230910救助の基本+α(77)救助活動に関する基準第6条第2号 岡崎市消防本部 簗瀬勝弘

 
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基本手技

月刊消防2023年01月号, p18-25

目次

プロフィール

【プロフィール】

■名 前:簗瀬 勝弘(ヤナセ カツヒロ)
■所 属:中消防署本署救助1係
■出身地:愛知県岡崎市
■拝 命:平成11年
■救急救命士合格:平成21年
■救助科程修了:平成21年

「救助活動に関する基準第6条第2号」

1 My Town 岡崎市

 岡崎市は愛知県のほぼ中央部に位置し、市内の北東部は三河高原の山群が連なり、西南部に広大な西三河平野が開けています。北は豊田市、西は安城市、南は幸田町、東は豊川市に接しており、自動車産業との関連が深い地域です。

 文化的には群雄割拠の戦国時代を統制した徳川家康公誕生の地としても有名で、市内には大樹寺、伊賀八幡宮等、歴史的建造物が点在しており、2023年にはNHK大河ドラマ「どうする家康」の舞台となることで今後ブームとなる可能性を秘めています。

 また、消防関係においても度々話題に上がることのある「大型水陸両用車(通称:レッドサラマンダー)」を所有運用していることや、新型コロナウイルス感染症の関係では、初期対応時におけるイギリスの豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客、乗員を開院前の病院(現:藤田医科大学岡崎医療センター)に収容し、国、保健所などと協力して対応にあたったことが全国的に報道されるなど話題に尽きない市です。(図1)

 

1 岡崎市消防本部署所配置図

     

 
 
 
 
 

 

2 岡崎市の救助隊編成

 岡崎市は中消防署本署に高度救助隊1隊、東消防署本署及び西消防署本署に特別救助隊を各1隊の計3隊の救助隊を運用しています。

3 救助活動に関する基準

(救助隊員の資格)

第6条 救助隊員(消防団員を除く。)は、次の各号のいずれかに該当する消防職員をもつて充てるようにしなければならない。

 1 消防大学校における救助科又は消防学校の教育訓練の基準(平成15年消防庁告示第3号)に規定する消防学校における救助科を修了した者(以下「第1号」という。)

 2 救助活動に関し、前号に掲げる者と同等以上の知識及び技術を有する者として消防長が認定した者(以下「第2号」という。)

4 救助隊員の編成

皆様の消防本部では、救助隊の隊員編成はどうなっていますか。岡崎市では、救助隊を運用する隊員は4名から5名で編成をしており、内第1号に該当する隊員数は、各署により上下しますが、2名から3名、休暇等で人員に余裕がない場合には、1名という編成をする勤務もあります。また、その他の隊員も第2号だけでは足りず、救助隊員の資格を有さない隊員で編成することもあります。消防学校での救助科の養成を毎年行い第1号で編成された隊員のみで運用することが理想的なのですが、追い付いていないのが現状です。(表1)

1 岡崎市消防本部年齢分布

 

 

5 第2号の認定

 そこで、重要となってくるのは「消防長が認定した者」である第2号の存在です。皆様の消防本部では、どのような基準や審査方法で第2号を認定していますか。恥ずかしながら岡崎市では、数年前まで特に決まった基準や選抜方法もなく、人事により配属された隊員を第2号として認定していました。しかし、配属された隊員が本当に第1号と同等以上の知識及び技術を有する者なのか、何を基準に認定しているか等、今まで様々な意見がありました。それならば「ちゃんと教育すればいい」となりますよね。ですが人事異動の関係もあり3年から5年をかけて救助係に身を置く若手職員は皆無に等しい状況でありました。そんな中での救助隊員として1年間の教育は、救助の基礎から始まり、救助資器材の取扱い、三つ打ちロープの取扱い、三つ打ちロープによる救助法を教えるだけであっという間に1年間が過ぎ、また翌年には新しい若手隊員が異動してくるという悪循環が起きていました。そのため、高度救助資器材、都市型救助器具による救助法、特殊災害対応等を深くまで教育、訓練をする余裕はなく、第1号の隊員も若手隊員の育成に時間を費やし、自身のスキルアップ、救助隊全体の高度な知識及び技術の錬磨には至らない状況でした。

6 試験制度開始

 このままでは若手職員、中堅隊員のモチベーションは低下するばかりで、救助隊としても進歩が望めない状況では今後の岡崎市の未来はありません。その打開策として若手職員への教育、岡崎市全体のレベルアップを図るため各署長が認定を行う「認定救助隊員制度」を令和元年度から開始しました。内容としては、採用から4年目以上で消防士長以下の者を対象とした「基礎試験」①救助技術試験(基本結索、特殊結び、器具結索、要救助者結索・縛着)、②体力試験(腕立て伏せ、腹筋、懸垂、シャトルラン)を行い、基礎試験合格者を認定救助隊員としました。そこからさらに、学科試験、想定訓練、口頭質問を行い合格した者を上級認定救助隊員として、第1号と同等の知識及び技術を有するものとして認める取組みをしてきました。

7 試験制度の問題と課題

 それから2年が経過し、色々な問題や課題が浮かんできました。試験受講者からは「評価が不透明で不平等」「各署所での資器材、訓練施設が違い公平性に欠ける」「一発試験で本当に評価ができるのか」等の意見が上がりました。試験の評価者からは「各署所によって実力差が明らか」「基本ができていない受講者が多い」等の評価がありました。今回令和3年度で3回目となる認定救助隊員制度を一度見直す必要があると思い、何が問題なのか協議を行い、大きく3つの問題点があるのではないかとの結論に至りました。

⑴ 不平等・公平性

受講者からの意見で多かった「不平等、公平性に欠ける」という意見に対しては、事前に試験内容、評価方法、内容等を提示し、同じ評価者が全ての受講者を評価後、評価結果を開示することで解決できます。

また、各署所での資器材、訓練施設が違うという課題は、期間を設けて資器材の貸出、訓練施設の開放を行えば解決できます。

 ⑵ 実力差・基本スキル

評価者からの意見で多かった「各署所によって実力差が明らか」「基本ができていない」という意見。ではなぜ各署所によって実力差が明らかで、基本ができていないのか。それは資器材、訓練施設の違いもあるかもしれませんが、根本的な問題は指導者がいない、又は指導者がいても指導者によって指導内容が違う、最悪なケースでは指導者が基本を理解していないことです。これが一番の問題であり早急に解決しなければならない課題でした。

 ⑶ 認定救助隊員と上級認定救助隊員の違い

   現状、認定救助隊員と上級認定救助隊員両者の存在が曖昧であり、一つまとめてしまえばいいと考えましたが、評価者からは認定救助隊員と上級認定救助隊員では実力差がありすぎるとの意見があり、一つにまとめるのは簡単ではありませんでした。

8 集合教育へ

そこで、考えたのは以前から実施したいと思い描いていた「集合教育」です。受講者を一同に集め選任された育成指導者が教育を行うことにより、基本から応用までの指導内容の統一、救助活動の共通認識、そして、消防学校の救助科と同程度のカリキュラムを実施することにより、第1号と同等の知識及び技術を有すると認めることができると考えました。また、認定救助隊員も再度教育を行うことにより、上級認定救助隊員と同じ、いや、それ以上に教育してレベルアップさせれば問題ないと考え、集合教育をスタートさせることになりました。

令和3年度は新規受講者の試験は実施せず、過去2年間で基礎試験合格者である認定救助隊員を対象とした集合教育を行うこととしました。そして、今回の内容を基に令和4年度からの新規受講者への試験内容及び教育内容を精査するいい機会ともなりました。

9 集合教育内容

 集合教育の内容は「消防学校の教育訓練の基準別表第二消防職員に対する専科教育8救助科」と同等のカリキュラム140時間が理想ですが、そこまで出動隊員を拘束することは、各署所の災害対応へ影響がでてしまうため不可能でした。災害対応隊員の拘束時間は少なく、効率よく育成するにはどのような方法、内容が適切なのか考察を重ねた結果、140時間ではなく単位として140単位(例:学科教養細目「関係法令等」を行うと5単位取得。実技実動訓練は1時間で1単位を取得。)81時間を行いました。(表2)

2 令和3年度岡崎市認定救助隊員育成カリキュラム

 

⑴ 学科教養(92単位44時間)

事前に、動画及びパワーポイントによる資料を作成し、各育成対象者が各所属で自主学習をする期間を約2か月間設け実施。(写真1)

1:自主学習

 

⑵ 集合教育(33単位33時間)

  高度救助隊が中心となり、育成指導者の選任、指導方法及び指導内容の統一を図り、訓練計画書の作成を実施。訓練内容は、基礎訓練(一般救助用器具取扱い、交通事故救助等)から総合訓練(特殊災害対応訓練、想定訓練等)を各本署3会場3名から4名を集合させ6日間実施。(写真2・3・4・5)

 

 

2:高度救助資機材取り扱い

 

3:低所救助訓練

 

 

4:交通事故救助

 

 

5:特殊災害対応訓練

 

⑶ 効果測定(5単位4時間)

 ア 実技考査

   補助隊員を入れた5名1小隊で想定訓練を行い、評価者1名と各育成指導者により評価を実施。(写真6・7・8・9)

6:実技考査(想定1)

 

7:実技考査(想定2)

 

8:実技考査(想定3)

9:実技考査(想定4)

9:実技考査(想定4)

 

 

イ 学科考査

事前学習した内容から出題し評価を実施。(写真10)

10:学科考査

 

⑷ その他免除(救急・体育:10単位)

救急は各消防本部で実施している救急隊員教育により免除、体育は基礎試験で行った体力検定により免除。

10 見事全員合格

 約2か月間の育成を修了し、効果測定の結果全員合格しました。合格者には認定救助隊員としてカードサイズの「認定証」(写真11)を消防長から発行していただきました。(写真12・表3)

 

11:認定証

 

12:おめでとうございます

3 令和3年度認定救助隊員修了後年齢分布

 

11 見えてきた問題点・課題

今回実施した集合教育を根幹とした育成カリキュラム修了後に、各育成対象者及び各育成指導者に対しアンケート調査を行いました。このアンケート調査結果から今回の問題点を洗い出すことができました。

また、効果測定結果から来年度への課題が見えてきました。

しかし、問題ばかりが見えただけではなく、育成対象者や育成指導者の意識が良い方向へ改革できたのは大きな収穫でした。(図2・3)

 

 

2 育成対象者アンケート集計

 

3 育成指導者アンケート集計

 

 ⑴ アンケート結果から見えてきた問題点

  ア 育成対象者

    学科教養内容は概ね良かったが、ボリュームが多かったとの回答が多く、内容の精査が必要である。集合教育カリキュラム内容も概ね良かったが、細目により時間調整が必要である。

  イ 育成指導者

    準備期間が短く、全体的に細部まで調整ができなかった。育成対象者人数及び育成指導者人数は概ね良かったが、指導内容の調整が足りず苦慮した意見が多かった。学科教養も教えたいことが多くあり、結果ボリューム増大につながってしまった。集合教育カリキュラム内容も細目により時間が足りない意見が多かった。

 ⑵ 効果測定から見えてきた課題

  ア 育成対象者

    学科考査は範囲が広く、的を絞れず難しかったとの意見が多く早急な改善が必要である。実技考査は集合教育で行ってきた内容であったため、自信を持って行うことができた意見が多かったが、年齢的にも小隊長経験がない対象者が多いため、実施方法の再検討が必要である。

  イ 育成指導者

    学科考査は緊急消防援助隊に関わる細目の点数が全体的に低く、学科教養での強化が必要である。実技考査は集合教育の成果で、全隊員が同じレベルでの活動ができていた。この結果から三つ打ちロープにおける救助法の教育は概ね修了したとみなすことができると判断し、来年度から救助隊員として配属された場合には、三つ打ちロープに関する教育を省略することができ、高度救助資器材、都市型救助器具による救助法、特殊災害対応等の高度な教養、訓練等から始めることが可能と思われるが、各育成指導者との調整が必要である。

12 今後の集合教育を取り入れた「認定救助隊員制度」に向けて

 ⑴ 学科教養

学科教養での内容、量の精査が必要である。また、各細目修了後に確認小テストを行い、学科考査では確認小テスト内から出題する等の方法を検討し、育成対象者の負担軽減を行う必要がある。

 ⑵ 集合教育

集合教育では主に特殊災害対応訓練(NBC対応)と交通事故救助の細目の時間数を増やし、6日だった集合教育を7日に延長することも含め検討する必要がある。

事前に指導方法及び指導内容の統一を行ったが、実際に集合教育を実施すると、育成指導者間での指導の違いが発生してしまったため、指導方法及び指導内容について、育成指導者の集合研修を行うことも考慮する必要がある。

 ⑶ 効果測定

効果測定ではさらに平等性、公平性に重点を置いた内容、また、効果測定が必要なのかについても検討が必要である。

 ⑷ 基礎試験(一次試験)

 来年度からは基礎試験を再開するため、受験対象者、試験内容、合格ライン基準等の精査、見直しを行い、幅広い職員が挑戦できる内容の検討が必要である。

13 願い

 今年度は第2号の育成を目的とした内容でしたが、今後は救助業務には興味のない職員や、救急業務志望、予防業務希望等の幅広い職員にも受講していただき、岡崎市全体のレベルアップができれば幸いです。また、認定救助隊員の認定を受けたから救助一本というものではなく、警防業務・救急業務・救助業務・予防業務とマルチに活躍できる人材育成の基盤となれば嬉しい限りです。

個人的な願いとしては、認定救助隊員に認定された隊員が数年後、十数年後には各署所で災害を終息させるための核となる隊員として活動し、訓練を実施する際には指導者として指導を行い、若手職員の手本となり、憧れる先輩として活躍できる職員となってくれることをささやかながら願っています。そして、消防に身を置いてからの目標である「救急救命士資格を持つ隊員で編成された救助隊」を運用させるためにも、救急救命士資格を持った職員の受講が増えることを期待しています。

14 おわりに

 今回の投稿が少しでも同じ悩みを抱えている消防本部の皆様の手助けとなればこれ以上の幸せはありません。教える側、教わる側どちらも新しい「気付き」が生まれるはずです。是非一度ご検討していただき、実施してみてはいかがでしょうか。(写真13)

 

13:協力していただいた中消防署本署救助1係メンバー

 

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