181117救急活動事例研究 (22) 胸骨圧迫は客観的評価を取り入れて訓練する必要がある

 
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救急の周辺

近代消防 2018年12月号 救急活動事例研究(22)

胸骨圧迫は客観的評価を取り入れて訓練する必要がある

山口崇朝

館林地区消防組合

著者連絡先

山口崇朝(ヤマグチタカトモ)

館林地区消防組合邑楽消防署消防第2

所在地: 370-0603群馬県邑楽郡邑楽町中野26471

電話: 0276-88-5551

目次

はじめに

JRC蘇生ガイドライン2015での胸骨圧迫は、部位は「胸骨下半分」、深さは「約5㎝の深さで6㎝を超えない」、速さは「1分間あたり100120回のテンポ」とされている。またガイドライン2015では「約5㎝の深さで6㎝を超える過剰な圧迫を避ける」とあり「6㎝を超えると外傷の発生率が高くなる」との報告もある。我々が行っている胸骨圧迫はこの基準を満たすものなのか明らかにするのが調査の目的である。

対象と方法

対象は当消防本部の救急隊、消防隊、救助隊の85(うち救急救命士30)である。

胸骨圧迫スキルレポート機能を有したセンサーを2種類の訓練人形に装着して、12分間の連続胸骨圧迫を実施しデータを計測した。人形Aとして心肺蘇生時の蘇生シミュレーションで使用する訓練人形を、人形Bとして基礎的心肺蘇生術で使用する人形である。この2体の人形はセンサーを販売しているメーカーの推奨を受けている。自動心臓マッサージ器で5㎝まで押す圧力を調べたところどちらの人形も同じ数値であることを確認している。

胸骨圧迫の術者は人形の右腋窩にひざまづき、人形の圧迫位置に元々付いている緑のマークを押すようにした。どちらの手を下にして押すかは指示しなかった。

評価は4項目とした。すなわち「圧迫位置」「深さ」「テンポ」「リコイル」である。圧迫位置については実施者の向かって左を頭側、右を尾側、手前を右、反対側を左とした(図1)。深さについては、4.5cm6㎝と6㎝以上は2分間すべてこの範囲で押していたもの、4.5㎝未満は2分間の圧迫での1/2以上4.5cm未満であるものを計上した。リコイルに付いては、2分間で実施した胸骨圧迫の総数に対して何回リコイルが出来ていたかをパーセンテージで示した。

 

図1

圧迫位置の評価。中心は人形に元々付いている緑の点である。

結果

(1)圧迫位置(図2)

どちらの手を下にしたかを表1に示す。

どちらの手を下にするかで圧迫位置が異なった。

左手を下にした場合、圧迫位置は頭側に偏った。これに対して右手を下にした場合、圧迫位置は中央から尾側に偏った。

(2)深さ(図3)

人形により差があった。人形Aでは6㎝以上が66%であった。これに対して人形Bは6cm以上が24%であり、4.5-6cmが55%であった。

(3)テンポ(図4)

100120で押せていた割合は両人形共約8割であった。

(4)リコイル(図5)

100%リコイルが出来ていた割合が9割を超えていた。

考察

(1)圧迫位置

右手を下にする場合と左手を下にする場合では圧迫位置が異なった。この原因は、目標の点を手のひらで覆った場合、最も力の入る小指球が目標の点からずれることによる。左手が下の場合には小指球は頭側に位置し(図6)、右手が下の場合は逆に尾側に位置する(図7)。

 

また、職歴が約10年を境に、10年以上の隊員にあっては左手が下、10年未満の隊員にあっては右手が下が多かった。これは10年以上の隊員は右手で剣状突起をなぞって左手を置くやり方で教わっており、10年未満の隊員は胸の真ん中に手を置くように教わっており、その差であると考える。

(2)深さ

自動心臓マッザージ器で5㎝まで押す圧力を調べたところどちらの人形もほぼ同じ圧であったにもかかわらず、人形により差が出た。Aの人形は救急シミュレーションで使用する訓練人形で、人形Bは救命講習会で使用する人形である。実際に押してみると、Aは柔らかくBは硬い印象を受ける。目標とする深さの数値だけでは胸骨圧迫の運動量は把握できない例である。

また6㎝を超えて圧迫した例が多かった。これは強めの胸骨圧迫を意識していたためである。今後はスキルレポート画面を見ながら胸骨圧迫を実施し、客観的評価を行うことが重要である

(3)テンポ

満足する結果が得られた。

(4)リコイル

満足する結果が得られた。

(5)まとめ

実際の胸骨圧迫では年齢、性別等で個人差があり、特に心肺停止傷病者の大半を占める高齢者においては、これまでに身に付けてきた感覚で胸骨圧迫を実施すると、圧迫位置が不正確だったり、規定より深すぎる圧迫が行われる可能性がある。客観的評価を積極的に取り入れることで職員個々に自身の胸骨圧迫の癖ををしっかり認識させ、傷病者に応じた、より適切な胸骨圧迫を実施できるよう継続した訓練を実施する必要がある。

結論

1)胸骨圧迫の位置はどちらの手を下にして行うかで異なる

2)6cmを越える胸骨圧迫も1/4近くあった

3)客観的評価を取り入れることで適切な胸骨圧迫を実施できるように訓練する必要がある。

ここがポイント

救急隊を対象にしたまとまったデータの発表である。注目すべきは右手、左手で力のかかる場所が異なること。聞いたことない話で、多分初めてのデータと思われる。また深さに付いても身に付いた癖は治らないことを示している。

私の場合、私は右手を下に押すので、油断すると剣状突起に力がかかってしまいそうだし、過去の経験では、患者が男性でも女性でも同じような力で胸骨圧迫を行っていた。今は素晴らしい計測機械があるので、それを活用して正しい胸骨圧迫を身につけて欲しい。

筆者プロフィール

・名前 山口 崇朝(やまぐち たかとも)

・生年月日 昭和6142

・出身地 群馬県

・所属 館林地区消防組合 邑楽消防署

・消防士拝命 平成204

・救命士合格 平成204

・趣味 アウトドア

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