に1回はダミーを持ち出し、バッグのもみ方、CPRのリズム圧迫強度、基本CPR継続実施搬送要領等を確認するようにしている。自分の手順の確認の意味もあるし、後輩への技術伝達の意味も込めて指導している。II課程での研修だけでは身につかない手技などは、所属で先輩から後輩へ伝達していかなければならない。

他にも細かいことがいろいろあるが、個人的にはインターネットのおかげで井の中の蛙にならずに済んでいると思っている。これは本当に刺激的でお奨めです。全国に消防・救急関係の友人ができました。いろんな方からのメールお待ちします(mkayu@hkg.odn.ne.jp)。交流しましょう。

北海道 滝川地区広域消防事務組合滝川消防署 雨竜支署 救急隊員 粥川正彦


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https://ops.tama.blue/

06.10.28/9:54 AM





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