230914最新救急事情(236)雪崩の救助

 
  • 200読まれた回数:
最新救急事情

月刊消防 2023/01/01号 p64-5

 

 

雪崩の救助

最新事情

目次

はじめに

この原稿が出る頃には北海道ではどこへ言っても雪景色になっている。雪が降るとスキーやスノーボードが楽しめる。最近は「バックカントリー」と称して、スキー場の整備されたコースの外を滑り降りることが人気だ。ただ、整備されていないだけに雪崩にあったり遭難したりする人も出てくる。

今回は雪崩の救助についての総説1)を紹介する。雪崩の救助や救命について論文を調べると、イタリアから出されたものがとても多い。北側の国境にアルプスを持つだけに被害も大きいのだろう。

木が生えていても起きる

雪崩での死亡事故の多くはレクリエーション中に起きていて、職業に関連した事故は少ない。85%は標高2500m以上の森林限界を超えたところ、つまり見晴らしの良い場所で起きているが、残りの15%は森林限界以下で発生している。傾斜角度は35-40°。スキーやスノボで滑るには傾斜がきつすぎるので、滑って遊んでいたら上から雪崩が襲ってくるのだろう。発生時間は午前10時から午後3時。

死亡率25%

雪崩事故での全体の死亡率は25%。これが完全に雪に埋もれてしまうと死亡率は倍の50%となる。逆に頭と胸が雪面上に出ていれば死亡率は5%に下がる(。

死亡率(001)は埋没後35分までは直線的に上昇し、35分以降は82%でほぼ一定になる。初めの10-15分を生存期、それ以降35分までを窒息期と名付けている。この窒息期での死因は窒息である。窒息の原因は気道閉塞、溶けた雪が再び凍ることで気道が塞がれるアイスマスク現象、雪で胸郭を押さえつけられることによる換気障害、呼気の再吸入による低酸素症が挙げられる。35分以降は埋没期と呼ばれる。エアポケットがあったり中低雪密度の場合は助かる可能性がある。埋没期の死因は低体温症+低酸素症+高炭酸ガス症の組み合わせが一般的であり、低酸素症が直接の死因となるのは60分以上埋没していた場合に限られ、全体の1%程度しかない。雪に埋まって中心体温が30℃を切るには1時間以上の時間が必要である。

001

雪崩事故における埋没時間と死亡率。文献1から引用

救助

ここからは、ヨーロッパ蘇生協議会による2021年勧告 2)からの引用になる。

1)捜索

すぐ捜索を開始する。仲間が発見した埋没者の生存率は、救助隊によって発見された場合に比べて生存率は4倍になる。深さ1mにマネキンを埋めた研究では、捜索人数が1人でも2人でも救出時間に差はなく、埋められたマネキンの体勢も救出時間に影響を与えなかった。マネキンの発見から気道確保するまでの時間は7分、胸骨圧迫を開始するまではさらに3分かかることからも、仲間による一刻も早い捜索が必要である。仲間による発見ではすぐマウスツーマウスによる人工呼吸を行う。最初の人工呼吸は溺水と同じく5回息を吹き込むこと。

2)発見

体を発見したら頭に向かって掘り進める。体勢が許せば、体を発見した時点で気道とバイタルサインの評価を行う。心電図モニターも装着することが望ましい。顔が出たら、口と鼻の前にエアポケットがあるか、雪や瓦礫で気道が塞がれているか確認する。気道が塞がれている場合にはすぐ気道を確保し人工呼吸を開始する。雪崩事故では死因が窒息であることがほとんどのため、心肺蘇生では人工呼吸が必須となる。

体温は食道温が望ましい。鼓膜温は心停止していない場合には信頼できるものの、環境温がとても低い場合には実際の中心体温よりはるかに低い温度を示すことがある。また鼓膜用プローブは屋外用のものを用いる。パスルオキシメータは末梢血管が収縮しているため必須ではない。

救出後は初期評価を行い、AEDがあればパッドを取り付ける。保温に努める。

3)外傷への対応

外傷部位で多いのは胸部と頭部であり、脊椎・腹部・四肢の外傷は少ない。外傷の観察と処置は一般的な外傷と変わらない。外傷による心停止では生存率は低い。

4)気道確保と人工呼吸

意識がない患者に対しては気管挿管を行い誤嚥の可能性を低下させる。だが挿管手技に自信のない場合にはラリンゲアルチューブのような声門上デバイスでも良い。過換気による低炭酸ガス血漿は脳血管を収縮させることと不整脈を誘発することから、血中二酸化炭素濃度を正常域に保つようにする。

5)胸骨圧迫

通常の心肺蘇生と同じ。

6)除細動

低体温では除細動に反応しないことが多い。中心体温が30℃未満では3回までは除細動を試み、それでも心室細動が解消しない場合には中心温度が30℃以上になるまで待ってから再び除細動する。

6)低体温の管理

意識のない患者で低体温症が疑われる場合には、心室細動の発生を防ぐため、水平に設置した担架で、不要な動きや固定をせずに静かに搬送する。体温低下は雪の中より風に晒させる搬送中の方が危険性は高い。濡れた衣服を脱がすことは外気に肌を晒すことになるため、そのまま体を断熱資機材でくるんで搬送する。

低体温では呼吸や脈拍が緩徐になるため、バイタルサインの検出が困難になる。そのため通常観察の10秒ではなく1分館の観察が必要である。

7)間欠的心肺蘇生

連続的な心肺蘇生が困難な場合、中心体温が28℃未満なら蘇生5分休み5分の間隔で搬送する。中心体温が20℃未満なら心肺蘇生10分休み10分の間隔で搬送する。

8)輸液と薬剤投与

輸液は42℃に加温したものを用いる。現場で加温・保温は困難なので救急車やヘリコプターに乗せた後に輸液を開始する。

文献

1)Int J Environ Res Public Health 2021 Sep 29;18(19):10234

2)Resuscitation 2021 Apr; 161:152-219

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました