230316最新救急事情(231)テクノロジーの進歩

 
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最新救急事情

月刊消防 2022/08/01号 p64-5

最新救急事情(231)
テクノロジーの進歩

 

AEDはドローンとして飛んでくる

先日、旭川市内の高校で消防を招いて教職員相手に1時間の救命講習を行なった。その1週間前には新採用の教職員相手に応急手当の講義もあった。コロナで講義関係は全てオンラインになっていたが、丸2年経ってようやく普通の生活になりつつある。喜ばしいことである。
高校の講習では、講師役の救急隊員がしきりに「ボタンを押さないAED」登場を力説していた。今やクルマだって自動運転できるのだから、AEDからショックボタンを取り除くことは考えれば簡単だったはずだ。今回はAEDと救命講習に関わるテクノロジーの進歩を取り上げる

目次

AEDはドローンとして飛んでくる

この連載では過去にもAEDがドローンに付けられて飛んでくる話を書いたことがある。現在はまだ実証実験段階だが、もう少しで実用化されるだろう。また以前は重いAEDを大きなドローンにくくりつけて飛ばしていたが、AEDの小型化で小さなドローンで飛ばせるようになったり、さらにドローン自体がAEDである機種が開発されたりしている。
ドイツの実証実験1)では、救助者がスマートフォンで119番通報をすると、通信員からドローンへスマートフォンの位置情報が渡されて、救助者の元にドローンが飛んでいく仕組みである。検証結果では、全ての模擬患者へ短時間でAEDを投入できた。また飛び立つのは自動で行えるが、着陸には人による遠隔操作が必要であることがわかった。イギリスの実験2)ではAEDはドローンからパラシュートを付けた状態で放出させている。4.5kmを2分50秒で飛ぶと書いてあるので、迅速に除細動ができる。
ドイツもイギリスも、用いたドローンは人が操縦する必要があったが、程なく人が操縦する必要のないドローンが出来てくるだろう

AEDはメンテナンスが必要

ついでにメンテナンスの話。AEDは電池入りの機械で電極には期限があるから保守はは欠かせない。デンマークから公衆AEDの保守についての報告が出ている3)。デンマークの離島である人口5万人のボーンホルム島での211台のAEDの状況を調べた。完全に作動するのは181台(82%)。17台は電極の期限切れ、8台は行方不明、7台はセルフチェック不能であった。2016年から2019年の4年間でこの島で起こった病院外心停止の発生場所とこれら不良AEDの設置場所を重ねてみると、不良AEDが当たる確率は心停止発生場所から半径100mとすると5.6%にもなった。
日本でもAEDはある時期に急速に普及した。AEDは買ってもまず使われないから、そのまま放置され動作不良になるものも多いはずだ。期限切れがわかったらショックボタンのないAEDに買い換えることをお勧めしたい。ボタンを押す勇気が不要になる。

バーチャルリアリティ(VR)と対面での講習の比較

次は救命講習の話。新型コロナ流行のため救命講習ができなくなっていたが、現在は以前と変わらない講習も行えるようになってきた。対面での講習を避ける方法として、ビデオ学習やオンライン学習が以前から使われてきた。今回VRを使った講習を試みた報告がオランダから出ているので報告する4)。
受講生は381名。そのうち研究にフルに参加したのは118名で女性が61%である。年齢は22-32歳、平均は26歳であり、VRに馴染みの深い年齢となっている。講習後、見知らぬ人に心肺蘇生を行おうという意思を示した割合は全体で77%であり、内訳は対面での講習では81%、VRでは71%と有意差を認めた。筆記試験での正答率は両群で差は認めず、家族や知人に心肺蘇生の大切さを伝えると答えた割合も両群で差はなかった。
VRに比べて対面での講習では心肺蘇生の「やる気」が上回っている。これは対面の講師に比べてVRに迫力がなかったか、逆に迫力がありすぎで「私には無理」と感じさせたかのどちらかだろう。他の調査項目に差がないことから、VRで見せる内容を改良することで、対面の講師と同じだけの効果を出すことができるようになるだろう。

頭には残るが体には残らない

講習の内容は知識としては残るが実技は忘れてしまうという研究があったので紹介したい。スロベニアで中学生に対する教育のデータである5)。
筆者らは中学校1年生と3年生に対して4回のテストを行った。1回目は心肺蘇生講習前、2回目は講習直後、3回目は講習5ヶ月後、4回目は講習2年後である。何も教育していない1回目のテストでの正答率は60%で講習直後は83%へ上昇した。5ヶ月後の3回目のテストでは正答率73%、2年後の4回目のテストでは75%の正答率であった。これに対して体を動かすスキルについては、講習直後を100%とした場合に講習5ヶ月後には心肺蘇生のパフォーマンススコアは59%に低下した。
5ヶ月後で4割低下というのは酷すぎるような気もするが、それだけ反復練習が必要だということだろう。

文献

1)Resuscitation. 2022 Mar;172:139-145.
2)PLoS One. 2021 Nov 15;16(11):e0259555.  
3)Jesperson SS: Resuscitation. 2022 May 23;S0300-9572(22)00163-0. Online ahead
4)JAMA Netw Open. 2022 May 2;5(5):e2212964.
5)Inquiry. Jan-Dec 2022;59:469580221098755.

 

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