190213車内分娩中に発生した肩甲難産

 
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190213車内分娩中に発生した肩甲難産
Jレスキュー2019年3月号 p70-71車内分娩中に発生した肩甲難産通報内容平成28年1月某日の21時47分、同居家族からの通報で「28歳女性、妊娠40週4日目で産気づいた。陣痛の間隔は3分間で、かかりつけに連絡したら最寄りの病院に行くよ...

Jレスキュー2019年3月号 p70-71

 

車内分娩中に発生した肩甲難産

目次

通報内容

平成28年1月某日の21時47分、同居家族からの通報で「28歳女性、妊娠40週4日目で産気づいた。陣痛の間隔は3分間で、かかりつけに連絡したら最寄りの病院に行くよう指示がありました。」との内容。

出場途上の活動及び追加情報

出動前に得た通報内容から、現場での分娩を想定しお産セットとタオル・毛布を準備した。また、車内での分娩を想定し、暖房を最大まで上げ救急車内の温度上昇に努めた。その後の追加情報で、「通信指令課から近隣の2次医療機関に受入要請したが受入不可。」とのことで、現場から搬送に30分要する総合周産期医療センターへの搬送を第一に考えた。

接触時の状況及び傷病者の主訴

通報から10分後、救急隊は家族から案内され自宅前に停車してあるコンパクトタイプの普通乗用車(図1)後部座席に左側臥位でいる傷病者と接触した。意識は清明で初期評価に異常はなく、会陰部を観察すると破水(羊水混濁はなし)をしていたが排臨発露は認められず。臍の高さは心窩部付近で、主訴は怒責感をともなう2分から3分間隔の陣痛であった。

発症状況及び傷病者情報は、「陣痛の開始は18時頃で陣痛の間隔が短くなってきたので病院行こうと準備していたら痛みのため動けなくなった。現在、陣痛の間隔は2分から3分。」

傷病者情報の聴取では、「2人目の子供でこれまでの検診で問題があると言われたことはない。妊娠高血圧症候群はなく、前回の出産は経膣分娩で産後大出血などはなかった。」とのことであった。

図1

コンパクトタイプの普通乗用車後部座席に左側臥位でいる傷病者と接触

医療機関照会

通信指令課から連絡した近隣の2次医療機関が受入不可であったため、救急隊は総合周産期医療センターに受入要請したがベッド満床との回答であった。その後に、傷病者のかかりつけ医師から通信指令課に受入可能との連絡があったことから、傷病者接触から11分後に搬送に40分要するかかりつけの医院に向けて搬送を開始した。

搬送中の容態変化

搬送開始から22分後、片側2車線の自動車専用道路を走行中に容態変化があった。傷病者の声がひときわ大きくなったため会陰部を観察したところ、排臨を確認。そして、その5分後には発露に移行した。この時、搬送先の医院までは20分以上かかる場所であった。

肩甲難産の判断と対応

発露後、すぐに児頭を娩出できたが前在肩甲は娩出できず。その状態で時間の計測を開始し1分経過しても前在肩甲が娩出できなかったため、肩甲難産と判断した。

すぐに搬送先医師に連絡し助言を得ながら、両脚のふとももをお腹の上まで持ち上げる(マクロバーツ体位・図2)とともに恥骨上部の圧迫(図3)を同時に行った(図4)ところ、すぐに男児を娩出することができ、直後に第一啼泣を確認した。

図2

マクロバーツ体位

図3

恥骨上部の圧迫

図4

救急車内で両者を同時に行った

その後の状況及び活動

母体のバイタルサインは正常範囲内で、微量の産後出血を認めたが子宮底は固い状態であった。男児は四肢にチアノーゼを認めたが、そのほかは良好でアプガースコアは9点と判断。その後は継続観察及び保温処置に努め搬送し医師に引継いた。

男児は今年で3歳となったが、障害なく生活を送っているとのことである。

考察

肩甲難産とは、胎児の頭部が出た後に、胎児の前在肩甲が母体の恥骨に引っかかり、娩出困難になることであり、その定義は前在肩甲が1分以上娩出されない場合である。この状態だと臍帯が圧迫され胎児が低酸素症の状態に陥るため、迅速に解除しなければならない。

肩甲難産となった場合の対処法として、HELP―R(ヘルプアール)と呼ばれる方法がある。これは5つのアルファベットでできている語呂合わせである。

  1. H(HelP)追加援助を呼ぶ
  2. E(Emergency)予め決めておいた緊急対策を開始する。
  3. L(Legs)脚を持ち上げ、ふとももがお腹の上にくるようにする。これはマクロバーツ法と呼ばれる。
  4. P(Pressure)恥骨上部を圧迫する。
  5. R(Rollthepatⅰent)体位変換し母体を四つん這いの姿勢にして胎児の上の肩を下方
  6. に押して後在肩甲を娩出させる。

本症例では、肩甲難産であることを搬送先医療機関の医師に伝えるとともに同医師から助言を得て、マクロバーツ法と恥骨上部の圧迫を同時に行った結果、すぐに肩甲難産が解除された。これは、本症例を経験する前に病院前救護産科トレーニングコースを受講した経緯がある。分娩症例、さらには肩甲難産といった特異な症例を経験し、簡単で効果的な手技を行うことで、胎児の予後の悪化を回避できた症例であった。

執筆者

安来市消防本部

野津大介

(40歳)

本署第2小隊(救急救命士)

消防士拝名平成15年4月1日

救急救命士平成23年から

趣味ゴルフ

 

細田一彰

(37歳)

本署第2小隊(救急救命士)

消防士拝名平成14年4月1日

救急救命士平成14年から

趣味野球

 

貴重かつできれば避けて通りたい症例

旭川医療センター 玉川進

私は肩甲難産とは聞いたことはあったがその解除方法については知らなかった。日本産婦人科学会から解説が出ている*ので紹介したい。

*日産婦誌60巻9号N-424。

http://www.jsog.or.jp/PDF/60/6009-424.pdf

↑現在は削除されています↑

↓こちらは長野の産婦人科の先生のものです。絵が載っていますので参照してください。↓

肩甲難産 - ある産婦人科医のひとりごと
ShoulderDystocia[定義]児頭が娩出されたあと、通常の軽い牽引で肩甲が娩出されない状態。ShoulderDystocia【YouTube】[頻度]全分娩の0.6~1.4%に発生(AmericanCollegeofObstetr...

 

直ちに取る手技としては

・会陰切開

・マクロバーツ体位

・恥骨上縁圧迫法

の3つである。

救急隊はもちろん会陰切開はできない。今回は経産婦なので切開せずともスムーズに娩出できたのだろう。

マクロバーツ体位は太ももを腹に思い切り押し付ける体位である。人手が足りなければ産婦自身で膝を抱えるようにする。これにより仙骨岬の突起が平坦化して後在の肩甲骨の引っかかりが取れるらしい(図5)。

 

恥骨上部圧迫法は真横になった胎児の体を少しでも斜めにして出やすくする方法である(図6)。これでもまだ出なければ医師は胎児の後背部に手を入れて胎児の前在肩甲骨を押して胎児の体を捻り、骨盤の斜径に一致させることを行う。

読者諸兄も万が一のために覚えておこう。私も使うかどうか分からないが覚えておくことにする。

図5

マクロバーツ体位により仙骨岬の突起が平坦化して後在の肩甲骨の引っかかりが取れる

図6

恥骨上部圧迫法は真横になった胎児の体を外から押すことで体が斜めなって出やすくなる

 

 

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