210428最新救急事情(219-1) AHA心肺蘇生ガイドライン2020

 
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最新救急事情

プレホスピタルケア 2020/12/20日号 p88

最新救急事情(219-1)

 

 

2020年10月21日、予告通りアメリカ心臓学会(AHA)から心肺蘇生ガイドライン2020が発表された。いつものように日本語のダイジェスト版も出ているので、もう読んだ方もいるだろう。

目次

「単純」から「ケースごと」へ

このガイドライン2020、救急隊の範囲で変わったところを見つけるのは困難である。アドレナリンの投与のタイミングが早くなったくらいか。救命の輪が6つになって覚えられなくなったのと、溺水や妊婦、麻薬中毒患者の蘇生など本筋とは関係ない部分が強化されている。これらを見ると、過去に目指していた「単純に」「覚えやすく」という方針から、「ケースごとに」「具体的に」へと方針が変わったような印象を受ける。

アドレナリンはできるだけ早く

具体的に見ていこう。救急隊の範囲で唯一変わった、アドレナリン投与のタイミング。除細動不適応の心停止ではできるだけ早くアドレナリンを投与するように勧告された。アルゴリズムを見ると心静止/PEAの項目のすぐ下に「できるだけ早急にアドレナリン投与」と書いてある。以前は心肺蘇生を実施して、その途中のしかるべき時に静脈路を確保、アドレナリンを3-5分ごとに投与、という書き方であった。一方、心室細動などの除細動適応の心停止の場合は最初の放電で除細動できない場合にアドレナリンを投与するとなっていて、こちらは変化がない。

この連載では、アドレナリン投与は長期生存率向上、特に神経学的に正常な長期生存率向上には効果がないという論文を数多く紹介してきた。なのになぜアドレナリンが生き残ったかというと、心静止の場合、現場での自己心拍再開率がアドレナリン投与で上昇するというのがその理由である。現場で心拍が再開する感動は無視できないのだろう。

矛盾したことも書かれている。アドレナリンには「生存率の改善は認められていない」とはっきり書いてあるが、そのすぐ下の「理由」の欄には「薬物投与までの時間短縮など広範な努力を注ぐことで、こうすることにより、より多くの生存者の神経学的転帰が良好となる」と書かれている。日本語が変なのは英語の直訳(英語はby doing so: こうすることにより)なのは仕方ないとして、どうして最後に神経学的転帰を持ってきたのか不思議である。

AEDの2台放電

AEDを二つ付けることで難治性の不整脈に対応しようという試みをこの連載でも紹介したことがある。これは2台のAEDを同時に放電させることで除細動の効果を上げるもので著効例も紹介されている。この2台放電については、エビデンスがないことから勧告なしとなった。既存の研究はAEDの機種が限られており研究に偏りがあることも勧告なしの理由としている。

他の変更点

ダイジェスト版で挙げられている成人の一次蘇生についての他の変更点を見てみると

・市民救助者による早期のCPRの開始:たとえ患者が心停止していなくてもCPRが及ぼす危害は低いので、心停止が疑われたらCPRしよう、という勧告。どこが変わったのかわからない。対比として挙げられてるガイドライン2010では「危害」への言及がなく、その代わり10秒以内の脈拍チェックを求めていたのだが、ガイドライン2015では10秒の縛りはなかったはず。

・スマホアプリによるバイスタンダー呼び出し

・リアルタイムかつ視覚的なフィードバック

・CPRの質の生理学的モニタリング:動脈血圧またはETCO2(呼気中炭酸ガス濃度モニター)を使えということ。

・骨髄路よりも静脈路の確保を優先:成人患者で最初から脛に釘を刺す人がそんなに多いのだろうか。

・救助者のでブリーフィング:精神的支援を行うこと

・小児蘇生は2-3秒ごとに人工呼吸をすること

追加・変更は病院搬入後にあり

病院内での蘇生については4項目が追加・変更となっている。

(1)超音波検査:心停止の原因や予状態把握を目的に超音波検査を行う。有用性は確立されていないものの、熟練者が蘇生プロトコルを妨げずに超音波検査を行える場合に導入しても良い。

(2)神経学的予後予測

正確な判断のために、予測には複数の方法を用いるべきである。

(3)心停止後のケア

初期安定化のための介入とともに、自己心拍再開後の継続的なケアを重視する。

(4)回復期のケアの必要性

特に強調されているのがこの項目である。心停止による入院後は回復に長期間かかるため幅広い支援が必要としている。具体的には、今まで行われてきた患者自身の身体的・精神的・認知機能的状態の評価に加え、患者及び介護者の不安、うつ状態、心的外傷ストレス、疲労を体系的に評価し、多職種における包括的な退院計画を提供する。

これからも微調整が続くのか

蘇生分野は2015年から2020年の間で画期的な発見が全くなかった。なのでガイドライン2020は2015とほとんど変わらないだろうと予想していたところ、やっぱり変わらないものが出てきた。覚える方は楽だが、研究者としては面白くない。ガイドラインもこれからこういうちょこっとした変更だけになるとすれば寂しい。

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