雑誌 健康教室 2021年2月号p50-51
応急処置アップデート the movie
#10
熱傷(基礎編)
今回は熱傷です。旭川近郊のH先生に監督の絵コンテを見てもらったところ「こんな大きな火傷は経験しない」「水ぶくれを潰していいかと聞かれることが多い」ととても不満げでした。ですが熱傷は人の一生を左右しますので、今回は職権で重症熱傷への対応を解説します。H先生が主張する軽症の熱傷は次回解説します。
目次
The movie
001
熱傷で重要なのは
(1)場所
(2)広さ
(3)深さ
の順です。顔や陰部はいくら狭くても重症と考え救急車を呼びます。顔は窒息死の可能性があり、陰部は排泄・生殖に重大な影響を与えるからです。
002
患者本人の手のひらを1%として受傷面積を測定します。
003
深さは図の通りです。痛ければ1度、水ぶくれで2度、黒こげで3度です。
004
救急車を呼ぶ基準。そのまま暗記すること。試験に出ます。
005
受傷後は速やかに流水で最低20分冷却します。面積が広いと冷却によって低体温になることがあります。本人が寒さを訴えた時には冷却を中断し保温しましょう。
熱傷のアップデート
研修医で集中治療室にいた時、何人かの重症熱傷患者を診ていました。その頃には受傷初期の急激な状態変化に耐えても、1ヶ月後からの感染でほぼ全員が死亡していました。ですので京都アニメーションの放火犯人が体表の90%を焼いていても助かったことに医学の進歩を感じます。
熱傷は見かけはもちろん、機能的にも重大な影響を及ぼします。まずは防止。それでも火傷をしたら迅速かつ適切に処置をしましょう。
以下の原稿は2020年10月に発表されたアメリカ心臓学会心肺蘇生ガイドライン2020から引用しています。
1.熱傷の基本的な対処(図1)
(1)熱源から離れる
(2)受傷直後は直ちに冷やす。冷やすことに集中する。時間は少なくとも20分。涼しい(cool)水か、冷たいが凍ってない(cold but nonfreezing)水で冷やす。
(3)皮膚欠損があれば被覆する。
2.被覆材
熱傷で皮膚がなくなった部分は医療用シートで覆います。アメリカでは一般家庭の常備薬箱に入っているらしく、日本でも市販されています(商品名アクアセルAGなど)。これら被覆材は親水性の高い素材でできており、熱傷直後のうつ熱の除去、患部の乾燥防止、疼痛軽減、創傷治癒促進に効果が認められています。
懸念されるのが、この被覆材がバイ菌の温床となることですが、被覆材が細菌の培地がわりになって菌を増殖させる可能性は低いことが示されています。
3.被覆材の代わりになるもの(図2)
被覆材は効果です。前出のアクアセルACは10x10cm10枚で1万3000円します。その代わりになるものとしてガイドラインでは
・蜂蜜
・乳液
・アロエ
・化膿止め軟膏
を挙げています。化膿止め軟膏は調べるとココアバター・オリーブオイルなどが入った基材に数種類の抗生物質が練りこまれているもので、アメリカではよく使われているようです。化膿止め軟膏はいいとして蜂蜜は禁止されるのかと思いきや、情報がないから判断できない、と論文らしい結論になっています。無下に却下しないところを見ると効果はあるのでしょう。
次回は熱傷(軽症編)です
引用
Circulation Cotober 20, 2020, Vol 142, Issue 16 Suppl 1
監督
原口良介(はらぐちりょうすけ)
hataguchi.jpg
唐津市消防本部消防署救急第一係
消防士長
消防士拝命:平成21年4月
救命士運用:令和元年7月
趣味:カメラ、動画編集
医学監修・解説
玉川進(たまかわすすむ)
tamakawa.JPG
旭川医療センター病理診断科
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