月刊消防 2022/08/01, p73
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これまでを振り返ると、「あの人変わったよね?」と言われるようになるのは係長からではないか。若い時は、「あの先輩変わったよなー!」と自分で言いふらしていた口なのに・・・。「お前ら、俺はあんな風にはならねーから」って良く言ってたのに・・・。
“人が役職を作るのか、役職が人を作るのか” “鶏が先か卵か先か”その判断は得てして難しい。
原田種成著「貞観政要」は、中国の唐時代における一番偉い役人であった太宗と、その参謀との会話集である。その中に、「創業と守成はどちらが困難か」というテーマで会話を繰り広げる場面があったので消防バージョンで引用したい。
消防長は言った。「消防長になるまでと、消防長になった後では、どっちが大変だと思う?」
A課長はこう答えた。「偉くなるということは、大変なことでございます。消防長になろうとされるその時代は、退職者も多く、パワハラ、セクハラと数々の問題で組織は乱れておりました。各所に消防長の人材が割拠している中、ライバルに打ち勝っては降参させ、やっと消防長になられたのでございます。よって、その苦労を考えるならば、消防長になるまで(創業)が大変でしょう。」
B課長はこう答えた。「消防長という役職は人が与えるものであって、それは時の運というものもあり、困難なものではありません。しかしながら、消防長という役職を得てしまった後は、何でも自分の思う通りになってしまうため、勝って気ままになります。消防が衰えて破滅するのは、常にこういう原因から起こるのでございます。よって、完成されたものを維持していく(守成)方が大変でございます。」うーん・・・。どっちが大変なんだろう。どちらも正論だし。どっちかと言われたら守成の方が大変そうかな?私の性格を考えても、だんだんわがままになってくる自分を抑えるのは難しそうだ。
実は、この本における回答はA課長、B課長のどちらが正しいかを問うものではない。消防長の質問に答えてくれたそれぞれの課長に、消防長としてどのように返答するか。ここがポイントになっている。皆さんの考えは決まりましたか?それでは太宗さんに聞いてみよう。
消防長(唐の太宗)はそれぞれに対してこう言った。「A課長。君は私に従って数々の問題を経験してきた。私の助言を得ながら物事に立ち向かい、それを解決してきたという思いがあるのであろう。君は、私が消防長になるまでの困難を見ているからそう思うのである。」「B課長。君はわがまま勝手や、おごり高ぶる心が少しでも起これば、消防が衰退するという恐れを心配している。君は、私の性格をよく知っているからだろう。現状維持がいかに困難かよく分かってくれているからそう思うのである。」「A課長、B課長。意見をありがとう。今や消防長になるという創業の大変さは過ぎ去った。それぞれの思いを存分に生かして、消防を維持(守成)という困難を共に乗り越えていこうではないか。」
いかがだろうか。どちらの課長も消防長を思ってこその発言。だからこそ消防長(唐の太宗)は、どちらの意見も正しいとした上で、これからの課題にどのように立ち向かうかを諭している。“人が役職を作るのか、役職が人を作るのか”一見難しそうな問題のように見えるが、おそらくどちらも正しいのだろう。順番なんてどうでもいい。僕たちの階級は、年齢とともに上がっていくのが通常だ。大ブームになっている鬼退治の漫画のごとく、それぞれの役職でそれぞれの責務を全うしようではないか。
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