雑誌 健康教室 2022年11月号48-9
応急処置アップデート Q and A
擦り傷の処置
応急処置アップデートQ and A
『擦り傷の処置』
目次
Q1
湿潤療法がよいと聞いたことがあります。手当ての際に消毒液を使わず、水道水でよく洗ってから絆創膏やガーゼを貼るだけでも十分だと聞きました。
ただ、やっぱり、子どもや保護者は「消毒」を意識し、水だけでは不十分だと言います。そもそも、消毒はなしでよいのか、消毒を使わなければいけないけがの程度はどんなものか教えてほしいです。(小学校の先生より)
Q2
すり傷の場合、湿潤療法をするための創傷被覆材は高価で保健室には常備できないため、次のような手当てをしていますが、これでそれでいいですか?
①患部を水道水でよく洗い、水分をふき取る。
②ワセリンをつけた絆創膏やガーゼなどで覆う。
③保健に関する指導
・軽いものは、絆創膏やガーゼを入浴時にはがして患部を再度よく洗う。家にある絆創膏などを必要に応じて貼る。
・継続治療が必要なものは、帰宅後に保護者と相談して、創傷被覆材のようなものを使用したほうが早く治りやすい(場合によっては保護者に受診を勧める)。(小学校の先生より)
A
(1)石などが埋まってなければ水道水で洗って絆創膏で十分です。
(2)学校で消毒薬を使わなければならない場面はありません。手に負えないケガなら病院を受診させます。
(3)解説をご覧ください
解説
湿潤療法については応急処置アップデートthe movie #19(2021/10)(QRコードを付ける)でも取り上げていますのでご覧ください。
1治療の原則(001)
(1)圧迫止血します。
傷口をガーゼなどで広く圧迫します。通常5分ほどで止血できます。止血できないようなら傷口を圧迫したまま医療機関を受診します。「外科」がついた診療科(一般外科・脳神経外科など)や皮膚科で処置をしてくれます。
(2)大量の水道水で傷口を洗います。
皮下に小石などが残っていないことを確認します。残っていて、擦って取れるようなら取ります。深かったり痛がったりして撮れない場合は病院を受診して処置してもらいます。
(3)被覆します
手持ちの傷絆創膏で塞ぎます。ワセリンがあれば傷口や絆創膏に塗ることで保湿効果が期待できます。
2.保護者への申し送り
(1)傷の観察
質問にあるような「入浴時にはがして患部を再度よく洗う」必要はありません。剥がすことも洗うことも不要です。感染してくると創部が痛くなり熱を持ちます。なので傷の上から触るだけで感染はわかります。ただ保護者の理解度も様々で、全く処置が不要なんだと思われても面倒なことになりますから、「気になるようでしたら絆創膏を交換して、その時に傷口の赤みや痛みがひどくなっているようなら病院に行ってください」と伝えます。
(2)継続治療
これは質問者のおっしゃる通りです。キズパワーパッドTMに張り替えるのも良いでしょう。感染兆候があるなら病院を受診するように伝えましょう。
(3)傷跡が残るか(002)
一般的には3つの要素があります。
・受傷部位;頭や顔は残りづらい。血流が多く治癒が早いため
・深さ;表皮剥離だけなら残りづらい。傷が皮下組織や脂肪組織まで達していると傷跡は残る
・感染;傷の範囲を拡大させ、また治癒を遅らせます。
加えて、体質があります。ケロイドを作りやすい人はすぐケロイドになります。
3.病院受診の目安(003)
(1)止血できない
(2)面積が広い
手持ちの傷絆創膏で覆いきれない場合が目安となります。
(3)異物が残っている
放置すると埋まったままになります。治癒後に皮膚に色がついたり、触ると痛かったりしますので、病院で処置してもらいましょう。
(4)挫滅している
挫滅とは組織がミンチ状態になっていることです。表皮剥離に比べ治癒に時間がかかりますし傷跡が残ります。
4.こんなことがありました。
本校では、消毒(マキロン)は使っていませんが、子どもたちも教員の中にも「消毒してほしい」と来室することがあります。
チョーク入れのケースで背中を擦った、アスファルトの角で膝を擦ったなどの症例では、医療機関に受診させるかどうかの判断を、傷の深さやケロイドになり傷跡が残る可能性の有無で、保護者と相談して決めています。顔面のすり傷は、傷跡が残らないように、特に丁寧に対応するようにしています。医療機関に受診しなくても傷は治るが、きれいに治る保証がないときに迷います。爪で擦った傷では、傷の深さがなくても白い傷跡が残るときがあります。
判断に困るときは、保護者と相談して決めています。傷が残りやすい場合を詳しく理解できたら、保護者に説明するときに役に立つので嬉しいです。
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