240317救助の基本+α(84)土砂埋没救助 上尾市消防本部 菊池純矢

 
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基本手技
名前:菊池 純矢
読み仮名:きくち じゅんや
所属:西消防署消防第一課 救助担当
出身地:埼玉県北本市
拝命:平成22年4月
趣味:バスケットボール

月刊消防 2023/8/1号 p34-8,  9/1号p40-4

土砂埋没救助

このたび「救助の基本+α」シリーズを担当させていただく上尾市消防本部の菊池純矢と申します。今回は「土砂埋没救助」について執筆させていただきます。よろしくお願いいたします。

 なお、本文中の内容等につきましては「令和元年度救助技術の高度化等検討会報告書 土砂災害時の効果的な救助手法について」を参考に引用させていただいていることをご了承ください。

目次

1 はじめに

⑴ 上尾市の紹介

はじめに、私たちのまち、上尾市について紹介したいと思います。上尾市は、首都東京から北へ約30kmの距離にあり、埼玉県の南東部に位置しています。上尾市は「みんなでつくる みんなが“輝く”まち あげお」をスローガンに、新たな時代に向けた町づくりに取り組んでいます。

⑵ 消防本部の概要

当本部の救助隊の現状は、上尾市中央部分を縦断しているJR高崎線を境に東西の署で1隊ずつ計2隊を有しています。

また、平成27年4月より緊急消防援助隊に特殊装備部隊として3t重機及び搬送車が総務省消防庁より配備され、令和元年6月1日からは埼玉県土砂風水害機動支援部隊として運用しています。

【写真1 アッピー 伊奈ローズくん】

2 土砂に対する基礎知識

⑴ 安息角について

  安息角については、学問的な解釈や消防機関の慣例による解釈などがあるため、今回は「令和元年度救助技術の高度化等検討会報告書 土砂災害時の効果的な救助手法について」の解釈を以下、引用させていただきます。

安息角とは粒状体が崩れないで安定しているときの水平面からの傾斜を言います。地盤工学では、砂や礫などの粘着力の無い土の斜面が安定を保ちうる最も急な傾斜角を言います。

自然に存在する粘土を含む土や、水分を含む砂礫が作る傾斜角は、厳密な意味では安息角とは言えません。一方、消防機関が行う砂の掘削や移動を伴う訓練においては、砂が安定している角度を安息角と呼び習わしています。この傾斜角は、自然含水状態の砂を用いていること及び砂が粘着力を有していることもあるため、学問的な意味では「安息角」とは言いがたく、見かけの安息角というべきものでありますが、本報告書では消防機関の慣例に従って、「安息角」と表現します。

  このような意味での安息角は、土の種類や水の量によって大きく変わります。水が極めて多い場合及び乾燥している場合には小さくなるが、適度に水を含んだ状態だと大きくなります。乾燥すると小さくなることから、例えば掘削した直後は安定していた斜面でも、乾燥に伴い崩れてくることがあります。このことには注意が必要です。

  安息角の考え方を用いると、掘削で移動しなければいけない土砂の量を見積もることが出来ます。例えば、安息角を仮に30度としたとき、要救助者付近を約1mまで掘り進めるためには、計算上、下図の通り水平方向に約1.7m(√3)の位置から、円錐状に掘削していけば安息角が確保され、土砂が深部へ流れ込むのを抑えることができます。

【写真2 安息角(図)】

⑵ 土圧について

  土圧とは地中の構造物や埋設物が上下左右から受ける土の圧力のことを言います。

埋没した要救助者に対し、周囲の土砂が水平方向に掛かる圧力のことで、全方位から要救助者を圧迫し、深いところほど土圧は大きくなります。

3 救出活動時の留意事項

 ⑴ 安全管理

  ア 安全監視

救出活動時の局所的な安全管理として土砂災害の再発生等の前兆現象や危険要因の変化等を監視し、異常や異変を察知すれば活動隊員へ周知し、迅速な退避を促します。

次に挙げる現象には注意が必要です。

(ア) 水の流れていない渓流からの急な流水の発生

(イ) 渓流を流れている水の突然の濁りの発生

   (ウ) 渓流を流れている水の急な減少

 (エ) 斜面からの複数の小石の落下

  (オ) 斜面からの急な湧水の発生

   (カ) 斜面での急な樹木の傾きや倒木の発生

 (キ) 斜面の亀裂の拡大

  (ク) 異常な音、腐った臭いなどの異変

 (ケ) 土石流の発生

イ 自己確保

現場が転落の危険性があると思われる場合にはフィックス線等を設定し自己確保を取ります。隊員は巻き込まれた際に脱出、救出できるよう、自己確保ロープなどで繋がっておくことも有効でありますが、支持点自体が土石流等の再発生想定区域内で設定した場合、ともに流されることも考えられることや緊急退避の際、逆に自己確保ロープが隊員の退避を妨げる場合も考えられるため、現場の状況を臨機に判断し、その自己確保が何に対して必要なのかをよく検討した上で設定の有無を決定します。

ウ 進入統制

特に災害の全容が把握できておらず、また土石流の再発生確率が高いと思われる初期での要救助者へのアプローチについては進入する隊員はできるだけ少数で実施します。退避経路上においても、万が一、土石流等が再発生した際には速やかに避難できるよう人員、資器材等を置かない等の統制を行います。

4 掘削時の基本

 土質にもよるが掘削し続ければ、当然、掘削面の角度は徐々に急となり、土砂が流れ込みやすく、また崩壊する可能性が高くなります。対処法として掘削範囲を拡げ、急な掘削面を解消することで土砂の流れ込みや崩壊を防止することができます。ただし、掘削範囲を拡げることは、掘削する土の量が増し、人力での掘削では時間や労力が大幅に増すことから、必ずしも最良の手段とはなりません。また、掘削する量を減らすために、周りの土砂が自立する力を高める方策(水の量を減らす、支持する物をいれるなど)を検討します。限られた範囲で掘削する場合、土を留める手法として応急土留めがあります。

【写真3 掘削時の基本(図)】

5 個人防護装備について

 埼玉県土砂風水害機動支援部隊では、令和4年度の合同訓練において下の写真【写真4 個人防護装備】のような個人防護装備で訓練を実施しました。

これは、過去の土砂風水害現場において活動した隊員の意見を基に、土壌汚染や破傷風などから身体を防護するため、胴長靴や合羽のズボンなどを着用した活動をしています。

現場に応じた適切な個人防護装備を選定し、活動することが大切だと考えています。

                                   

【写真4 個人防護装備】

6 応急土留め

 一般的に土留めとは、掘削面の崩壊を防止するために設置する構造物を言います。

 消防機関は、土砂災害時において、掘削した際にかかる土圧を保持する又は掘削部へ周囲から流入する土砂を留める目的でコンパネなどを用いて簡易的な構造物を設定することがあります。このような応急的な対策を令和元年度救助技術の高度化等検討会報告書では「応急土留め」と呼びます。

 土砂を留める手法としては、土のう等を用いた水防工法や矢板、H型鋼を用いた土木工法など様々なものがあるが、ここでは救助活動を行う上で比較的、容易に入手可能なコンパネと単管パイプ(杭)を用いた応急的な手法の一例を紹介します。

 実際の土砂災害現場では、土質や水分量、土砂に含まれる根や倒木などの状況により、応急土留めの強度も大きく異なることから、現場の状況に応じた設定をするとともに、応急土留めの効果を過信することなく、常に応急土留め及び周囲の状況を監視します。

 ⑴ 使用資器材 ※数量は適宜

  コンパネ(土留め板には隅切りしたものを使用)

  単管パイプまたは杭(150cm、200cm)

クランプ

  ハンマー

掛け矢

スコップ

電動スコップ

シャベル

てみ

バケツ

ロープ

要救助者用自己防衛装備

胴ベルト型墜落制止用器具(安全帯)

※以後、「安全帯」と表記します。

担架等 など

【写真5 使用資器材】

⑵ 単管パイプ、杭について

下の写真【写真6 単管パイプ(先端金具、打ち込み座金)】のように、単管パイプに打ち込み用の先端金具(円錐形)と上部側に打ち込み座金を取り付けています。先端金具があると土中に石等があっても打ち込みやすくなります。打ち込み座金があると、ハンマーで打ち込んだ際に単管の上面が歪みにくくなります。

当本部では、打ち込みに適した杭【写真7 杭】を併用しており、今回の訓練においては杭を使用しています。

【写真6 単管パイプ(先端金具、打ち込み座金)】

【写真7 杭】

また、コンパネを打ち込む際に杭(単管パイプ)の打ち込んだ深さがわかるように赤テープで上端から20cmの位置を明示しています。

杭(単管パイプ)の長さについては応急土留め用のコンパネが90cmで杭(単管パイプ)の長さが150cm程度あれば、コンパネ上部を20cmほど余らせて打ち込んだとき、約40cmが地中に入ったことになります。

【写真8 単管パイプ・杭の表示について】

⑶ 平坦地での応急土留め設定方法

  ア 初めは小型のハンマー等で杭(単管パイプ)を打ち込みます。

    肩から胸部付近まで打ち込み、大型ハンマーに持ち替えます。

コンパネを立て、左右均等にコンパネが支えられるように杭(単管パイプ)の位置を決め、まっすぐ真下へ打ち込みます。

【写真9 応急土留め設定の流れ(平坦地)(ア)】

  イ コンパネを杭(単管パイプ)に沿わせて立てます。

赤テープがコンパネで見えなくなるまで杭(単管パイプ)を打ち込めば、土中に40cm打ち込んだ目安となります。

 この時点でコンパネが打ち込める地盤であれば、打ち込みは可能です。

【写真10 応急土留め設定の流れ(平坦地)(イ)】

  ウ 掘削する反対側にも杭(単管パイプ)を打ち込みます。

    コンパネを挟み込むように杭(単管パイプ)2本を打ち込み、ロープで固定します。

また、杭(単管パイプ)でコンパネを挟むことで打ち込む際のレールの役割となります。

    打ち込む前に結索することで杭(単管パイプ)が安定し、支えなしで打ち込むことが可能です。

 【写真11 応急土留め設定の流れ(平坦地)(ウ)】

  エ 掘削しながら、コンパネを打ち込んでいきます。

    コンパネを打つ際は木材等を当てて掛け矢で打ちます。

無理なコンパネの打ち込み、金属ハンマー及び当て木なしの打ち込みはコンパネが破損します。

 【写真12 応急土留め設定の流れ(平坦地)(エ)】

また、掘削しコンパネの打ち込みを続けると、地中部分の杭(単管パイプ)が短くなり、土圧を支えられなくなるので、コンパネの打ち込みと並行して杭(単管パイプ)を打ち込みます。

土質にもよりますが、30cmから40cmは杭(単管パイプ)が土の中に打ち込まれた状態を保ちます。

コンパネ上端が杭(単管パイプ)の赤テープより下方になれば、地中の杭(単管 パイプ)が短くなっている目安とします。

⑷ 傾斜地での応急土留め設定方法

  平面での応急土留めに比べて、斜面の場合には下図のように山側の土砂量が土圧として余分にかかることになります。そのため、応急土留めを支える力を増やす必要があります。

また、谷側を不用意に掘削すると地中にある杭(単管パイプ)の保持力が落ちるため、さらに地中深くまで打ち込むか杭(単管パイプ)の本数を追加し、補強します。また長めの杭(単管パイプ)を深く打ち込むことでも応急土留めの強度が増します。

傾斜地においては、要救助者にかかる土圧には方向性があり、山側に応急土留めを行うことで土圧を排除することができ、土砂の再流入も防げます。

【写真13 傾斜地での応急土留め(V字)】

【写真14 傾斜地での応急土留め(一文字)】

7 救出活動要領

⑴ 救出活動

ア 活動初期(要救助者発見から掘削活動開始まで)

検索活動により、要救助(埋没)者の位置が特定された、または身体の一部が露出し、目視で確認できた要救助者に対して接触するまでの活動は下記のとおりです。

  •  周囲の状況を確認し、状況に応じて、自己確保を設定します。

活動スペースの確保かつ隊員の荷重を分散させる(要救助者への局所的な圧迫を防止し、土砂の再崩壊を避ける)ため、要救助者の周囲にグラウンドパッド(コンパネ等)を設定します。斜面等でグラウンドパッドが設定出来ない場所では土のう等で足場の安定化を図り、救出活動に入ります。

  •  要救助者の一部が確認できる場合は速やかに顔、胸部付近までの土砂を手掘りで掘削し、土圧による呼吸抑制を取り除きます。その後、状況に応じて両上肢を出し、安全帯で要救助者を確保します。また可能であれば、腰部や両下肢がどのような状態にあるかを確認、もしくは推測し、救出時の掘削方向や掘削量の把握、排出土砂の位置等、救出プランの検討をします。

イ 掘削活動

要救助者の呼吸保護、安全帯による確保が整い、埋没の状態を把握、もしくは推測した上で救出プランを立て、掘削を開始します。埋没の深さが1m前後で要救助者周囲にスペースがあれば、要救助者から約1.5~2m離れた位置から掘削を始めます。離れた位置で安息角が取れれば、土砂の流入は少なくなります。

また、要救助者への接触を気にすることなく、ショベル等での掘削が可能で、土砂を排除する効率も上がります。要救助者から(1.5m程度)離れた位置であっても土砂を排除することで要救助者にかかる土圧は軽減されるため、有効です。ただ、掘削範囲を広くとることは、掘削量が増え、人力での掘削では時間や労力が大幅に増すことから、状況に応じた範囲を設定する必要があります。

埋没状態が直立である場合は特に要救助者の埋没部位がより深くなり、土圧はさ らに高く、また掘削が深くなれば、掘削面が不安定となり、土砂の再流入が多くなることから、コンパネでの応急土留めが必要となります。

活動の注意点として、土砂とともに要救助者の周囲に埋没している岩や樹木、建物倒壊による木材などが、救出活動、掘削の際に要救助者を圧迫し、二次的な負傷を発生させることも考えられるので、常に要救助者の状態を観察しておきます。

ウ 要救助者搬出

掘削や応急土留めの設定により、要救助者の膝付近まで土砂排出ができたとき、活 動隊員は急いで足を引き抜こうとしてしまうことがありますが、膝下からの土圧は想像以上に掛かっており、容易には引き抜くことはできません。このとき、両足が揃って埋まっている状態であれば、片足を集中的に手掘りし、抜くことで反対の足も容易に抜ける場合があります。

⑵ 土砂搬送要領

  大量の土砂を掘削、排除する場合に必ず必要となるのが掘削土砂(残土)の堆積場所です。掘削場所付近に土砂の堆積を続けるといずれ置き場がなくなり、活動スペースが減少するだけでなく、周囲の土圧の増加や土砂の再流入を発生させる一因となります。

  そのため、離れた位置に残土の堆積場所を設定し、土砂搬送を行う必要があります。堆積場所については活動に影響の少ない場所、かつ要救助者から3m以上離れた場所を目安とします。

参考までに埋没深さ1.5mに対し、半径2.6m内が土圧として要救助者に影響します。

ローテーション(休息)も含めた人員が確保できるのであれば、土砂の排出方向を決め、

ベルトコンベアーやバケツリレーの要領で隊員を並べ土砂を流します。土砂を流すところには、ベニヤ板等を敷くと作業性が上がります。

【写真15 土砂搬送要領を用いた要救助者救出のイメージ】

8 救出活動手順(応急土留めを用いた救出活動手順)

⑴ 周囲の状況確認(安全確認)

  ア 要救助者の把握をします。

  イ 再発生の可能性及び再崩落の危険性を確認します。(活動指示)

  ウ 現場が安定していると判断した場合は要救助者へのアプローチを優先します。

  エ 不安定である場合にはフィックス線、自己確保を設定した上で進入させます。

 【写真16 周囲の状況確認】

⑵ 要救助者接触までの地盤安定化

  ア 進入隊員は要救助者への土圧増加による負担や再崩壊を避けるため、少数とします。

イ グラウンドパッド設定のため、必要に応じて地ならしを行い、進入退避経路及び活動スペースを確保します。

【写真17 要救助者接触までの地盤安定化①】

  ウ グラウンドパッド上で活動することで隊員の荷重を分散させ、地盤の安定化を図り、かつ要救助者への直接的な圧迫を緩和します。

【写真18 要救助者接触までの地盤安定化②】

⑶ 要救助者と接触

  ア 要救助者付近に到達すれば、頭部位置を確認、可能であれば、速やかに顔、胸腹部付近まで手掘りで掘削し、呼吸抑制を取り除きます。

【写真19 要救助者と接触①】

  イ 要救助者のPPE装着、さらに手掘りで脇辺りまで掘り進め、安全帯などで確保します。

  ウ その後も手掘り、掘削活動を継続します。

 【写真20 要救助者と接触②】

⑷ フィックス線の設定 ※「⑶ 要救助者と接触」と並行して実施

ア 土砂崩壊による転落や巻き込まれる危険性があれば、フィックス線を張り、自己確保ロープを設定します。

イ 周囲に支持点がない場合、杭(単管パイプ)等を用いて作成します。

   ※ハンマーで打込む際、要救助者を小石などの飛散物から板等で遮蔽し、保護します。

【写真21 フィックス線設定①】

  ウ 主な土砂排出方向や隊員進入方向を要救助者の前方、救出方向を後方とし、要救助  者の前後にフィックス線を設定します。

【写真22 フィックス線設定②】

  エ フィックス線の設定が完了すれば、要救助者、進入隊員の自己確保を取り付けます。

 【写真23 フィックス線設定③】

⑸ グラウンドパッド位置修正

  ア 四方を応急土留めで囲えるようにグラウンドパッドを敷きなおします。

  イ グラウンドパッドの位置は要救助者の背面から約50cmの位置に設定し、それを基準に側面、前面とそれぞれ設定します。

 【写真24 グラウンドパッド位置修正】

⑹ 応急土留めの設定

  ア 要救助者の側面からグラウンドパッドの位置を基準に応急土留めを設定します。

【写真25 応急土留めの設定①】

イ 両側面の応急土留めを同時に設定してもよいが、内部の掘削を同時に行う場合は進入隊員とハンマー等が干渉しないように注意します。

【写真26 応急土留めの設定②】

  ウ 要救助者の背面に応急土留めを設定する場合は、コンパネを半分に切断したもの  を使用し、後方への救出ルートを確保します。

※要救助者の背面に設定する応急土留めについて、コンパネを半分に切断したものを使用すると、救出・搬送時に効果的です。

  エ 要救助者の前面は隊員の進入、土砂の排出ルートとして活用するため、序盤は設定しません。

オ 掘削を続けていくことで土砂の再流入により、掘削が困難となれば、前面にも応急土留めを設定します。

【写真27 応急土留めの設定③】

カ 土砂の排除により、要救助者前方の土砂の再流入が発生する場合は前方に応急土留めを設定するか土砂が流れ込まないように前方を広く掘削します。

【写真28 応急土留めの設定④】

⑺ 掘削活動

ア 呼吸抑制排除後は応急土留め設定と並行して隊員1、2名で手掘り、ショベルで

土砂を排除します。

イ 人員に余裕があれば、要救助者前方の安全な位置から土砂をショベルで一気に掻

き出し、進入隊員の掘削を補助します。

【写真29 掘削活動①】

ウ 進入隊員が応急土留め下方の土砂を排除することで、順次、コンパネを打ち込んでいくことができます。

【写真30 掘削活動②】

エ 進入隊員はコンパネ打ち込みと並行して要救助者周囲の手掘りもしくはショベルより応急土留め内側の土砂を排除します。

【写真31 掘削活動③】

オ 進入隊員は要救助者の下腿部付近までの土砂が排除できれば、要救助者の膝裏から腕を入れ、ゆっくり動かして抜けるかどうか確認し、可能であれば搬出作業に移行します。まったく動かない場合やかなりの痛みを訴える場合は無理に引き抜こうとせず、掘削を継続します。

【写真32 掘削活動④】

⑻ 搬出活動

  要救助者の下腿部が開放されれば、応急土留めの内側と外側に隊員を配置し、要救助者

を後方へ搬出します。

【写真33 搬出活動①】

【写真34 搬出活動②】

【写真35 搬出活動③】

9 +α(トレーニングキットでの事前訓練)

当本部では、重機訓練場を整備しているものの、砂、礫等の比較的粘着力のない土質での訓練環境がありません。そのため、安息角、土圧に対する認識を深めること、土砂埋没救助要領に関わる応急土留め、救出手順等を習得することを目的とした「土砂埋没救助要領トレーニングキット」を作成して、事前訓練に励んでいます。

これは、衣装ケースに比較的粘着質ではない砂を入れ、各資器材等を約1/10スケールにて作成したものです。

【写真36 トレーニングキット①】

【写真37 トレーニングキット②】

10 おわりに

今回「土砂埋没救助」について執筆させていただきましたが、近年多発している土砂風水害の災害においては、複雑な現場での土砂埋没救助をすることが想定されます。今回執筆させていただいた内容は土砂埋没救助の基本についてですが、全国の救助隊員の活動に少しでも参考となり、我々の最大の目的である「要救助者の社会復帰」に繋げることが出来れば幸いです。

また、この場をお借りして、執筆する機会をいただいた玉川先生、今回の訓練場所を提供してくださった串橋建材株式会社様には厚く御礼申し上げます。

参考文献

総務省消防庁:令和元年度 救助技術の高度化等検討会報告書 

土砂災害時の効果的な救助手法について

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