手技122:One Step Up 救急活動(第11回) 挿管・薬剤投与実習(医療機関での実際)

 
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基本手技

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One Step Up 救急活動

第11回

挿管・薬剤投与実習(医療機関での実際)

Lecturer Profile of This Month

氏名 阿部 陽太郎
読み アベ ヨウタロウ
所属 稚内地区消防事務組合消防署
年齢 37歳
出身 北海道稚内市
趣味 バスケットボール、スポーツ鑑賞


シリーズ構成

若松淳(わかまつ まこと)

胆振東部消防組合消防署追分出張所


「挿管・薬剤投与実習」(医療機関での実際)

充実した病院実習のために

病院実習を楽しもう

救急救命士の処置拡大にともない気管挿管が平成16年7月から、薬剤投与が平成18年4月から、追加講習ならびに所定の実習を行い地域メディカルコントロール協議会に認定された救命士に処置拡大が認められた。

筆者の体験をもとに医療機関で行われる実習について伝えたいと思う。



病院実習についての共通事項

Common sense at hospital training

☆病院実習に共通すること

・身だしなみをしっかり整えること(第一印象で決まる)

写真4

病院実習時の服装

・長い頭髪、ひげなどに気をつけ服装も清潔感を保つ(写真4)。

写真5

名札

・名札は必須である(写真5)。

・病院のルールに従うこと

それぞれの病院でいろいろな約束事があるのできちんと従う。

分からない事はそのままにせず確認する事。

・何の目的で実習にきているのかスタッフに伝えること

ある程度大きな病院になると研修医や学生、救命士などが実習にはいっているため救命士と知られていなかったり、救命士と認識していても何の目的で(就業前、挿管、薬剤など)きているのか分からないスタッフもいるので「◯◯消防の救命士の△△です。挿管実習でお世話になります」など伝える必要がある。具体的にどのような場面でどのようなことをするのか、自分はどこまでできるのか(許されている)ということを伝えるとよい。

最初によいコミュニケーションを築けるか否かで病院実習の充実度が左右されるといっても過言ではない。

写真6

分からないことは必ず指導医に確認する

・実際に生体に対して侵襲のある行為(挿管、静脈路確保、薬剤投与)を行うので慎重・丁寧に活動する(写真6)。

・実習終了後は感謝の意を忘れずに

今後の実習などで気持ちよく受け入れてもらえるためにも最後は感謝の気持ちを伝える。お世話になったスタッフが近くにいない場合は礼状を書くのも一つの方法である。



「挿管実習」

Tracheal intubation training

☆挿管実習の内容

平成16年1月16日付け厚生労働省医政局指導課より通知された「病院(手術室)実習ガイドライン」には

・実習指導責任者

日本麻酔科学会認定専門医(旧指導医)の責任の下に行うこと。

・対象症例

当該病院手術部(室)において行われる成人のASAクラス分類1、2の全身麻酔症例で患者から同意が得られた症例。

となっており

図1 zu01_soukan.doc

「救急救命士による気管内チューブによる気道確保の実施のための講習及び実習要領」(抜粋)

ダウンロード

平成16年3月23日付け厚生労働省医政局指導課長から通知された医政指発第0323049号「救急救命士による気管内チューブによる気道確保の実施のための講習及び実習要領」については図1の内容となっている。

☆挿管実習の実際

・患者から同意を得る

写真7

同意書本文

実習病院により同意のとりかたは多少違うのかもしれないが、筆者の実習先では前日に麻酔科医が術前の説明の後、救命士の実習の意義・説明がなされその後に救命士が同意を得るという方法をとっていた(写真7,8)。

写真8

署名をもらう

ここで大切なのは患者に不安を与えないことである。ただでさえ手術を受けることで不安な気持ちになっているので節度ある態度で同意をお願いする。こちらの言動でさらに不安になるようなことは避けなければならないからである。

・カンファレンス

朝のカンファレンスでは当日の手術について話し合われる。

自分の受け持ち患者がどの部屋でどの時間に入室してくるか確認しておく。

場合によっては時間が変更になる事もあるので注意が必要である。

カンファレンスにはほぼ全員の麻酔科医が集まるので顔と名前を覚えておく。

自分を担当する先生には「よろしくお願いします。」と挨拶しておくとよい。

初日のカンファレンスでは最後に時間をもらい自己紹介させてもらう。

・資器材の準備

写真9

喉頭鏡。ライトのつきを確認する

担当の患者が入室する30分前には資器材を準備しておく(写真9)。

写真10

ビデオ喉頭鏡

Storz DCI video laryngoscopeから引用

筆者の場合はビデオ喉頭鏡を使用していたのでそれを所定の場所から部屋に移動し動作確認をしてすぐに使用できるよう準備していた(写真10)。

麻酔科医にチューブのサイズを確認しスタイレット挿入し形状を整えておく。

麻酔機の(人工呼吸にかかる)操作も確認しておく。

・マスク換気から挿管

患者さんが入室し麻酔がかけられたらいよいよ実技本番である。

写真11

マスク換気。

まずはマスク換気をするのだがあまり硬くならずにリラックスしよう(写真11)。

このときにベッドが高すぎたり低すぎたりすると喉頭展開のときに良いポジションがとれないので高さをあわせておく。

写真12

喉頭展開

しっかり酸素化したら喉頭展開である(写真12)。

トレーナーでしか喉頭展開したことのない人は生体やわらかさの違いに驚くかもしれない。生体は非常にデリケートでブレードにより損傷を与えやすいので慎重に操作する。

喉頭鏡のブレードを挿入するときは歯牙にかからないように、唇を巻き込まないように注意する。

生体はデリケートなので一連の操作は愛護的に行う。

・挿管

写真13

挿管中

声門が確認できたら目を離さずチューブを受け取り挿管する(写真13)。

一次確認・二次確認が出来たら固定し換気する。

固定の仕方もそれぞれの病院で方法が違うので確認しておく。

・フィードバック

症例ごとにフィードバックやアドバイスを求める。

成功しても不成功でも指導してくれている医師に聞くと良い。

(忙しそうにしているときは避け、タイミングよく。)

なぜ上手く出来なかったのか、上手く出来たのか把握し次の症例に向けてイメージするとよい。



○「薬剤実習」

Drug injection training

☆薬剤実習の内容

図2 zu02_yakuzai.doc

薬剤実習の概要

ダウンロード

薬剤実習については平成17年3月10日付け厚生労働省医政局指導課長から通知された医政指発第0310002号「救急救命士の薬剤投与実施のための講習及び実習要領について」の中で都道府県MC協議会に選定された施設で

・薬剤の投与準備(ライン作成と静脈路確保)
・使用後の薬剤や注射器の取扱いと安全管理
・心肺停止事例におけるエピネフリン投与(10症例を目標)

に行うとされている。実習時間は50時限(1時限50分)で内容は「A.点滴ラインの準備と末梢静脈路確保」「B.エピネフリンの投与とその後の観察」のパートに分類され実施することとされている(図2)。

実際には搬送されてくるCPA患者に対して静脈路確保実施、エピネフリン投与ということになる。

病院到着前に薬剤認定救命士によりエピネフリンが投与され病院到着時には心拍が再開していたり複数の実習者がいると、エピネフリンの投与の回数はそれほど多くは望めない。

「A.点滴ラインの準備と抹消静脈路確保」については心臓機能停止患者の他に、インフォームドコンセントが得られた心臓機能停止以外の患者も対象とする事ができるので協力が得られると実習がより充実する。

☆薬剤実習の実際

・CPA患者受入準備

写真14

ルートの準備

病院で定められた感染防止(グローブ、マスク等)を実施し、静脈路確保の準備を行う(写真14)。施設によっては看護師が準備をする場合もあるので確認しておく。

・CPA患者入室

スタッフの指示に従い患者のストレッチャー間の移動や胸骨圧迫、モニター装着などスタッフの補助に入る。

・静脈路確保、エピネフリン投与

写真15

静脈路確保。写真は手術中のもの

救急隊により静脈路が確保されている場合もあるが医師から指示があればそれに従い静脈路確保を実施する(写真15)。清潔操作、針刺し事故には十分に注意する。

エピネフリンの投与はリズムチェック時に脈が触れないことを確認し医師の指示によって手順通りに行う。エピネフリンの投与時は記録をとっている看護師にしっかり伝える。その後は医師の指示に従って行動する。

・フィードバック

挿管実習と同じようにフィードバック、アドバイスを受けると良い。



◯学んだ体験者談

救急現場での挿管・薬剤投与

Case Reports

☆ケース1 挿管

7月○日5:45覚知。夫が喘息発作を起こし呼吸苦との通報。39歳男性。

出動直後にCPAに移行、口頭指導実施中と通信員から無線連絡が入る。

接触時、布団上に仰臥位 妻による胸骨圧迫あり。

就寝中に喘息発作、吸入薬を使用したが改善せずすぐに呼吸停止に至った、現病歴は喘息と糖尿病があると妻から情報。

CPR開始、BVMで非常に強い換気抵抗あり。気道確保、静脈路確保指示要請。

喘息発作からCPA、初期心電図はPEA、BVM換気強い抵抗があり食道閉鎖式エアウェイでは換気困難が予想されることを伝えたところ、挿管チューブでの気道確保の指示を得た。7.5㎜チューブで挿管実施。バッグバルブを接続し換気、呼吸音は雑音があり胸郭は上がるが抵抗は強かった。静脈路は肥満体型で血管が確認できず未実施。院内で心拍再開し入院。

残念ながら2日後に亡くなり社会復帰はかなわなかった。

☆ケース2 薬剤投与

7月△日8:53覚知。着替え中に意識が無くなり息をしていないと通報。

78歳男性。口頭指導あり。

接触時、ベッド上仰臥家族による胸骨圧迫あり。

通院のため着替え中に意識消失、CPA。既往症?亜急性連合性脊髄変形症。

初期心電図は心静止。気道確保、静脈路確保指示要請。

ラリンゲアルチューブ#4にて気道確保、換気良好。

右上肢に20Gで静脈路確保。薬剤投与指示要請。

車内収容後にリズムチェックで脈が触れないことを確認しエピネフリン投与実施。心電図波形に変化無く病院到着。残念ながら救命は出来なかった。



◯隊員インタビュー

Interview of EMS

☆挿管実習

自分は大学病院での挿管実習でした。医師、看護師、スタッフのみなさんはクールにかつ淡々と効率よく仕事をこなしていたのが記憶に残っています。こちらが質問をすると、忙しいにもかかわらず誰ひとりいやな顔をせず笑顔で返答してくれたことも印象深いことでした。

実際の手技で救急現場と違うと実感したことはまず環境が整っていること。室内は明るく、清潔に保たれ、周囲も静かで集中できます。

救急車内のように狭くて揺れるようなことはありません。すでに同意が得られていて時間的に余裕があるので手技の一つひとつを確認しながら挿管できました。指導医の先生、スタッフ、同意して下さった患者のみなさんのご協力があって充実した実習を終えることが出来ました。

☆薬剤投与実習

自分は大学病院での実習でした。

残念ながら自分が薬剤投与する機会がなかったのですが、確認・清潔操作・投与時間の管理が徹底されていると強く感じました。

なかでも、時間管理は1人の看護師さんが最初から最後まで正確に管理しているところがやはり大事なことなんだと改めて感じました。

救急活動の場合で考えると、やはり1人が時間管理にとられてしまうのはなかなか難しいと思いますが、より確実な活動をする為には考えなければいけない点ではないかと思いました。



◯著者まとめ

Writer’s comment

写真15

静脈確保訓練

実習で不安にならないよう事前に署内で十分訓練をしておく。

病院実習で学ぶことは挿管実習、薬剤投与実習共に基本の手技、手順の確認である。

病院内では十分なマンパワー、設備があり整った環境下で集中して行うことができ、また各種トレーナーではなく生体に処置するのも大きく違うことである。

病院実習は医師・看護師とのコミュニケーションを深めるチャンスであるし、医師・看護師と顔の見える関係が築くがことできれば今後の救急活動や病院実習が円滑になることが期待できる。

余談だが筆者は実習中に病院内でのBLS講習の手伝いを依頼され終了後スタッフと食事を共にしてコミュニケーションを深める機会を得た。その後の実習はさらに円滑になった経験がある。

病院実習を苦痛とするか楽しむかは自分の準備と心がけ次第である。

明確な目的を持って実習に臨もう。

本稿がこれから病院実習を控える諸兄の参考になれば幸いである。



参考:救急救命士の気管内チューブによる気道確保の実施のための講習及び実習要領について
救急救命士の薬剤投与の実施のための講習及び実習要領について
病院(手術室)実習ガイドライン

協力:
市立稚内病院
中畑雅美


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09.5.9/8:31 AM

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