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特殊体位(腹臥位・側臥位)での心肺蘇生の概要・ポイント

日総研 隔月刊誌 手術看護エキスパート 2017年5・6月号 術中の急変対応とシミュレーション

独立行政法人 国立病院機構 旭川医療センター

臨床検査科部長

玉川進(たまかわすすむ)

1986年3月旭川医科大学卒業。同年4月旭川医科大学麻酔科入局。自治医科大学、旭川厚生病院などを経て2000年4月から旭川医科大学第一病理学講座。2010年4月より現職。

1.はじめに

筆者は現在は病理医として働いているが、経歴に書いたように元々は麻酔科医として働いていた。病理学講座に籍を移してからも、現在の病院に赴任するまでは毎週定期的に麻酔をかけていた。

長いこと働いていれば色々な経験をするもので、今回の特集ラインナップのうち自分が全く経験していないのは悪性高熱症くらいなものである。術中心停止や術中の失血死も経験している。

2.特殊体位での心停止…さてどうする

心肺蘇生の基本は他の稿にある通りである。現在の心肺蘇生ガイドラインでは

『心臓マッサージ(胸骨圧迫)が全てに優先する』

意識がなく胸も動いていないようなら心臓マッサージ。呼吸や脈がよくわからない時も心臓マッサージ。次に重要なのは除細動で、呼吸はどうでも良いことになっている。だが考えて欲しい。特殊体位で心臓マッサージは可能だろうか。

図1は手術台に仰臥位で寝ているところ。

図1
手術台で仰臥位をとったところ。

腹部外科、産婦人科、心臓外科手術が相当する。図2に示す通り心臓マッサージは容易である。

図2
仰臥位ならそのまま心臓マッサージができる。

腹臥位の取り方は2パターンある。痔の手術などでは手術台にそのまま腹ばいになる(図3)こともあるが、

図3
腹臥位。短時間や意識下の手術では手術台にそのまま寝ることがある。

整形外科の脊椎の手術では胸骨の左右の肋骨をアーチ状に支えるか、4点式の支持台で肋骨を開放していることが多い(図4)。

図4
腹臥位。長時間手術や脊椎の手術では胸骨を浮かせた体位を取る(当院には腹臥位用の機材がないためタオルで代用した)

図5
側臥位。術者が触れるのは腋下から側腹部だけ。

「腹臥位と言ってもそのまま背中を押せば良いのでは」と考えるだろう。では図5のような側臥位ならどうするか。側臥位は呼吸器外科、泌尿器科、脳外科で選ばれる。呼吸器外科なら心臓を直視できるので場合によっては開胸式心マッサージも可能だろうが、脳外科や泌尿器で胸を開けることはまずできない。術者が触れるのは患者の脇の部分だけである。

3.特殊体位での心臓マッサージ

筆者は幸いにも腹臥位や側臥位での心停止は経験していない。そのため、過去の症例報告を元に心臓マッサージの仕方を解説する。

手術台にそのまま腹臥位となっている場合には、心臓の裏側と思われる胸椎棘突起を術野から押して心臓マッサージをする(図6)。

図6
手術台にじかに寝ている場合は心臓のありそうなところを押す

患者の前胸部が手術台から浮いている場合は、誰かが覆布の下に潜り込み患者の胸骨を固定したうえで、術者が胸椎を圧迫する(図7)。

図7
患者の胸が浮いている場合は胸椎を固定する必要がある

胸骨の固定は握りこぶしで良い(図8)。

図8
胸椎の固定は握りこぶしで良い

側臥位では体幹の固定が仰臥位や腹臥位に比べ劣る。そのため患者の胸骨と胸椎を同時に押し付けることによって心臓マッサージを行う(図9)。

図9
側臥位なら前後から胸を押す

4.心マの効果は腹臥位>仰臥位

図に示した通り、仰臥位での心マッサージに比べ、特に側臥位での心マッサージには「本当にこれで血圧が出るのか」と疑いたくなる。腹臥位での心臓マッサージについては2つ論文が出ていて、いずれも腹臥位の方が血圧は高くなった(図10)。側臥位については論文は見つけられなかった。

図10

心停止患者に心臓マッサージした場合の体位による収縮期血圧の変化。仰臥位より腹臥位の方が血圧が出る

なぜ腹臥位の方が血圧が高くなるか。これは筆者の考えだが、仰臥位では心臓マッサージで動くのは胸骨周辺の狭い範囲に限られるのに対して、腹臥位では上下に長く太い胸椎の全体を凹ますことになる。凹む体積が大きいほど有効な心臓マッサージになるのだろう。過去の腹臥位での症例報告でも心臓マッサージであり得ない高血圧を得ることができている。

5.実際に起こってしまった時はどうするか

では、実際に心停止になった時に看護師はどのような行動をとるべきか。自らの経験では、手術室は騒然となり、医師は殺気立つ。また出血や気道トラブルなどの原因を作ってしまった医師は思考が止まってしまう。医師からは暴言を吐かれることもあるだろうが、看護師の皆さんは冷静に対処して欲しい。

(1)蘇生の手順

一般的な手順はこうなる

1)心電図チェック・呼吸チェック

2)麻酔科医が術者に報告

3)外回りの麻酔科医・看護師を招集

4)心臓マッサージ開始

5)気道トラブルがあるのなら改善を試みる

6)術野を簡単に被覆

7)覆布除去

8)仰臥位に戻す

9)蘇生続行

(2)チームの連携

蘇生チームのトップは通常麻酔科医となる。大学病院では外回りの指導医が当たり、中規模の病院でも担当麻酔科医に代えて上席の麻酔科医が指揮を執る。

外回り看護師:人員確保が必須である。外回り看護師もなるべく上席の人を増員することが望ましい。医師からは矢継ぎ早に指示が来る。しかも複数の医師が同時に指示を出す。このため指示受けは複数で行う必要がある。物品を取りにいく専門の看護師も必要になる。

機械出し看護師:手術操作が心停止の原因でないことが明らかな場合は、創を開けたままで蘇生の様子を見守ることが多い。しかし心拍再開が得られない場合には創を閉鎖し仰臥位に戻すことになる。ドレープを貼るだけにするか、完全に縫合するかなど、どの程度創を閉鎖するかは状況によるので、術者に早めに尋ねること。心停止の原因が出血の場合は、経験の浅い看護師では医師の要求に対応し切れなくなる。この場合も経験のある看護師に交代する方が良い。出血の処置で冷静さを失っている医師をこれ以上いらいらさせてはいけない。

(3)物品の準備

救急カートがある手術室なら救急カートを用意する(図11)。

図11
当院手術室の救急カート。薬品はこの中のもので事足りる。

使う物品や薬品はどんな体位でも変わらない。アドレナリン(ボスミンR)、抗不整脈薬のほか、アナフィラキシーではステロイドが使われる。

AEDは必ず用意する。AEDは体位に関わらず使うことができる。心電図に心室細動を認めれば腹臥位や側臥位であっても麻酔科医は除細動を試みるからである。AEDのパッドは仰臥位と同じ部分に貼る(図12)。

図12
腹臥位でもAEDパッドの貼る位置は同じ(電極をパッドに見立てて撮影した)

術野に貼ることはない。そたのめ、パッドを貼る人は覆布の下に潜ることになる。

その他に用意すべき物品は症例によって異なるので指示があったら用意する。

(4)心臓マッサージの方法

手術台に胸がついているのならそのまま背中を押す(図2)。胸が浮いた状態なら医師が胸骨を握りこぶしで固定して他の医師が背中を押す(図7)。側臥位では2人の医師が患者の胸を前後から押しつけるように圧迫する(図9)。

背中が術野なら術者が行い、術野でなければ術者と麻酔科医以外が押す。医師の数が足りない場合、背中を押すか握りこぶしを入れるかは看護師に依頼する場合がある。難しいことではないので協力しよう。

(5)蘇生中に仰臥位にする場合

最大限の人数確保が必要である。蘇生に大切なのは心臓マッサージを中断させないこと。つまり、体位変換の時間を最小限にしなくてはならない。

蘇生チームトップの医師の指示に従い、患者の腕を挙上させ静脈・動脈ラインの移動に備える。気管チューブの移動は麻酔科医の仕事となるが、ちゃんと移動できるかそれとなく確認して欲しい。緊急事態であり、チューブの固定を外すのを忘れた、などという初歩的なミスもあり得るからである。

(6)手術操作と蘇生行為

蘇生が手術に優先する。手術が成功しても患者が死んでしまっては元も子もないからである。

大出血以外では蘇生中、術者は手術を止めて様子を見守ることになる。機械出し看護師は閉創に備えて物品を確認し、不足しているものがあれば用意する。

6.腹臥位心肺蘇生とならないために

振り返って原因が分かるものなら予兆は出ている。筆者が経験したものでも、気管チューブの閉塞や喘息発作、大出血など、麻酔中の患者モニターでも把握できるものであり、一生懸命に対処しているうちに心停止となってしまった。つまり、患者の顔色を含めたバイタルサインを注意深く観察することに尽きる。

7.術後の対応

多くの症例では挿管したままICUに搬入される。一部の症例では低体温療法が行われる。看護師はICU看護師に詳細に申し送りをする。原因と考えられることも伝える。

患者が搬出された後には、看護師長が中心となってケースカンファレンスを行う。患者には申し訳ないが、非常に貴重な症例である。医師の対応、看護師の対応、看護師が行ったことなど振り返るとともに、次に同じ心停止が発生した場合に備え記録を残しておくこと。

8.最後に

筆者が経験した心停止で1例だけ、今でもなぜ心停止になったのか分からない症例がある。胃摘出手術で、急激に血圧が下がって心停止し心拍再開は得られなかった。胃を引っ張った訳でも心電図異常があった訳でもない。喘息の既往もなければバッグの手応えもモニター上も全く異常はなかった。

心停止は天災と同じで、まれではあるが全く予期せぬ時に発生する。発生したものは看護師の責任ではない。だが処置の一部には看護師が関わってくる。まだ経験していない方はこの特集を読んで勉強して欲しい。経験した方は、その経験を手術室全体で共有するようにして欲しい。経験者からのお願いである。

文献

玉川進:腹臥位での心肺蘇生。月刊消防2012年10月号

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