120527教育・伝承(10)後世に伝えたい「ふるまい」の大切さ

 
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教育・伝承(10)

後世に伝えたい「ふるまい」の大切さ

山本智靖(やまもとともやす)

所属:大田市消防本部大田消防署救急救助係長(島根県)
出身:島根県大田市
年齢:39歳
消防士拝命:平成3年4月
救急救命士資格取得:平成11年11月
趣味:野球(少年野球指導)


シリーズ構成

西園与之

(東亜大学医療工学科救急救命コース)


「教育・伝承」
大田市消防本部山本智靖

後世に伝えたい「ふるまい」の大切さ

はじめに

大田市消防本部は、島根県のほぼ中央部に位置し、日本海に面した面積436.12km2、人口約4万人の過疎化に悩む地域を1本部2署1出張所、職員数84名で担っています。

当本部の救急救命士は19名で、気管挿管・薬剤認定救急救命士が7名、薬剤認定救急救命士が6名の構成となっています。救急自動車は、高規格救急自動車を含め6台(予備車を含む)配備しており、平成23年中の救急出場件数は1,640件となっています。

なお、当本部に専従隊は配置しておらず、火災、救急、救助活動を兼務しています。

 大田市の地域性は、急峻な山々が日本海に迫り、岩場と砂浜が交互に織りなす浦々に漁港が点在し、その風光明媚な自然景観と温泉が観光に供されています。南には大山隠岐国立公園に属する三瓶山(写真1)を擁し、雄大な自然と薬効豊かな温泉が随所に点在しています。

 そして当地の中央には、平成19年7月に日本では14番目、鉱山・産業遺跡としては初の世界遺産登録となった「石見(いわみ)銀山遺跡」(写真2)があります。本年7月には、世界遺産に登録されてから5周年を迎えます。この節目に合わせ6月から12月までの6か月間、石見銀山を中心に市内全域にわたる観光キャンペーンを展開します。

このように海・山・歴史・文化遺産と温泉が混在する自然豊かな大田市に是非一度、お越しになってください。

「ふるまい」について一言・・・(それでは皆さん、「島根ふるまい向上プロジェクト」をご存知ですか?)

ここで、島根県で取り組んでいる「島根ふるまい向上プロジェクトについて紹介します。

まず、「振る舞い」を辞書で調べると、1振る舞うこと。挙動。また、態度。「立派な?」「立ち居?」2ごちそうをすること。もてなし。供応。「大盤?」となっています。(出典:「大辞泉」)

現在の日本は、全国的に少子化や核家族化、価値観の多様化、雇用の流動化など社会が大きく変化してきています。それにともない、かつて地域社会が生活の営みの中に宿していた人と人とのつながりや教育力が失われつつあります。また、規範意識やモラルの低下が要因と思われる痛ましい出来事がメディアによく取り上げられています。

島根県は、美しい自然、文化、歴史、教育熱心な人々に恵まれた大変素晴らしい教育環境にあります。子どもたちは地域の教育資源「ひと・もの・こと」に触れる活動を通して、豊かな心を育んでいます。その結果、子どもたちの地域活動への参加率や地域での挨拶の実施率は、全国と比較しても高い状況にあります。

写真3
「島根ふるまい向上プロジェクト」シンボルマーク

これら島根のよさ、地域のあたたかさを後世に伝えたい、これは県民だれもの願いです。そこで、県民全体をあげて、今できること、大切にしていかなければいけないことに、「ふるまい向上」をかかげ、平成22年度からスタートしたのが「島根ふるまい向上プロジェクト」(写真3)です。

この取組は、「礼儀、作法、挨拶、しぐさ、モラル、ルール、しつけ、道徳、倫理観、生活行動、生活動作、思いやり」などを「ふるまい」と総称して、乳幼児から大人まで、島根県民みんなで、「ふるまい」を向上させていこうというものです。「ふるまい」を身につけるということは、社会人として「自立して生きる力」「人と共に生きる力」を自ら育んでいこうということです。

なぜふるまい?

これからは、前記でご紹介した「ふるまい」を救急救命士として考えてみたいと思います。現状の消防は、団塊の世代が退職が急増したことで、長年の知識や経験、技術の蓄積が失われようとしています。年長者が欠け、若年職員が増加してくる時代において、住民の期待に応え続けるためには、職員の資質の向上、つまり人の育成が絶対条件と思っております。各消防本部においても、この命題の克服に様々に取り組まれておられることと思います。即効薬は見つからず、地道な努力と継続的な訓練をとおして伝承を図っているところですが、「ふるまい」があってこそ職員間の良好な技術伝承が可能ではなかろうかと・・・・そして、先ずこのことが出来なければ、いくら知識、技術を習得しても現場活動に反映できないばかりか、救命することなど程遠いのではないかと感じ、「ふるまい」の中から倫理観について私の思いを書かせていただきます。

救急救命士としての倫理観

「命の重さを知り、日々の努力を怠らないこと。」

救急救命士は、常に人の命に関わっています。一度止まってしまった心臓はそう簡単には動き出しません、一心不乱に胸骨圧迫を行っても動きださないことをよく知っています。どんなに訓練を重ねても報われないことが多く、力の無さに苛まれることもあります。

しかし、我々は市民の命を昼夜問わず最前線で守っています。このことを誇りに思い、日進月歩で進化する医療に対応すべく自己研鑽に励み日々努力、努力することが必要です。

「日々の努力を怠らないこと。」

当たり前のことですが、これがなかなかできないですね。努力とはすなわち、「どうしたら救命できるか?」を常に追い求め、苦手な分野を克服するためどうすべきかを考え実践することです。

苦手な分野の克服のためには実践型コースを受講することです。受講するためには受講料に加え、旅費、宿泊費がかかる場合がありますが惜しまないで下さい、絶対にそれだけの価値はあります。そして受講したら率先して体験することです。また、リーダーもしくは隊長役を必ず体験すること。自分は所属で隊長になることはないから他の受講者に譲るのではなく自ら進んでやりましょう。リーダーや隊長は活動全般を管理しますので、いろいろなところに目配り・気配りし、先を予測しなければなりません、このことが非常に重要かつ必要なことです。コースによっては限られた人数しかできない場合がありますが是非是非申し出てください。現在であれば、ITLS、JPTEC、ICLS、MCLS、ISLS、MIMMS、BLSO、ALSOなど様々な分野の実践型コースが様々な方のご努力で日本中の各地で開催されていますので、そこで知識・技術を身に付けてください。必ず現場で役に立ちますし、受講することで自分自身の自信に繋がります。不安だとその雰囲気が傷病者や家族または関係者に伝わりますよ。

 私も苦手な分野ばかりでしたが、当時は特に「外傷」と「小児・乳幼児」が苦手・不安な分野でした。そこで外傷では、BTLS(BasicTraumaLifeSupport)を京都で、さらに平成12年8月日本初の病院前外傷観察処置法のコース(PrehospitalTraumaCareJapan主催)「第1回いわみ外傷セミナー」を地元島根県邑智郡石見町(現:島根県邑智郡邑南町)で受講しました。現在はJPTECインストラクターとして活動しています(写真4)。

 小児・乳幼児では、平成15年に小児二次救命処置のPALS(PediatricAdvancedLifeSupport)を東京で受講、さらなる克服のために2年後の平成17年にはハワイでAPLSを受講しました(勘違いしないで下さい、APLSがたまたまハワイで開催されたから行ったまでで、国内で開催されていればそこへ行ったでしょう)。(写真5)(写真6)

このことは人の命に関わる者として当然のことだと思っていました。この思いは今でも変わることはなく、これからも最先端の知識、技術を追い求めていきます。それは命にかかわる者、命を預かる者の使命です。

その為には身銭をきって知識、技術を習得する必要があります。与えられるものを待っていては駄目です。己の弱点を知りそれを克服しなければなりません。

また、日本臨床救急医学会、全国救急隊員シンポジウム等の学会に参加し症例発表、研究発表を実際に見て感じて下さい。そして、自らが発表者となってください。

私も今までに三度、全国救急隊員シンポジウムで発表しました。日々の活動から疑問に感じたこと、研究、新たな取組み等を応募しました。応募するためには、データ収集、抄録作成、そして発表するには原稿作成、スライド作成等があり時間と労力が必要です。しかし、これらのことでそのことを更に探求することがきるのです。発表し、質問を受け討議することで知識が増大します。それを持ち帰り現場活動に活かす。発表することの意義は、救急現場への還元です。

学会等のもう一つの学習場所は資器材展示ブースです。医療の進歩に合わせ医療機器メーカーは最新の機器を展示します、それを手に取り、開発のコンセプトを聞きましょう。そして鵜呑みにせず考え、疑問があれば質問し、救急現場で使用できるかを考えることも必要です。

救急救命士資格を取得し、経験の浅い方は積極的に実践型コース、学会等に参加して下さい。必ず得るものがありますから・・・・

指導者として

「やってみせて、言って聞かせて、やらせてみて、ほめてやらねば人は動かじ。」

これは第27代連合司令艦隊司令長官山本五十六の言葉です。

指導者の方、「立って見て、言いっぱなしにし、やらさず、ほめない・・・」になっていませんか?

私は、消防士を拝命し20年、救急救命士資格を取得し12年が経過しました。早期退職のあおりを受け、あれよあれよの間に指導的立場になってしましいました。

指導者としてすべきことは山ほどありますが、実践型コースへの参加、学会等の参加は積極的に行っています。そして署内でのシミュレーションでは、隊長はもとより、隊員、機関員となり部下に見せるということも行っています。指導者的立場になると、比較的周りから見て指摘することが多くなります。このことは当然のことであると思いますが、部下は上司が行うシミュレーションを見てみたいとの思いもきっとあるはずです(意見としてありました・・・)。

指導者は、「失敗したら立場がない。」、「失敗できない。」というプレッシャーがあると思いますが口頭だけではなく見せる指導も行って下さい。

これが、「やってみせ」ということです。やってみせることで次の「言って聞かせて」が生きてくるわけです。自分が部下の立場であったらどうでしょう?昔、やらずに言うばかりの上司にはどう感じていましたか?同じ指摘を受けてもやってみせる指導者とやらずの指導者、どちらの言うことを素直に聞き入れられますか?信頼できますか?言わずとも前者ですよね。そして「やらせてみて」に移行です。「信用する信頼はしない」「信頼」とは、100%信じて頼ること。」「人間のやることですから、必ず落とし穴がある。それが思わぬ大事故につながったりするので、一歩さがって、100%の信頼はあり得ないという立場から、目を光らせていかないといけない。」隊員を信じて現場に送り出しながら、冷静な目を持つことも忘れない。この言葉は、東京消防庁消防救助機動部隊長の宮本和敏さんが平成20年4月8日NHKプロフェッショナル仕事の流儀での言葉です。この言葉に裏付けされるのは指導者並びに指揮者として訓練を共に行い、部下の技量を把握することで「やらせてみる」ことができるのです。

そして最後の「ほめてやらねば」です。これが一番苦手ではないですか?はっきり言います私は苦手です。まずほめられて育ってないのが一番の原因でしょう。具体的に、適切に、タイミングよくと言った具合でしょうか。人はほめられることで正しく成長するとも言われていますから「ほめる技術の向上」も指導者の役目でしょう。私は「厳しくほめる技術の向上」を模索しようと思っていますが・・・

おわりに

救急救命士については、ビデオ硬性挿管用喉頭鏡を用いた気道確保の実施や血糖測定と低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与、重症喘息患者に対する吸入β刺激薬の使用、心肺機能停止前の静脈路確保と輸液の実施、の3つの処置の検討、指導認定救命士の検討などがなされています。

今後も最前線で命に向き合う者として日々の努力を怠ることはできません。そして指導する者、される者共に目的は同じです。何にも変えることのできない「命」を一人でも多く救えるよう共に頑張りましょう。

最後に、この投稿を読んでいただいている管理職の皆様、財政状況、勤務状況が厳しい中ではありますが、実践型コース、学会等への一人でも多くの派遣をお願い致します。それが困難な場合、多くの救急救命士は自費でも参加する意志をもっていますので勤務の調整を是非お願い致します。


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12.5.27/8:02 PM

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