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181101救助の基本+α(29,30)干潟救助

月刊消防2018/10, p28-32
月刊消防2018/11, p28-32
181101救助の基本+α(29,30)干潟救助

今回、月刊消防「救助の基本+α」シリーズの「干潟救助」を担当することになりました大牟田市消防署警防課2係潜水隊長の中富真史です。

大牟田市の紹介

はじめに、私たちが管轄する大牟田市について紹介いたします。
大牟田市は福岡県の最南端に位置し、南と東は熊本県に接しています。

面積81.45k㎡、総人口11万5,831人(平成30年6月1日現在)と福岡県内の自治体では5番目に人口が多い都市となっています。東に三池山、大間山など小高い山が連なる丘陵地、西は有明海に面し、世界遺産に登録された三池港があり、干拓地や埋立地が広がっています。交通は、東に九州自動車道南関インターチェンジ、西に有明海沿岸道路が整備されています。
また本市では2017年3月に市政100周年を記念して公式キャラクター「ジャー坊」が誕生し、昨年度のゆるキャラグランプリにおいて、初出場ながら6位と大健闘しました。

©2016大牟田市公式キャラクター「ジャー坊」

大牟田市消防本部は職員数133名(3部制)で各種災害に対応しており、潜水隊は平成5年8月に発足し、警防課各係に潜水隊員6名(計18名)を配置し、本市の水難救助事案に対応しています。
年間36回の潜水訓練を実施し、潜水隊員の知識、技術及び体力の向上を図り、水難救助事案において安全かつ迅速に対応ができるよう取り組んでいます。また三池海上保安部、第七管区海上保安部福岡航空基地機動救難士及び有明海沿岸の各消防本部の潜水隊との連携を図り、水難救助事案生時の対応力強化のため、年1回合同訓練を実施しています。

干潟救助の割合

過去10年間の大牟田市内での水難救助事案件数です。
干潟環境下での発生が、全体の1/4を占めていす。

過去の事例

【事例その1】

68歳の男性があさりの潮干狩りに熱中し、膝付近までぬかるみにはまって干潟に取り残され、潮が満ちて水位が肩付近まで達するという事故が発生しました。幸い、この男性は付近で潮干狩りをしていた市民の通報により、潜水隊が出場し無事救出した事案です。

【事例その2】

30歳の男性が貝を採るのに熱中し、満ち潮に気付いた時には、すでに遅く干潟に取り残されるという事故が発生しました。幸い、この男性は付近の海苔養殖網展長用支柱にしがみ付いているところを、出漁した海苔養殖漁船に無事救出された事案です。

干潟救助事案での問題点

1 要救助者まで移動距離があり、干潟に足をとられ接触までに時間を要する

2 要救助者が深く埋まり、引き抜きに時間を要する

という2点が挙げられます。

干潟事案の問題改善ポイント

1 干潟での移動方法
2 潟圧(がたあつ)解除の方法
の2点を検証しました。

1 干潟での移動方法

干潟での移動資器材及び方法を検証するため、三池海上保安部と合同訓練を実施しました。同保安部は、災害時に『潟スキー』を使用していました。

『潟スキー』

※『潟スキー』とは、有明海沿岸の泥干潟で漁をする時に使う全長2mくらいの押し板で、前に獲物を入れる桶や漁具を載せ、片膝を立てた状態で乗り、もう一方の足で泥を蹴り干潟を滑りながら進むものです。地元では『スイタ』とも呼ばれています。

「潟スキー」を参考に、当本部の保有資器材を活用し、要救助者までの迅速な移動手段として使用でき、また救出時の救助者の足場となり、さらに陸上隊との連携が効率的にできる資器材を検討しました。

『潟スキー』の代用品 バックボード、舟形担架、スケッドストレッチャー

陸上隊との連携については、
① 舟形担架+ロープ
② スケッドストレッチャー+バックボード+ロープ

①左 舟形担架+ロープ
②右 スケッドストレッチャー+バックボード+ロープ

上記2つの移動方法が有効でした。

↑このように使う

2 潟圧解除の方法

『潟圧』とは、干潟と接する構造物との境界、あるいは干潟中のある面に及ぼす干潟の圧力です。

※潟圧の計算式については土圧の計算式に当てはめ計算しておりますのであくまで参考となり
ます。

潟圧解除の資器材として、以下の3つで検証を行いました。
① 土留め板
② ドラム缶の底をくり抜いたもの
③ ホース、筒先

① 土留め板

隊員2名で要救助者の身体に沿わせ両側から徐々に土留め板を打ち込み、足先に到達させ潟圧を解除します。

【特徴】
比較的容易に打ち込むことはできましたが、潟圧解除に大きな効果はありませんでした。
【潟圧解除後の引抜き時間】
約25秒

② ドラム缶

要救助者に底をくり抜いたドラム缶をかぶせ、干潟に押し込みます。周囲360度の潟圧を解除します。


【特徴】
ドラム缶の打ち込みに時間を要しますが、土留め板よりも潟圧解除には効果がありました。
【潟圧解除後の引抜き時間】
約17秒

③ 放水圧

消防の武器である水を使い水圧により干潟を液状化させることで潟圧を解除します。


【特徴】
格段に潟圧解除スピードが上がり、要救助者への負担も軽減した救出ができました。
土留め板やドラム缶の短所を払拭できました。
【潟圧解除後の引抜き時間】
約3秒

レンコンの収穫からヒントを得て考案

この方法は、レンコンの収穫からヒントを得て考案しました。また、ホースは潜水隊員や資器材の洗浄にも使用できます。

検証結果

1 干潟での移動方法

バックボード、舟形担架、スケッドストレッチャーを組み合わせることで迅速な移動が可能であることが確認できました。

2 潟圧の解除方法

※放水圧による潟圧解除が一番効果的であることがわかりました。

救出の流れ

1 要救助者へ接触(資器材を組み合わせた移動)し、救助者の足場を設定。
2 潟圧の解除(放水圧による潟圧解除)。
3 要救助者を担架へ収容。
4 陸上隊と連携し救出。
5 器材撤収・脱出。

1 要救助者へ接触し、救助者の足場を設定

要救助者へ接触し、救助者の足場を設定

・隊員2名で要救助者に接触し、救助用の足場を設定後に、観察を実施する。
・観察後、ホース等の必要器材を要救助者の直近に設定する
・救出用の舟形担架を要救助者の後ろに設定する。

2 潟圧の解除

潟圧を解除

・要救助者接触時にホース延長用のロープを設定しておき、ホースラインを形成する。
・1名は筒先操作、1名は手で要救助者の足を確認しながら潟圧の解除を行う。
・要救助者の前面の潟圧を解除できれば引き抜きは容易になる。
・放水は、水跳ねを防ぐため干潟の中で行う。

3 要救助者を担架へ収容

・要救助者の臀部の下まで舟形担架を引き付ける。
・舟形担架の縁を使って要救助者を舟形担架内に座位にする。

要救助者を舟形担架内に座位にする。

・下肢に残った泥を排除しながら仰臥位にする。

泥を排除しながら仰臥位にする

4 陸上隊と連携して救出

・隊員1名は要救助者の観察を継続しながら救出を開始する。
・救助者にホース延長に使用したロープを取り付ける。
・救出完了後、ホース延長用のロープを使用し脱出のラインを設定する。

5 器材撤収・脱出

器材撤収・脱出

・器材をスケッドストレッチャーに撤収し、ロープを使用し脱出する。
・ホースは脱出時に同時に撤収する。

その他の考察

1 消防隊のみでの救出方法
2 要救助者の応急処置
についても考察を行いました。

1 消防隊による救出方法

必要資器材はブルーシート、防水シート、二連梯子で、15m以内であれば消防隊のみで充分救出が可能です。(三連梯子なら18m)
※今回は、距離を伸ばすためブルーシートを使用しました。

(シートの設定要領)
シートの作成は、隊員2名で行えます。ポイントは、四つん這いでシート上を足場とし、

干潟方向へと伸ばしていきます。

干潟方向へと伸ばしていきます。

ブルーシート、防水シートを活用し、四つん這いで移動することにより活動服、編上げ靴等の装備でも干潟にあまり足をとられることなく、救出活動が可能であることがわかりました。

2 要救助者の応急処置

続いて要救助者の応急処置になります。
特に夏場では体温が上昇し、身体の水分が奪われ脱水による熱中症を発生する恐れが充分に考えられます。そのため、飲料水、塩分や冷却パックは必需品になります。また冬場では保温のためアルミックシートが必要な場合もあり得ます。

検証を終えて

今回、大牟田市の地域特異性に着目し、過去の救助事例を基に『干潟救助』と題して検証に取り組んできました。検証を通して最初に学んだことは、干潟の各場所によって潮の潮汐、潟の粘度が違うこと、未知の生物との遭遇(笑)、フジツボ等の貝が石灰化し鋭利な危険物として活動環境を障害していること等、干潟環境を学ぶことから始まりました。干潟における課題を抽出し、徹底的に向き合い、現有する資器材を活用し、検証を重ねることにより、目的であった要救助者に負担なく迅速な救出方法を考案し、一定の成果を得ることができました。今回の成果に満足することなく、常により良い救出方法を探究していくとともに、救助技術の継承並びに発展に努めていくことが、大牟田市消防署潜水隊の使命です。

大牟田市消防署 潜水隊

著者

中富 真史

大牟田市消防署 警防課2係
潜水隊長

出身地:福岡県筑後市

消防士拝命:平成10年4月

趣味:トレーニング




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