190725泌尿器疾患と循環器疾患が併発した症例 彦根市消防本部 堤勇太ほか

 
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症例

190725泌尿器疾患と循環器疾患が併発した症例 彦根市消防本部 堤勇太ほか

プレホスピタルケア 2019年6月20日号

 

泌尿器疾患と循環器疾患が併発した症例

堤勇太,  北村智弥

彦根市消防本部

写真

堤勇太

 

北村智弥

スマートフォンを用いて 12 誘導心電図波形を撮影し病院へ報告した心筋梗塞の1症例(彦根市消防本部 北村智弥)
彦根市消防本部 北村智弥PDFの4ページ目から

 

Give it a try
Give it a try2018年3月2日金曜日私が、普段から意識していることを書かせていただきます。当たり前のことを書き綴っているだけです。若僧の小言と思ってお読みいただければ幸いです。1 クセをつけよう まず、現場に着いて何をしますか...

 

 

著者連絡先

堤勇太

つつみゆうた

彦根市消防本部

彦根市消防署北分署救急係

滋賀県彦根市古沢町503-1

電話 0749-23-0119

 

目次

はじめに

指令情報および傷病者の主訴から消化器または泌尿器疾患を疑ったが、観察を進めていくに連れて、循環器疾患との判別に迷う症例を経験したので報告する。この症例で、先入観を持たずに初期観察から全身観察まで継続することの重要性を感じた。

症例

平成x年6月x日、11時23分覚知。「72歳男性、屋外で畑作業中、10時頃から右側腹部痛が出現し低体温状態である」との内容で救急出場した。

畑の農小屋で家族に付き添われ仰臥している病者(写真1)と接触し初期観察を実施した。意識レベルJCS10、不穏状態で便失禁があり下痢便状態であった。呼吸は浅く速い状態。脈拍は橈骨動脈で弱く遅く不整を確認。末梢に湿潤冷感があるためショック状態と判断し高濃度酸素マスクで酸素流量10リットルで投与を開始した。また、病者は右側腹部の激痛を訴えていた(写真2)。早期現場離脱を優先したため現場でのバイタル測定は未実施である。

写真1

傷病者の様子。再現

 

写真2

救急隊と接触。再現

 

車内収容し観察を実施。触診で右側腹部が若干硬かったが、反跳痛はなく腸蠕動は聴診可能であった。不穏が激しいため血圧測定はできず、末梢に冷感が著明であったため血中酸素飽和度も測定できない状態であった。呼吸音は両肺野左右差なく正常。モニター心電図を装着しII誘導で確認したところ洞停止であり、心拍数40回毎分の補充収縮様のQRS波形を認めるのみだった。12誘導心電図を装着したところ、P波がなく、右脚ブロック波形を認めたが明らかなST変化は評価できなかった(図1)。頸静脈の怒張および下肢の浮腫は認めなかった。

 

 

図1

12誘導心電図

洞停止(P波消失)、II, III, aVfでのST上昇とV6でのST低下、右脚ブロックを認める。

 

激しい腹痛を訴えることから尿管結石を原因とする迷走神経反射よる神経原性ショックなのか、心電図波形から心原性ショックを疑った。だが心原性ショックで見られる頸静脈怒張も下肢浮腫もなく呼吸音も正常であった。判断に迷ったため、指示医師に相談し心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保および輸液は行わなかった。

後日、送付された診断では急性下壁心筋梗塞、右室梗塞および洞不全症候群による心原性ショック、尿路結石となっていた。

 

考察

右側腹部痛と聞くと経験上消化器疾患や泌尿器疾患が想起される。だが先入観の中で活動してしまうと、重大な見落としにつながりかねない。今回、観察時にみられた不整脈を疑問視し心電図モニターを確認したことによって、心疾患を見落とすことはなかった。改めて疑問視することの重要性を感じた。

初期観察からショック状態と判断したが、下痢による循環血液量減少性ショック、迷走神経反射による血液分布異常性ショックまた、心原性ショックを考慮したが、左室不全を疑う肺水腫といった症状、右心不全を疑う頸静脈怒張、下肢浮腫といった症状がみられなかったことから、いったいどのショックを起こしているのか判別が困難であった。

ショックは緊急性が高く迅速な観察が必要となる。各種ショックの病態を理解していることは当然のことながら、それを見出すための観察能力の向上が必須であると考える。

また、今回は評価できなかったが、後に循環器の医師から12誘導心電図でST変化を指摘された。病態を把握し病院選定をするうえで心電図波形の読影能力の向上も必要である。

結論

(1)急性心筋梗塞と尿路結石を合併した症例を経験した。

(2)先入観を持たずに初期観察から全身観察まで継続することが重要である。

 

 

 

症例
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