240309今さら聞けない資機材の使い方 122 プレホスピタル・ドラッグノート 金沢市消防局 中井絢美

 
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基本手技

近代消防 2022/06/11 (2023/7月号) p66-8


名前:松田 幸一郎 (まつだ こういちろう)
所属:沖縄県 東部消防組合消防本部
出身:沖縄県与那原町
消防士拝命:平成26年
救命士合格:平成24年
趣味:マラソン・旅行

今さら聞けない資機材の使い方

2023/06/11発行号

プレホスピタルドラッグノート

中井 絢美

石田 充

米田 光広

小松 哲也

澤村 一晟

金沢市消防局

目次

1.はじめに

私たちは、救急現場に特化したお薬辞典を開発したので紹介いたします。

2.プレホスピタルドラッグノート(001, 002)

図1に私たちの開発したお薬辞典、名付けて「プレホスピタルドラッグノート(PDN)」です(001, 002)。PDNに記載されている薬品数は150種類でページ数が16ページとコンパクトなつくりとなっています。

薬品は五十音順に並んでおり、左から商品名・対象疾患名・一般名となっています。

ラミネート加工を施すことで、血液等で汚染した手で薬品検索を行った際も、活動終了後に消毒が可能であり、データはエクセルで管理しているため、薬品名の追加や修正が可能で、データ更新も容易です。

     

001

プレホスピタルドラッグノート(PDN)。正面

002

16ページのお薬辞典

3.掲載する薬の選択

石川県では、平成17年に統一された傷病者搬送連絡票に内服薬を記載する項目があります(003)。PDNに記載する薬品名は、過去3年分の当救急隊が出動した傷病者搬送連絡票の内服薬情報7,319件から抽出しました。記載されていた全820種類の薬品の記載回数を集計し、記載回数4回以上の薬品150種類をPDNに記載することとしました。

003

傷病者搬送連絡票には内服薬を記載する項目がある

4.背景

救急隊は救急活動をするうえで、SAMPLE (表1)等の情報を本人や家族・施設職員から聴取し、迅速に病態判断や医療機関選定を行わなければなりません。病態判断のひとつとして、内服薬から、既往歴や現病歴を推測することもあります。しかし、「処方された薬を毎日飲んでいるが何の病気か分からない」と言われたり、意識障害がある傷病者でSAMPLE(表1)情報が答えられない傷病者だった場合、病態判断や医療機関選定に時間を要してしまうことがあります。

表1

SAMPLE

S:症状

A:アレルギー

M:薬

P:既往歴

L:最終食事

E:現病歴

当救急隊は市販のお薬辞典を活用し、薬の情報を検索していました。約4,500種類の薬品が記載され、600ページを超えるお薬辞典では、救急現場で薬の情報を検索する際に時間を要してしまいます。また、お薬辞典は紙のため消毒や清拭が困難であり、破れたり容易に破損してしまう恐れがあります。

現状の問題点をまとめると、以下の3つが挙げられます。

・病歴を答えることができない傷病者がいること

・市販のお薬辞典では検索に時間がかかること

・紙ベースのお薬辞典では消毒が困難であること

そこで、プレホスピタルドラッグノート(PDN)を開発しました。PDNがあれば、以下のように解決することができます。

・病歴を答えることができない傷病者であっても、お薬情報があれば、PDNで検索し(004)、病歴を推測することができます。

・市販のお薬辞典では検索に時間がかかりましたが、救急現場に特化したPDNを使えば迅速に検索することができます。

・紙ベースのお薬辞典では消毒が困難でありましたが、ラミネート加工により消毒が可能となりました。

004

活動写真。容易に検索できる

5.現場での使用

令和4年7月1日から12月31日の半年間、当救急隊は1417件出動しました。内服薬情報がある傷病者464名のうち411名の内服薬がPDNに該当しており、その該当率は約89%という結果が得られました。

また、ある事案では、病歴を言いたがらない傷病者がいました(005)。その傷病者のおくすり手帳を見ながらPDNを開く(006再現写真/ファイル名:使用再現2(俯瞰))と、精神疾患の薬を内服していることがわかりました。このように、精神疾患があって病歴が言えない・言いたくない傷病者、職場や学校・公衆の前で病歴を言いたくない傷病者の場合、PDNのおかげで病歴がわかり、病態判断や病院選定をスムーズに行うことができました。

PDNで検索することによって、救急現場で遭遇することが多い薬品名と対象疾患名を覚えるようになり、「PDNがなくても、薬品名を見ただけで疾患名を結びつけることができるようになった」(007)との隊員からの声も聞かれます。

現在、当市の全救急隊にPDNを積載し救急活動で活用しています。令和5年1月に広島市で開催された第31回全国救急隊員シンポジウムで発表後、複数の消防本部からPDNの問い合わせがありデータを提供しました。

PDNを活用することで、今後も増え続けると予想される救急需要に対し、適切かつ迅速な救急活動につなげ、さらなる市民サービスの向上に努めていく所存です。

005

病歴を言いたがらない傷病者を搬送した

006

おくすり手帳を見ながらPDNを開くことで病名の推定ができる

007

薬品名を見ただけで疾患名を結びつけることができるようになる

プロフィール

nakai.jpg

氏 名    中井 絢美(なかい あやみ)

所 属    金沢市消防局駅西消防署

出身地    石川県金沢市

消防士拝命年 平成29年

救命士合格年 平成29年(救急隊員歴3年6か月/令和5年3月現在)

趣 味    旅行

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