近代消防 2021/06/10 (2022/7月号) p76-8
今さら聞けない資機材の使い方 110
高崎救急隊員シンポジウムシリーズ(2)
救急活動のヒント その 1
車椅子で傷病者を搬送しよう
松江市消防本部
山下慶子・吉田遼・赤名修一
目次
はじめに
当市における車椅子を活用した傷病者搬送の現状を紹介します。この稿が車椅子の導入を検討している他消防本部の後押しになることを期待しています。車椅子導入の経緯や車椅子の使用教育については満田一樹による報告1)をご覧ください。
概要
当消防本部は、車椅子を当市社会福祉協議会から寄贈されたことをきっかけに、平成26年から車椅子を用いた傷病者搬送を開始しました。令和2年度においては、本市予算の救急活動費から車椅子を1台更新しました。
用いている車椅子は「介助型」と呼ばれる、後ろから押して移動するものです(001)。よく見かける、乗っている人が手で漕ぐ「自走型」よりコンパクトです。救急車内では本来オートパルス(自動心臓マッサージ機)を収める場所に収納しています(002)。
車椅子は導入当初から計3台で運用しています。車椅子の使用条件を表1に示します。傷病者を安全に搬送することができることを前提に、救急隊の観察結果から判断しています。
001
用いる車椅子は「介助型」車輪が小さくコンパクト
002
本来オートパルスを収める場所に収納する
表1
車椅子の使用条件
実績
使用回数は年によって多少の増減はありますが、傾向としては確実に増えています(003)。平成30年までは救急隊積載の車椅子使用はわずがでしたが、平成31年からは救急車積載の車椅子の使用が増えています(004)。
現場活動時間については年によって増減はあるものの、全体としては全出動平均時間とそれほど変わりません(005)。
003
発生場所別・車椅子の使用推移。使用回数には高齢者施設や個人所有など、救急車積載以外の車椅子使用も含まれる
004
救急車積載の車椅子の使用回数の変化。平成31年からは救急車積載の車椅子の使用が増えている
005
救急車積載車椅子搬送と全出動の平均現場活動時間の比較。全出動平均時間とそれほど変わらない
感想
救急隊と傷病者からの代表的な感想を表2に示します。隊員・傷病者双方の身体的・精神的負担軽減がもたらされていることがわかります。特に未舗装路面ではメインストレッチャー曳航が不安定になりますが、車椅子は低床でタイヤが大きいため安全確実な搬送ができます。
表2
救急隊と傷病者からの代表的な感想
考察
運用を開始して7年経過しますが、使用途中の容態悪化や、傷病者からの苦言を受けることなく運用でき、当消防本部では車椅子が搬送資機材の一役を担っているといっても過言ではありません。また令和元年以降、使用回数が上昇している要因には、車椅子の専用教育が関与していると考えられます。
次なる課題としては、車椅子がメインストレッチャーのように救急車内へとワンアクションで収容可能となり、更には車内での固定ができるようになればと考えています。また、車椅子の専用教育についても更に充実強化し、安全で安心な救急活動が遂行できるよう邁進していきます。
文献
満田一樹:救急活動事例研究(38)車椅子を活用した傷病者搬送 近代消防 2020年6月号 p88-91
座長コメント
O15-5
●車椅子を活用した傷病者搬送
車椅子による搬送は人数をかけない搬送が可能となり、救急隊員の負担軽減に繋がる頼もしい搬送資器材になると感じた一方、傷病者の坐位搬送が可能かどうか初期評価力が求められることから、救急隊の判断力を鍛えるツールにもなるだろう。
今後は車椅子搬送のパイオニア存在として、車椅子とターポリン担架との併用搬送方法など、救急隊目線の車椅子活用ノウハウの情報発信や、救急活動や救急車両積載に特化した車椅子の仕様について情報発信していただきたい。
プロフィール
・名前:木嶋 浩之(きじま ひろゆき)
・所属:高崎市等広域消防局 高崎北消防署群馬分署 係長代理(消防司令補)
・出身地:群馬県前橋市荒子町
・消防士拝命:平成18年4月1日
・救命士取得:平成26年救急救命士国家試験合格
・趣味:ダンス、散歩
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