月刊消防 2020/8/1, p55 「奄美救急」
大島地区消防組合 笠利消防分署 藤川 真之介
奄美で生まれ奄美で育ち、消防歴二十年救急救命士歴十年の私が奄美大島(離島)救急について書かせていただきます。
当消防組合は奄美大島・喜界島・加計呂麻島・請島及び与路島からなり、1市3町2村で構成されています。奄美大島は沖縄県と間違われる方が多くいますが鹿児島県に属しており、県本土から南西約三百八十キロメートルに浮かぶ島で、管内人口約七万人の亜熱帯海洋性気候と呼ばれる気候の地域です。 亜熱帯は熱帯と温帯の中間の気候のことで、熱帯気候ほど暑くはなく温帯気候ほど寒くはない、年の平均気温は十八度以上と高めで、年間を通して寒暖の差が比較的少ないためお年寄りには過ごしやすい気候となっています。
しかし、離島なので台風時には陸海空の交通の便が全て欠航となり、食料不足や医療資源の不足など本土と比較していろいろなハンデをかかえています。本土では助かる命もここでは困難なケースもあるため,ドクターヘリや自衛隊に依頼し、鹿児島県本土か沖縄県へ搬送という手段をとっています。
奄美大島の医療機関は奄美市の中心地に集中しているため、市街地から離れたへき地の集落で救急が発生すると、搬送時間が一時間を超える事もざらにあります。搬送時間が長い分、救急隊の役割が重要になるため、「考えることのできる救急救命士」の育成に力を入れています。前述のように医療資源の少ない分、救急救命士の医療従事者としての役割が大きく、各々の判断を活かせるような環境を構築しています。
軽症な傷病者に対しては本当に救急車が必要なのか、他に手段がないかなど、他の関係機関との協力も積極的に実施し、また現場の救急隊員の判断で不搬送処理にすることもあり、その場合はしっかりと傷病者及び家族や関係者に説明をし、同意をしてもらったうえでMCドクターに了承を得るということもあります。
救急活動プロトコールも救急隊の判断が活かせるようなアルゴリズムになっていて、処置拡大当初から血糖値測定を行う際は傷病者のバックグラウンド等を考慮し、JCSⅠ桁でも血糖値測定を実施しています。さらに本年度当初(令和2年度)からは血糖値が50以上でも低血糖が疑われるような状態であれば、ブドウ糖を投与するというプロトコールで活動を開始しています。救急救命士の知識とスキルを最大限に活かし、奄美が離島であること、医療資源が少ないということ、これらのデメリットを傷病者に対してはできるだけマイナスにならないようにするために、我々は努力を重ねているところです。
このようなことができるのも、奄美が離島でコミュニティが小さく医師及び看護師等との顏の見える関係ができているからだと思います。研修医の先生方とはプレホスピタルケアを理解していただくために救急車同乗実習、事後検証会を実施しています。また、最新の救急資器材の紹介や情報共有のため映像伝送装置の導入もしています。そしてこれがまた重要な事なのですが、奄美の黒糖焼酎を飲み交流(飲み会大好きは離島あるある)を深めています。
最後になりますが、管内は離島ということで様々なハンデがあります。しかし各々の意識と技術と知識の向上を常に持ち、ハンデをプラスに変えるよう活動を推進し、奄美の傷病者のQOL向上につながるような奄美救急にしていきたいと思います。
プロフィール
名前 藤川 真之介(ふじかわ しんのすけ)
所属 大島地区消防組合 笠利消防分署
出身 鹿児島県奄美市(旧笠利町)
消防士拝命年 平成12年
救急救命士合格年 平成23年
趣味 DIY(最近は子供机作ってます)
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