210921今さら聞けない資機材の使い方 雪崩(アバランチ)ビーコン 南魚沼市消防本部 内藤広介

 
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基本手技

近代消防2021/5, p84-7

今さら聞けない資機材の使い方

雪崩(アバランチ)ビーコン

目次

人物紹介

 

名前:内藤広介(ナイトウコウスケ)

所属:南魚沼市消防本部

出身:新潟県南魚沼市

消防士拝命:平成26年4月

趣味:キャンプ、登山、ウインタースポーツ

 

 

1.はじめに

 

今回の「今さら聞けない資機材の使い方」(第97回)を担当します、南魚沼市消防本部の内藤広介と申します。

今回紹介させて頂く資機材は、「雪崩(アバランチ)ビーコン」です。雪が多い地域の方はご存じかもしれませんが、そうでない地域の方は聞き慣れない方もいると思います。簡単に説明すると、冬季に雪崩や落雪等で、雪に身体が完全に埋もれた時にこの資機材を身に着けている人を捜索するための機材になります。雪山を登る際に必ず携行する「三種の神器」(写真1)の1つとされていて、雪崩ビーコンにはアナログ式とデジタル式に分けられますが、今回は現在主に使用されているデジタル式について紹介致します。

 

     

写真1

(三種の神器)

 

 

2.雪崩ビーコンとは

 

 

雪崩ビーコンとは、雪崩等で完全に埋没した時の救助活動のために作られた電池駆動の機材です。雪に埋まってしまった時に身体の一部が雪上に見えていればすぐに救出できますが、完全に埋まってしまった場合は埋没位置の特定が必要になり、すぐに救出するのはほぼ不可能になってしまいます。そこで、この救助者の雪崩ビーコンを用いて埋没者が身に付けている雪崩ビーコンを探し当て、埋没者の位置の特定、救助活動を行います(写真2)。

 

写真2

(埋没者の雪崩ビーコンと電波受信の様子)

 

基本的な機能として「発信モード」と「捜索(受信)モード」があり、発信モードは世界的に規格化された457kHzの電波を発信し、捜索モードはその電波を発しているビーコンの位置を方向と距離で特定します(写真3)。

 

写真3(雪崩ビーコンの画面表示の状態)

【本体仕様】

※下記の仕様は1つの製品をモデルに記載しています。雪崩ビーコンは複数メーカーより発売されており、使用周波数の457kHz以外は製品毎に異なります。

・電池駆動

・電池寿命

送信モード約250時間、捜索モード約50時間

・捜索範囲50m

・内蔵アンテナ数3本

・使用温度(送信・捜索時)-20℃~+40℃

3.取り扱い方法

【着装】

•起動時に表示される電池の残量を確認します。

※電池残量については気温低下により残量低下が早まる可能性があるので、メーカーによっては残量が50%になる前に電池交換することを推奨しています。

•ウエアより内側の体幹部の位置に取り付けます(写真4)。

 

写真4

(着装の様子)

 

※ウエアの外(ビーコンが外に出ている状態)だと雪崩等に巻き込まれた時に身体から外れる危険性があります(写真5)。

 

写真5

(間違った着装の様子)

③雪崩ビーコンの近くに携帯電話等の電子機器があると電波を正常に受信できない場合があります。各メーカーにより推奨離隔距離は異なりますが、最低でも20cm以上は離した方が良いとされています。

【入山時】

雪崩ビーコンの電源を入れて全員の発信モードが正常に作動しているかチェックを行います。まず1人だけが捜索モードにして他の雪崩ビーコンの作動状況をチェックします。この時、発信モードの雪崩ビーコンが密集していると複数の電波を受信してしまい正確に確認できないので、捜索モードの人に1人ずつ近づいて来て個々にチェックするようにします。最後に捜索モードにしていた人の発信モードのチェックを行ない、全員の発信モードが正常に作動しているかを確認してから入山します。

【捜索方法】

①捜索開始~電波検知(シグナルサーチ)

雪崩等が発生して埋没者の捜索を開始する場合、捜索者は発信モードから捜索モードに切り替えた後、おおよその埋没位置が分かっている、又は、電波の受信ができていればそこまで移動して捜索を行います。埋没位置が不明の場合は埋没者の雪崩ビーコンの電波を早急に検知させなければなりません(シグナルサーチ)。その電波を検知させるには以下のような方法があります。

 

写真6

「捜索者が1人の場合」

 

 

写真7

「捜索者が複数人いる場合」

 

もし雪崩等の区域に埋没者が残した残留物があればその下方向に埋まっている可能性があるので残留物のチェックも早期発見に有効です。

②電波検知~発見(コースサーチ、ファインサーチ)

・コースサーチ

捜索モードに切り換え時やシグナルサーチを実施中に雪崩ビーコンの電波を検知したらビーコンが示す方向へ向かいます。雪崩ビーコンの表示される距離10m付近までは素早く、そこから先は速度を落として3m付近まで移動します(写真8)。

方向修正は慎重に行いましょう。ビーコンからの電波はオンオフの繰り返しで発信されているため、間違った方向に進んでも表示がそのままである可能性があります。さらに携帯電話等の身に着けている機器から発せられている電波を誤認識する場合もあるためです。

 

写真8(シグナルサーチからファインサーチまでの流れ)

・ファインサーチ(クロスサーチ)

距離が3mあたりまで近づいてきたら、雪崩ビーコンを雪面付近の高さまで下げた状態でクロスサーチを実施して埋没位置の特定に移ります。クロスサーチの要領としては、まず雪崩ビーコンを雪面に沿わせながら縦方向もしくは横方向に移動させて表示されている最小数値の位置を特定します。次にその位置から雪崩ビーコンの向きは変えないまま直角方向に再度雪面に沿わせながら移動させ、その線上で表示される最小数値の位置が埋没者までの最短距離であり、雪面の垂直方向に埋没者が埋まっていることになります。

(写真9)。

 

 

写真9(クロスサーチ)

※写真9の絵を例にすると、縦方向に検索して最小数値(1.8)の地点で、次にそこから横方向を検索してその線上の最小数値(1.1)の地点が埋没者への最短距離の位置になります(写真10)。

 

写真10(最小数値の場所から雪面の垂直方向に埋没者が埋まっています)

ここでは雪崩ビーコンで埋没者の位置を特定する段階になるので慎重に捜索しますが、ビーコン検索ばかりに時間をかけず、その後のプロービング(プローブ検索)に早く移行することが早期発見に繋がります。

・プロービング

先ほどのファインサーチで位置の特定ができたら、つづいてプロービングを行って埋没者が実際に埋まっている場所(深さ)を特定します。先ほどのファインサーチで特定された距離がおおよその埋まっている深さの目安になるのでそれを参考にしながらプローブを雪面に垂直に刺して検索します。プロービングを実施中に他の場所とは違った感触があれば埋没者の可能性があるので、プローブは刺したままの状態で掘り出しに移ります(写真10)。

 

写真10

(プロービングでヒットしてから掘り出している様子)

刺さったままの状態のプローブ周辺を掘り、身体の一部が出てきたら顔と胸部を最優先に出して気道を確保した後、他の部分も掘り出して救出します。

4.さいごに

今回の資機材は最初に述べたとおり、全国的に見ればマイナーな資機材で初めて聞いたという方もいるかもしれません。しかし、積雪の多い地域では毎年どこかで雪崩事故や落雪事故等が発生していて、また、2017年には栃木県で48名の高校生や教員が雪崩に巻き込まれて8名が死亡するという事故も発生しています。雪崩事故での死亡原因の約70%が埋没時の窒息によるものです。埋没時間が18分で生存率が約90%、35分で生存率が約30%とされており、15分以内の救出が理想と言われています。少しでも早期に埋没者を掘り出すことが重要となるので、今回の紹介で少しでも資機材を知って頂いて、みなさんの技術向上のきっかけになってもらえれば幸いです。最後までご覧いただきありがとうございました。

 

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