月刊消防2021/6/1, p44-48
救助の基本+α
はしご自動車の運用
目次
著者
氏名
消防司令補佐々木英人(ささきひでと)
所属
つくば市消防本部中央消防署
出身地
茨城県つくば市
消防士拝命
平成18年4月1日
趣味
旅行
今回、月刊消防救助の基本+αシリーズのはしご自動車の運用を担当することになりました、つくば市消防本部中央消防署佐々木英人です。
1はじめに
(1)つくば市について
つくば市は茨城県の南西部に位置し、北には関東の名峰筑波山を擁し、東には我が国第2位の面積を有する霞ヶ浦を控え、南端には牛久沼と自然に恵まれており、市内には国と民間合わせて約150の研究機関が立地する都市になります。地形は東西14.9㎞、南北30.4㎞、面積は283.72㎢で、これは県内で4番目の広さになり、人口は24.5万人となっています。
(2)消防本部の概要
当消防本部は、昭和49年4月に筑南地方広域行政事務組合消防本部として発足し、平成14年11月につくば市と茎崎町との合併に伴い「つくば市消防本部」に名称を変更しました。現在、1本部3署5分署で構成され、335名の職員が勤務しています。月刊消防の令和2年12月号に掲載されましたが、令和2年4月に特別高度救助隊・特殊災害対応隊・山岳救助対応隊が発足し、自助・共助・公助そして、「誰一人取り残さない」を目標に日々業務に励んでいます。
2はしご自動車を運用するにあたり
(1)はしご自動車とは
はしご自動車は、消防力の整備指針第7条で、「高さ15m以上の建築物(以下「中高層建築物」という。)の火災の鎮圧等のため、一の消防署の管轄区域に一定数の中高層建築物がある場合、はしご自動車(屈折はしご自動車を含む。以下同じ。)一台以上を当該消防署又は、その出張所に配置するものとする。」とされています。また、はしご自動車は緊急出動や高所からの人命救助、消火作業等の消防活動に適した構造及び機能を有していることから、使用する隊員は、はしご自動車を熟知し、安全に運用できるよう、日常の訓練及び教育によって運用方法を身に付けておくことが重要になります。
はしご自動車は、消防では「特殊車両」という位置づけをされています。他の消防車両より重量があり、はしごが長くなるにつれ車体が大きくなるため、取り回しがしにくくなるデメリットはありますが、中高層建築物が増加している地域にあっては高所での消防救助活動ができる車両は魅力的なことだと思いますし、車両性能を最大限に発揮することができれば大きな武器になります。
中央はしご1
はしご2
(2)取扱いの原則
ここからは、はしご自動車を運用するにあたっての取扱いの原則を紹介します。消防救助活動において、はしご自動車を安全に運用するには、はしご自動車を取扱う全ての隊員が、特性や諸元性能を全て把握しておくことが重要になってきます。
まずは、はしご自動車に影響を与える力として、
許容先端荷重:はしご先端に負荷することが許される最大荷重
許容積載荷重:バスケット又は昇降機の床に積むことが許される最大荷重
起伏慣性力:はしごの起伏又は屈伸運動の加減速に伴って生じる慣性力
旋回慣性力:はしごの旋回運動の加減速に伴って生じる慣性力
風荷重:はしごの面に風を受けることによって生じる分布荷重
放水反動力:放水銃から放水したことによって生じる反動力
などがあります。これらを踏まえて、以下の原則があります。
取扱者指定の原則
安全第一の原則
堅ろう地盤部署の原則
平坦地部署の原則
アウトリガ・ジャッキ張り出しの原則
確実な操作の原則
作業範囲内操作の原則
先端許容荷重厳守の原則
バスケット浮遊操作の原則
点検整備励行の原則
「はしご車運用技術より」
これらの原則を理解し厳守した上で、初めてはしご自動車を使用した安全な消防救助活動ができます。
今回は、はしご自動車の部署位置設定までの運用ということで、まずは、当消防本部のはしご自動車を紹介いたします。当消防本部は、中央消防署に2台のはしご自動車が配備されており、内訳は、15m級はしご自動車及び40m級はしご自動車となっています。救助隊員2名ないし3名で災害の状況に応じて運用しています。
今回は、40m級はしご自動車での部署位置設定までの方法を紹介していきます。諸元性能は下図のとおりです。
数値を自本部のはしご自動車に当てはめていただくとわかりやすいと思います。
諸元
(3)部署位置の設定
はしご自動車を運用する場合、基本は車両部署位置の決定から始まります。架梯をするのか梯上放水をするのか、活動方針によって部署位置は変わりますが、どのような活動であっても部署位置の設定をおろそかにすると、その後の活動を大きく左右し、最悪の場合には重大な事故を発生させてしまう要因となってしまいます。
それでは、ここからは設定要領の説明をしていきます。
ア.共通認識
車両の特性上、操作員にとって死角となる箇所があるため、合図、号令の徹底を厳守します。
機関員は常に緊急停止ボタンを押下できるよう、作動中は操作パネルの場所から離れないようにします。
08 車両の特性上、操作員にとって死角となる箇所があるため、合図、号令の徹底を厳守します
イ.部署位置の設定
できるだけ広く、堅く、平坦な場所に設定します。
キャブ内の傾斜角度計を確認し、車両の傾斜が7°を超えないよう注意します。
高圧電線、立木等活動上障害となるものがない安全な場所に設定します。
作業範囲を考慮し、できるだけ目標に近づき、はしごの起立角が大きく取れる場所に設定します。
部署位置確認のため手前で一旦停止させ、全隊員に部署位置及び架梯位置を周知させてから誘導に入ります。
ターンテーブルを位置基準とし、作業範囲図に基づいて設定する必要があります。参考までに、はしご使用範囲最小の値(はしご先端11.2m)から車体幅の半分(約1.25m)および余裕分(1m)を引くと、対象物から車体までの長さが約9mになります。よって、対象物から9mの位置にはしご自動車を誘導すると、はしご使用範囲内で活動することができます。活動内容によって、はしご使用範囲が変化するため、最低でも、モード別の最大許容範囲は把握しておきます。
また、二面対応する場合は、建物の角の延長線上にターンテーブルの中心を設定します。この場合の対象物から車体までの距離も最低9mで設定します。
部署後は必ず車輪止めを設定します。後輪に関しては駆動輪に設定します。
ウ.ジャッキの設定
アウトリガは最大張り出しとします。(アウトリガ張り出し方向の障害物および安全を十分に確認すること。)
設置圧力軽減のためジャッキ敷板を使用します。ジャッキは、マンホール又は側溝(グレーチングまたは蓋)の上に設置しないようにします。
狭隘な部署位置の場合、アウトリガは架梯側の張り出しが大きくなるように部署します。
ジャッキの設定
エ.作業姿勢作成
作業姿勢を押下すると自動で作業姿勢完了まで稼働します。梯体が移動し前方にバスケットが展開されるので、必ず車両前方にも誘導員を配置します。傾斜角度の修正が終わるとエンジン回転数が戻りはしごを使用できる状態になるので、その後、敷板の確認と車輪止めの再設定を実施します。状況に応じて、梯体に積載されている鍵付きはしご及びとび口もこの段階で外しておくと良いでしょう。使用しない資器材は、活動上支障がない場所(車両下部等)に置いておくと良いでしょう。
作業姿勢作成
10 作業中
3.取り組み
(1)訓練
梯子架梯調査時や消防訓練時に、実際に架梯や救出訓練を実施しています。建物の担当者に許可をいただき、他隊の協力を得て安全管理を徹底した上で建物に架梯します。救出訓練を現地で実施することで、緊張感や状況判断を養い、慣れが生じやすい署内の訓練施設では体感できないような充実した訓練が実施できます。実際のところ、はしご自動車を使用する災害現場は、多くありませんが、様々な施設で訓練できれば、実災害時での活動における状況判断がしやすいと思います。
(2)梯子架梯調査を実施した対象物の見直し
つくば市は研究学園都市として発展し、現在も中高層建築物が増加しています。また、はしご自動車が導入されて45年が経過しました。昨年度40m級はしご自動車が更新され架梯可能箇所が変わったこともあり、更に、10年以上前に建築された中高層建築物に関しては、道路事情や樹木の成長に伴い架梯の状況が変化している対象物が出てきました。
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(3)中高層建築物のデータ化にあたって、指令端末装置及び車両運用端末装置への反映を実施
管内には1000棟を超える中高層建築物が現存しており、全ての対象物を調査して紙ベースでの台帳で保管しています。中高層建物火災指令時にはその台帳を持ち出し、部署位置や架梯位置を確認して出場しておりました。しかし、管轄の消防署及び地区ごとに整理されていても現場を探し出すまでに時間を要し、出場が他の隊より遅れてしまう状況が続いていました。そこで写真のように台帳番号と架梯可能場所を表示できるようにし、他隊への周知ができ、台帳検索の時間が大幅に短縮されました。
12 架てい可能場所の表示
13 台帳
14 台帳
4.おわりに
今回、はしご自動車の部署位置の設定要領を紹介させていただきました。各本部でマニュアルに従い、日常の訓練、教育及び使用者講習などを実施し隊員の技量や知識の向上を図っていると思います。はしご自動車を必要とする要救助者のために、携わる隊員全てが共通認識を持ち活動できるよう、今回の投稿をきっかけに、更なる安全、確実な消防救助活動の向上ができていただけたらと思います。
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